高級ホテル誘致構想に異論噴出 世界遺産の島・宮島が揺れている 「包ヶ浦の未来」で議論

世界遺産・厳島神社の大鳥居の大規模改修工事が去年末に、およそ3年半の歳月をかけ完了。

それを記念した「週末花火」では、閑散期にもかかわらず、のべ3日間の開催でおよそ4万6000人が島を訪れました。5月に開かれるG7広島サミット後には、国内外から多くの観光客が宮島を訪れることが期待されています。そんな宮島に新たな開発計画が浮上しています。ところが…。

地元参加者
「いきなり『開発しますから、みなさん、ご理解ください』では、わたし、絶対ないと思うので」

高級ホテル誘致の構想に異論が噴出…。宮島が揺れています。

小林康秀 キャスター
まずは、宮島の来島者数を振り返ってみましょう。1978年(昭和53年)からの来島者数データですが、世界遺産に登録された1996年は298万人で、その後もおおむね300万人…。2012年の大河ドラマ「平清盛」の放送以降は右肩上がりに推移して、2019年にはインバウンドの影響もあり、465万人を突破し、過去最高を記録しました。コロナ禍でこの3年は激減しましたが、これから回復に期待をしている「世界から人を呼べる広島の重要なコンテンツ」です。

そんな中、宮島に新たな開発計画が、持ち上がりました。それが、こちら!

島の東側…、厳島神社や商店街とは反対側にある包ヶ浦自然公園に、国内外の富裕層をターゲットにした宿泊施設を誘致しようという計画が持ち上がりました。先週、初めて説明会が開かれたのですが、計画への異論が続出しました。なぜなんでしょうか?

先週2月1日、宮島で「地方における今後の宿泊施設のありかた」と題して、勉強会が開かれました。

廿日市市 松本太郎 市長
「世界の一流といわれる観光地の仲間入りをするために今、わたしたちは何を活動しなければいけないのか。そのことを考えていきたいと思います」

去年2月、観光庁が自治体などの上質な宿泊施設誘致を支援する事業で、廿日市市は全国10の地域の1つに選ばれました。

観光庁 柿沼宏明 観光課長
「外資が悪い、国内資本が良いとかそういう話ではない。地域のみなさまとの結びつきを強めるように。地域のため、地域貢献となるような改修は必ず入れてくださいと言っている」

廿日市市によりますと、事業の選定後、すでにいくつかの事業者が包ヶ浦を訪れたということです。専門家からはこんな意見も…。

アトリエラパズ 永原総子 社長
「トラベルデザイナーとしては、まだまだ宿が足りないのではと思っています。宮島には年間460万人の入込客数があるということですが、10%も満たない宿泊人数と聞いています」

しかし、地元からは…。

質疑になると、参加した地元の関係者60人からは、計画への疑問が相次ぎます。

地元参加者たち
「宮島の包ヶ浦は、“昔から何をやっても駄目だ”。伝説があるんです」

「動植物の生態系がどう変わっていくのか。人が入って、どう変わっていくのか知りたいです」

「あそこはビオトープにしていただきたい。ミヤジマトンボ、ヒメボタル、こういうものを絶対になくさないようにしてほしいと思います」

「高い建物を建てれば、または高い単価で泊まれるホテルを建てれば、宮島は潤うという考え方はやめてほしいと思います」

地元関係者からは、「住民へ周知がされていない」「自然環境や生態系への影響」など不安の声が上がりました。

では、その「包ヶ浦」とは、どのような場所なのでしょうか?

『包ヶ浦』って、どんな場所?

包ヶ浦自然公園の現状を訪ねました。

藤森憲也 記者
「こちらが、開発が検討されている包ヶ浦自然公園です」

宮島桟橋から東におよそ3キロ、徒歩でおよそ40分、車でも10分ほどかかります。広さは15.5haで、200メートルの砂浜からは広島市内も見渡せます。

1978年にオープンして、廿日市の子どもたちにとっては、遠足といえば、包ヶ浦と言われるほど…。夏には海水浴場やキャンプ場としてにぎわっていました。

1991年には過去最高の16万人を超える利用があり、宿泊の売り上げが1億円を超える年もありました。2016年にはリニューアルを図りましたが、2019年以降、コロナ禍に入ると1万5000人まで落ち込んでいます。年間2200万円にも上る維持管理費も財政負担となっています。

廿日市市 松本太郎 市長
「観光庁の上質な宿泊施設の開拓事業に採択され、さまざまな事業者とのマッチングの機会を設けられたのは、大きな転機になると考えています」

松本市長は、宮島を含め廿日市市全体の波及効果に期待しています。

しかし、コロナ禍で苦戦が続いた25軒が加盟する旅館組合の代表は…。

宮島グランドホテル有もと 有本隆哉 専務
「出来レースみたいな形で、もう進めることを市の方としては前提に話をされるので。われわれとしては、ちょっとあきれるしかないというのが正直。われわれ旅館組合の立場としては、これは容易に受け入れられないなというところがありました」

新たな宿泊施設の進出に、戸惑いが隠せない様子です。

宮島の対岸・宮浜温泉で宿を経営する 上野純一 代表は、宮島は、「観光地として発展する可能性あがる場所」だと言います。

庭園の宿 石亭 上野純一 代表
「(包ヶ浦は)玄関口として最も開けた場所の1つでもありますから。そこをどのようにするのか。宮島の人たちにとって、また広島、あるいはハイエンドな世界の観光地のトップの1つとして役割が担える場所になっていけるのか。本当におもしろい。扉が開いたと思いました」

会合の最後に、松本市長は、地域の理解が必要だとあらためて強調しました。

廿日市市 松本太郎 市長
「宮島は世界遺産なので、世界に対してわたしたちはしっかりと責任を果たしていかなければならない。持続可能な観光地として次世代に継承するという強い意気込みを持って、世界の責任を果たしていかなければいけないと思います」

10月からは訪問税の徴収が開始される世界遺産の島・宮島。「上質な宿泊施設」が、宮島ブランドの価値向上につながるのか? 2025年の開業を目指し、廿日市市と地元関係者による協議が始まりました。

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