香坂みゆきの魅力!80年代の女子はどんなことを考え、どんな恋愛をしていたのか?  いよいよ配信スタート! 自身の思い入れの強いアルバム2タイトル

香坂みゆき2枚のオリジナルアルバムを配信

昨年、香坂みゆきは歌手デビュー45周年を迎え、約31年ぶりに新曲を発表。ブランクをまったく感じさせないナチュラルな歌声でファンを驚かせてくれました。さらにポリドール時代のオリジナルアルバム9タイトルや、“早すぎたカヴァーアルバム” と呼ばれた『CANTOS』シリーズ3タイトルの配信も始まり、“シンガー・香坂みゆき” の評価が高まっています。

そんな香坂みゆきは2月7日で還暦を迎えますが、そんなおめでたいタイミングで、フォーライフ在籍時代の1987年に発売された『ヌーヴェルアドレッセ』と1988年に発売された『ラ・ヴィ・ナチュレル』の2枚のオリジナルアルバムが配信されます。昨年、リマインダーで香坂みゆきさんにインタビューをさせていただいたのですが、このアルバムは香坂さん自身もとても思い入れの強いアルバムだそうです。

80年代中盤に流行したクワイエット・ストームとは?

少し話は逸れますが、80年代中盤に「クワイエット・ストーム」というジャンルが流行していました。これはコンテンポラリー・R&B、ジャズ・フュージョン、ポップ・ミュージックなどの影響を受けたソフト&メロウな曲調の楽曲を指す言葉でした。

1987年に和田加奈子が『QUIET STORM』というタイトルのアルバムをリリースしていますが、同時期に発売された、渡辺真知子『Soi(ソア)』(1987年)や岩崎宏美『Me too』(1988年)にも同じような空気感を感じます。この時代に発表された作品のいくつかは昨今のシティポップブームで再評価されていると思いますが、香坂みゆきのこのアルバムも、ここに並ぶにふさわしい名盤だと思います。

バブル時代に “不倫” がブームになりましたが、当時は今のように大問題になることもなく、世の中の人々はもう少し自由に恋愛を楽しんでいたように思います。スマホやインターネットもない時代ですから、恋愛すること自体もレジャーのひとつだったかもしれません。しかし、家庭のある人を好きになってしまった女性たちは、結局傷つくことになりますーー。

そんな彼女たちの心の声を、クワイエット・ストーム的なアレンジで表現した作品が、80年代の後半に多くリリースされていました。しかし、そんな主人公である彼女たちは、少し傷ついたとしても、同時に強く生きていくしぶとさや、ズルさも持ち合わせていました。それが80年代後半の歌詞に出てくる女性たちの特徴だったかもしれません。

レコード会社移籍後にリリースされた「ヌーヴェルアドレッセ」

香坂みゆきがフォーライフに移籍した1987年は、恋愛を自由に謳歌する時代であり、すでにレーベルメイトの杏里と今井美樹が女性たちを中心に支持されていました。香坂みゆきのアルバム『ヌーヴェルアドレッセ』が発売されたのも同じく1987年。全曲の作詞を吉元由美、編曲を瀬尾一三が手がけた完全なるコンセプトアルバムです。アレンジは瀬尾一三が手がけていますが、昨今のシティポップブームで人気のある八神純子の『ロンリーガール』と『FULL MOON』のアレンジも瀬尾一三です。瀬尾さんはAOR的なアレンジをさせたらピカ一のアレンジャーだと個人的に強く感じております。

アルバム『ヌーヴェルアドレッセ』は、当時のレコード会社のディレクターが、いくつかの映画のタイトルを作詞の吉元由美に渡し、このタイトルで歌詞を書いて欲しいという依頼により制作されたアルバムでした。3曲目の「ラストショー」は杏里の作曲ですが、杏里自身も同年に発売し、極めてクワイエット・ストーム的な作品だと思えるバラードセレクションアルバム『meditation』の中でカヴァーしている曲です。

4曲目の「生活の設計」は尾崎亜美が作曲を手がけた曲ですが、どんなタイプの曲もサラッと歌いこなしている香坂みゆきのヴォーカリストとしての力量にも注目していただきたいです。このアルバムには「先着2万名様に気鋭のハードボイルド作家、大沢在昌書きおろし短編小説『ヌーベル アドレッセ』(8作品・ペーパーバック)付!!」と記載されていますが、バブル期ならではの豪華な仕様ですよね。

「ラ・ヴィ・ナチュレル」にはニューウェイヴ的なアレンジも

翌年発売された『ラ・ヴィ・ナチュレル』は、ニューウェイヴ的なアレンジの楽曲も収録されています。

オープニングを飾る「THIS IS MY NIGHT TO CRY」はシングル「神無月にかこまれて」のB面に収録されているのですでに配信されていますが、ダンサブルなアレンジの曲の人気曲です。

4曲目の溝口肇の作曲によるインストナンバー「HERE'S THE RAINY DAY」は打ち込みのドラムが印象的なサウンドですが、こういうインスト曲を挟み込む手法もバブル期ならではの作品の特徴かもしれません。

ラストを飾るメロウなバラード「I STILL BELIEVE IN YOU」はクリスマスソングなので、今年からクリスマスソングのプレイリストに加えたい名バラードです。

昨年、香坂みゆきさんにインタビューをさせていただいた時に、当時(20代)の私たちがどんなことを考えて、どんな恋愛をしていたか、今の20代の人たちに聴いて欲しいとおしゃっていたのですが、80年代後半はバブルの影響もあり、物事の価値観や捉え方は明らかに現代と違っていたかもしれません。

当時は、とにかくCDが売れていたので、サウンド作りにおける制作費も潤沢にあった時代です。そんな時代に作られたゴージャスなアルバムを、この機会に是非聴いていただきたいと思います。サブスクというのは、出会った時が新曲だと思うので、ひとりでも多くのみなさんに、この素敵な作品が届きますように。

カタリベ: 長井英治

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