iDeCo「障害給付」で注意すべきポイント、老齢給付と異なる点は?

iDeCoの給付には「老齢給付」「死亡給付」「障害給付」の3つがありますが、老齢給付以外はあまり情報がないのが現状です。前回は加入者が死亡した場合の取り扱いについて解説しましたので、今回は障害を負った場合について見ていきます。


障害給付の受給要件

障害給付は、75歳までに病気やけがなどで以下4つの受給要件に該当した場合に、請求することができます。

・障害基礎年金1級または2級の受給者
・身体障害者手帳1級から3級までの交付を受けた方
・最重度または重度で療育手帳の交付を受けた方
・精神障害者保健福祉手帳1級または2級の交付を受けた方

障害給付の請求は、金融機関に申し出ます。「裁定請求」を受けた金融機関は、そこで運用商品を現金化し給付額を決定します。請求は本人、あるいは配偶者または3親等以内の親族による代理請求が可能です。必要書類などは、金融機関に確認します。

障害給付は原則、年金形式で受け取りますが、全額を一括で受け取ったり、一部を一時金、残りを年金形式で受け取ったりすることも可能です。また、年金形式で5年以上受け取ったあとで一時金に変更することもできます。老齢給付よりも柔軟な受け取りが認められています。

また老齢給付を受給中に、上記の障害給付受給要件に該当した場合は、75歳までであれば障害給付に切り替えることができます。老齢給付は退職所得控除、あるいは公的年金等控除後の所得に対し課税されますが、障害給付は受け取り方にかかわらず、全額非課税で受け取れます。

また受給要件に該当したとしても、必ず請求しなければならないという訳ではありません。障害給付を受け取らず、そのまま加入(積立)を継続することも可能です。

障害状態とは?

障害給付請求の要件は、先に述べたように4種類ありました。それぞれに等級などが記載されていましたが、実際これらはすべて単純にリンクするものではありません。例えば障害者手帳を持っているけれど、障害年金は受け取っていない、あるいはその逆のようなことも起こりえます。また手帳の名称や等級判定などが、発行する自治体によっても異なるという注意事項もあります。

つまりiDeCoの障害給付は、4つの受給要件のいずれかに該当すれば請求できるのですが、そもそもその4つの要件いずれかに該当するかどうかは、公の機関へ別途申請が必要ということです。障害年金の窓口は年金事務所ですし、手帳(身体障害者、療育、精神障害)は各自治体が窓口です。また障害年金は年金給付ですが、手帳は自治体による支援サービスなどを受けるものです。

一例として、障害基礎年金の受給要件を見てみましょう。障害年金は、公的年金の保険料納付要件を満たすかどうかがチェックされます。

まず、年金に加入しなければならない義務期間において、3分の2以上保険料を支払っていることが必要です。保険料納付免除を受けている期間は、保険料を支払った期間とみなされますが、未納期間が長いと障害年金の受給ができないこともあります。

ただし、初診日の前日までの1年間に保険料の未納がなければ、特別に受給を認めるというルールもあります。できるだけわかりやすくするために、幾分言葉を変えてお伝えしていますが、とにかく国民年金の保険料未納期間には注意ということです。なお、20歳前に初診日がある場合は、保険料納付要件は問われません。

初診日とは、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師の診療を受けた日となります。そして、そこから原則1年6ヵ月を経過した日を判定日と言います。例えば、事故で大変なけがを負い、その病状が固定した場合は1年6ヵ月をまたずに判定されます。

障害年金は、その等級に応じて金額が異なります。等級は状態で判定されるため、この病気なら何級と決まっているわけではありません。あくまでも目安として、1級は他人の介助を受けなければ身の回りのことができない状態といわれています。2級は日常生活が著しい制限を受けるか、制限を加えることを必要する程度と言われています。

障害基礎年金は、初診日に国民年金に加入していた方が受けられる年金で、1級に該当すると約100万円(老齢基礎年金満額×1.25)が受けられます。18歳までのお子さんがいれば、その加算がつきます。2級は約80万円(老齢基礎年金満額)で、1級同様18歳までのお子さんがいれば、その加算がつきます。

