久保田徹がミャンマーを撮る理由…そこで生きなくてはいけない人々、現実を伝えるために

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。「フラトピ!」のコーナーでは、キャスターの堀潤が映像作家の久保田徹さんを取材。“ミャンマーの現状”について伺いました。

◆国軍に拘束された久保田さんが語るミャンマーのリアル

クーデターから約2年、国軍が実権を握るミャンマーで昨年7月に拘束された久保田さん。昨年11月に解放され、現在は無事に帰国しています。彼は2014年よりロヒンギャ難民の取材を開始し、度々ミャンマーに渡りドキュメンタリー映像を制作。

現地の方々の声を映像に収め、伝える活動を行うなか、突如いわれのない罪で拘束されました。

まずは拘束されていた4ヵ月間、どんな思いでいたのか聞いてみると「いろいろな思いが錯綜していたが、一番は悔しい気持ちが強かった」と振り返ります。

さらに「自分がやるべきこと、撮るべきだと思っていたことがあったので、それが途中でできなくなってしまい、悔しさと絶望感、そして楽観的な気分というか、そういうものが全部波のように混ざっているような気分だった」とも。

なぜ久保田さんはミャンマーを撮り続けてきたのか。その理由は、これまでミャンマーに何度も赴き、現地にたくさんの友人がいたから。そして、クーデター以降は特に現地に残っている友人のことを気にかけていたと久保田さん。国外に亡命した友人もいる一方で、現地で人道支援活動をしている友人もいたため「彼らに会いに行き、その姿を伝えることで、今のミャンマーで生きなくてはいけない人々、現実が伝わると思った」と語ります。

日本での報道は軍の動きなど政治的なことが中心。堀は「そこで暮らしている人々の日常はほとんど触れる機会がない」と言い、久保田さんが現地で収めた映像の一つひとつがとても貴重だと話します。

自身が撮る映像について「僕がやっていることは、記者やジャーナリストの活動と似ているが必ずしも一致しているわけではなく、情報以上に生きている人間の姿、友人やそのコミュニティで生きている人々の現実を映像にするのが自分の仕事」と久保田さん。

2018年に撮影したミャンマーのヤンゴンの映像には、街の中心部で行われていた内戦反対のデモの様子が収められています。これは国軍による殺りく行為や虐殺に反対するデモでしたが、久保田さんは「このときも何人か逮捕されていたが、今はこのときとは全く状況が違う」、「今であればこうしたことはあり得ない」と現地の変化について言及。

現在のミャンマーは、映像のように声を上げることも許されず、民主主義を標榜する国であれば当たり前に保障されていたものさえも奪われてしまい、「平和なデモ隊に国軍の車が突っ込み、ひき殺していくということすらある」と説明。

◆ジャーナリズム、現地の声が届かないミャンマーのために

久保田さんが拘束された際、1枚の写真がメディアに流れました。そこに写っていたのはデモで使用された横断幕を持っている久保田さんの姿でした。

しかし、これは真実とは程遠いもので「捕まった直後に横断幕を持たされ、デモに参加していたというでっちあげの証拠として撮られた」と久保田さん。しかも、この写真が裁判において証拠として使用されたそうで「去年も4人に死刑が実際に執行されたが、そうした人の命を奪う判決ですら、でっちあげや正当な手続きを踏まずに行われている可能性はある」と恐ろしい状況を明かします。

現在、ミャンマーは中国に続いて2番目にジャーナリストを拘束している国であることに触れ、「伝える人々をどんどん拘束していっている。そうすると、現地の声はどんどん届かなくなる」と憂い、「現地のジャーナリストたちも本当に命懸けでやっていると思います」と久保田さん。

そうしたなか、彼は今、ジャーナリストや情報を発信する人たちを支援する取り組みを開始。「亡命中のミャンマー人のジャーナリストたちに発表の場を提供し、例えば、彼らの映像作品を購入でき、視聴者が支援できるような仕組み、プラットフォームを作れたら」と展望を語ります。

これには堀も「それはすごい重要。アジアの中でも表現の自由が発揮できる地域は実は限られており、日本だからこそやらなくてはいけないことは、そうした発信者のハブになり、伝えていくこと」と賛同。久保田さん自身「自分が自由を奪われたからこそ、そのありがたみ、空気のように存在していた発言の自由や発信の自由というのが、この場所ではこんなにあるんだというのを感じた」と実感を語り、「国外にいるミャンマー人を支援、募金などができる仕組みや、日本政府に訴えかけていくようなアクションを作っていったり、いろいろとできることはあると思うので、そうしたことを今後やっていきたい」と力強く話していました。

◆今、我々がミャンマーのためにできること

ミャンマーの歴史を振り返ってみると、1988年に軍事政権下で民主化運動が起こり、1990年にNLD選挙大勝も軍は変わらず、2011年に民政移管。そして、2016年にNLD政権が発足します。しかし、民主主義の国としてさらに発展をという矢先、2021年に軍がクーデターを起こし、暴力によって政権を奪取しました。

また、ロヒンギャをはじめとする少数民族に対しての弾圧は今なお続き、空爆や焼き討ちなど、報道されていないだけで深刻な人権侵害が行われています。さらには食料、貧困の問題も大きく「報道が少なくなったからといってミャンマーは落ち着いたわけではない」と堀。そうしたなかで支援活動を行う久保田さんを改めて称えます。

インスタメディア「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さんも、帰国後に久保田さんと話をする機会があり、ロシアによるウクライナ侵攻以降「ニュースの幅が狭くなり、忘れているわけではないが自分たちの意識も薄れている、考えることが後ろ回しになっていることがすごくたくさんある」と危惧します。

平和教育を研究する東京大学3年生の庭田杏珠さんは、「国家間では安全保障が重視されてしまい、そこにばかり目が行きがちだけれど、市民の平和というところをもっと大切にしていく必要がある」と声を大にし、「G7などでも市民の声を聞き入れつつ、いかに核廃絶、軍縮を進めていくのかが大事。久保田さんの出来事からいろいろなことが考えられると思った」と感想を口にします。

堀も「人間の安全保障、私たちが連帯していく、共有していくべきことがたくさんある」と共感しつつ、最後に「久保田さんの今後の活動にもぜひ注目してほしいし、ミャンマーで今何が起きているのか。久保田さん自身がニュースになることで終わらず、その先にある市民の暮らしに思いを馳せていただきたい」と訴えていました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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