風間杜夫,濱田めぐみ,新納慎也 etc.出演 ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』開幕。 たった一晩のささやかな奇跡

ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』が開幕する。
2018年、米演劇界の最高名誉であるトニー賞で、ノミネートされた11部門のうち、作品賞を含む10部門を独占。
イスラエルに演奏旅行に来たエジプトの音楽隊が道に迷い、 言葉も文化も異なる中、地元のイスラエル人とぎこちなくも心を通わせていく一晩の様子を描くシンプルな物語の中に流れる、抒情的な空気と独創的な音楽。演出を手掛けるのは、森新太郎。アレクサンドリア警察音楽隊を率いる誇り高い楽隊長、主演のトゥフィーク役には風間杜夫。迷子の警察音楽隊を気前よく助ける、食堂の女主人には濱田めぐみ、カーレド役に新納慎也。また実際に舞台上にも上がり警察音楽隊として出演し、中東の音楽を表現する豪華ミュージシャン陣が集結した。
中近東のエキゾチックな音楽、文字が浮かぶ。それから”本編”、舞台上に音楽隊。「国を代表しているのだ。恥ずべきことは許されない」、警察音楽隊の指揮者、トゥフィーク(風間杜夫)、メンバーはきちんと整列。トランペットのカーレド(新納慎也)、「英語は苦手なんだ」と言いつつ、インフォメーションの女性に行き先を言う。「英語が苦手」、不吉な予感(笑)。

女性は問いかける「ペタハ・ティクヴァ、それともベイト・ハティクヴァ?」。苦手ということは発音もヒアリングも…。そしてついた先が…地名が似て非なるところ。彼らの乗ったバスは、目的地と一字違いのベト・ハティクヴァという辺境の街に到着。ものすごい田舎な街、彼らを目にした食堂の女主人ディナ(濱田めぐみ)、常連客イツィク(矢崎広)、従業員パピ(永田崇人)は目を丸くする。

まず、遠くから来客も観光客も来ない街。間違えてるとはつゆ知らず、アラブ文化センターへの道のりを聞くトゥフィーク。訊かれたディナは、「ここにアラブ文化センターはないわ」と言う。ここで、間違いに気づく一行。ここで歌われるナンバーがユーモラスで可愛らしい。振付もキュートで思わず笑ってしまう場面だ。しかし、時間も時間、これから目的地に行かれない、第一、バスがない。とりあえず、ディナの食堂に入ることに。ホテルもない街、音楽隊はディナ、イツィク、パピの家に分散して泊まることになり…というのが大体の流れ。

それぞれの家の様子が描かれる。トゥフィークとカーレドはディナの家に。くつろいだあと、街に繰り出すことに。イツィクの家に行ったのは、シモン(中平良夫)とカマール(太田惠資)。この日は間の悪いことにイツィクの妻・イリス(エリアンナ)の誕生日。義父のアヴラム(岸祐二)は懸命にもてなそうとするも、イリスは自分の誕生日なのに見知らぬ人を家にあげたことに不満を持っている様子。しかもイツィクは求職中、ちょっとやさぐれていて家での立場は微妙。音楽の話題になり、アヴラムも楽器の経験があったので、話が弾み出す。亡くなった妻との馴れ初めを話だす、ここは明るく、陽気な空気感、だが、イリスの顔は不機嫌。

そんなこんなの音楽隊を招き入れた家の様子を回舞台で小気味よく見せる。そして音楽、楽器、ウード。洋梨型の胴と、後ろに曲がった頭部を持つアラブの古典弦楽器。琵琶やギターといった弦楽器のルーツとされ、発祥は古代に遡る。いまも東はイラン、西は北アフリカまで広く愛されている、アラブ音楽では「楽器の女王」とも呼ばれている。

この深みのある音色がこのミュージカルの楽曲を彩る。また、奥手のパピ、意中の女の子・ジュリア(山﨑薫)にまともに声もかけられないどころか泣かせてしまう。それをカーレドが手助け、温かくもあり、パピの表情や仕草は微笑ましい。トゥフィークとディナ、ちょっと接近、そんなこんなの一夜、もちろんバッドエンドにはならない。何も起こらない街ではやはり何も起こらないが、人々の心のささやかではなるが、何かが変化。それは当の本人も気がついていないかもしれないくらいの細やかな気持ち。言葉も習慣も異なる人々の交流、共通語は英語、母国語ではないので意思疎通をするために一生懸命。その懸命さが尊い。音楽隊が迷子になったことで起こる心の変化、そこに流れる時間は緩やか。

風間杜夫がミュージカルは2回目の挑戦だそうだが、アカペラでの歌唱シーンはじんわりと響くものがある。そのほか、濱田めぐみの情熱的な歌唱、新納慎也がトランペットを吹く、イツィク演じる矢崎広が少々だらしがないのが、逆に人間味溢れ、出番は少ないが、渡辺大輔のサミー、ディナとの関係、空気を変える。