初診日に厚生年金に加入していた方は、障害基礎年金に上乗せで障害厚生年金も受給できます。障害厚生年金の金額はその方の厚生年金加入状況(年収に応じた保険料支払状況や厚生年金加入期間)に応じて異なります。また条件を満たせば配偶者の加算もあります。

障害厚生年金には1級、2級のほか、3級または障害手当金もあります。等級は1級が最も厳しい状態なので、厚生年金加入者の場合障害年金の受給に該当する病状の範囲が、国民年金のみに加入している方より広いことが分かります。

ただし、iDeCoの障害給付の請求は障害基礎年金受給者なので、障害厚生年金3級または障害手当金を受けている方は該当しません。

ちなみに、障害年金もiDeCoの障害給付金と同様全額非課税で受け取ります。障害年金は病状が回復などして等級に該当しなくなると、年金がストップしますが、iDeCoの障害給付金は一度支給を受けると、障害の状態が回復しても受け取り続けることができます。また、国の障害年金のように、障害の等級などによって金額が減額されることもありません。これは確定拠出年金は、加入者本人の固有財産であるという解釈からです。

ライフプランを考える上で、障害リスクとどう向き合うか

筆者はファイナンシャルプランナーとして、さまざまな方からライフプラン相談をお受けしていますが、障害は想像以上に身近なことだと感じています。障害には、身体的な障害、いわゆる外見からも理解できるような障害のほか、内科的な障害をお持ちの方もいらっしゃいますし、精神の障害認定を受けている方もいます。

その中で、障害を負っても人生の経済的豊かさのために、前向きに頑張っていらっしゃる方が、たくさんいるということも理解しています。障害年金を受給しながら働いている方も少なくありません。

そして確定拠出年金は、国民の経済的豊かさに貢献するという大きな役割を担っており、また障害があってもなくても等しく国民すべてに与えられた権利だということです。

それを象徴するかのように、iDeCoは法定免除者も加入が認められています。法定免除とは障害基礎年金1級、2級を受給している方や、生活保護を受けている方を指しますが、届け出ることで国民年金保険料の支払が免除されます。

法定免除の期間は、将来受けられる年金額の計算に反映されますが、それでも満額が反映されるわけではなく、保険料納付者の年金額の2分の1のみです。これは国民年金の財源のうち、主に消費税である税金の割合が2分の1なので、保険料納付をしなくても税金は負担しているという理由からです。

仮に20歳から60歳までの40年間法定免除であると、国民年金の満額がおよそ80万円であるのに対し、年金受給額はその半分の40万円程度になってしまいます。障害を負っている方のライフプランを考えると、それだけで老後の生活は成り立たず、何かしらの資産形成を望む方も少なくありません。

そういう時に利用したいのが、やはり確定拠出年金です。所得がなければ所得控除のメリットはありませんが、それでも運用益非課税が最長75歳まで継続できるメリットは大きいです。2024年から変更が予定されている、非課税期間に制限がないNISAも有力な選択肢になります。

以上を踏まえてiDeCoの障害給付を考えると、状況が許せばできる限りiDeCoの加入は継続させ、60歳以降に請求をする方がよいのではないかと考えます。請求の際、障害給付要件に該当していれば、障害給付として資産全額を非課税で受け取れるので、拠出を長く継続する、そして運用も可能な限り継続した上で、受け取りを計画するのがベターではないかと思います。

また老齢給付と異なり、障害給付を受給中あるいは受給後も、iDeCoの積立を継続することもできるので、将来に向けての前向きな資産形成の形として活用したいものです。


「自由に使えるお金があることは、喜びであり自信である」とは、お客様から学んだ言葉です。積立を長く継続するのは大変なことですが、将来の自分がそんな言葉を発せられるように、コツコツ頑張っていけたら素敵だなと思います。

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