パピ演じる永田崇人、奥手すぎるくらいのパピを可愛く、そしてイツィクとのコンビが面白おかしく、そしてちょっとほっこり。名前のない電話男、こがけんが歌唱で存在感を放つ。学隊員たちの舞台上での演奏、中近東の音楽の奥深さと温かい情緒が物語を彩る。休憩なしのおよそ100分ほどだが、多くの感情と思いが詰まった作品。なお、カーテンコールの後は演奏があるので急いで席をたたないように。また、ロビーの階段の踊り場のところにトニー賞のトロフィーが飾られているので記念にパチリ。東京公演は23日まで。その後は3月より大阪公演となる。

公演に先駆けて会見が行われた。
風間杜夫「12月から稽古、約2ヶ月、ワクワクしてますが、緊張も。幕が開くのが楽しみ」
濱田めぐみ「素敵な作品です」
新納慎也「戦争もあり、コロナ禍でもあり、今、まさに上演にふさわしい作品」
こがけん「稽古して…同じものを作ること、練習することがなかった。めちゃくちゃ面白くって。衣装つけて通し稽古した時込み上げるものが」
トニー賞受賞作品、特に事件も起こらない、いわば『日常』系ミュージカル。見どころを聞かれて風間杜夫は「(互いの)言語が違う。共通言語としての英語。必死に相手に伝えようとする思い。たった一晩のこと、僕らの感覚で演じてみたい」と言い、濱田めぐみは「そこに流れている時間」、新納慎也は「衝撃的なセットのなかでとても繊細な物語が繰り広げられている」とコメント。セットは抽象的で真っ赤。こがけんは稽古中に台本が変わることについて「あらゆる可能性を試していって作っていく」と語る。「全部吸収して…がんばります」と意気込んだ。風間杜夫はフォトコールで歌を披露、なんと、全編アラビア語の歌詞をアカペラで。「大変難しい歌、私は1曲しか歌いませんが、全ての魂を注ぎます。共演者の方々は音楽センス、歌唱力があるので、負けないようにしがみついていきたい」とコメント。新納慎也も楽曲の素晴らしさについては「すごく癒される曲、今までのミュージカルにない素晴らしさ」とアピール。こがけんも「音楽に感動。こんなに素晴らしい舞台はない」と語る。
最後に風間杜夫が「たった一晩の出会いと別れ、生バンドでこんな贅沢な芝居はない。1人でも多くお越しになっていただけたら」とPRして会見は終了した。

物語
エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊が、イスラエルの空港に到着した。彼らはペタ・ティクヴァのアラブ文化センターで演奏するようにと招かれたのだった。しかし手違いからか、いくら待っても迎えが来ない。誇り高い楽隊長のトゥフィーク(風間杜夫)は自力で目的地に行こうとするが、若い楽隊員のカーレド(新納慎也)が聞き間違えたのか案内係が聞き間違えたのか、彼らの乗ったバスは、目的地と一字違いのベト・ハティクヴァという辺境の街に到着してしまう。
一行は街の食堂を訪れるが、もうその日はバスがないという。演奏会は翌日の夕方。食堂の女主人ディナ(濱田めぐみ)は、どこよりも退屈なこの街にはホテルもないので、自分の家と常連客イツィク(矢崎広)の家、従業員パピ(永田崇人)と店に分散して泊まるよう勧める。
トゥフィークとカーレドはディナの家に案内される。部屋でくつろいだ後、トゥフィークはディナの誘いで街をみて廻ることにする。レストランに入った二人は、音楽について語り合い、少しずつ打ち解けるが、ディナと関係を持つサミー(渡辺大輔)と彼の妻(友部柚里)が現れると、ぎこちない空気になる。
トゥフィークの筆頭部下のシモン(中平良夫)とカマール(太田惠資)は、イツィクの家に招かれる。義父のアヴラム(岸祐二)は共に食卓を囲んでもてなすが、イツィクの妻イリス(エリアンナ)は、誕生日に見知らぬ人たちを連れてきた夫に不満が募る。おとなしい楽隊員を前に話は弾まないが、話題が音楽のことに向くと、ようやく場がなごんで来る。
カーレドは外に出ると、店の前で待ち合わせをしているパピに出くわす。パピは、友人ツェルゲル(青柳塁斗)とその彼女アナ(髙田実那)に紹介されて、ジュリア(山﨑薫)と四人でデートをするのだ。カーレドは嫌がるパピに頼み込んで、一緒に街に連れ出してもらう。警備員(辰巳智秋)にすごまれながらも、スケート場で遊びはじめる五人だが、女性に慣れていないパピは、ジュリアを泣かせてしまう。カーレドはパピの指南役となり、手取り足取り彼女を慰めさせる。
公衆電話の前では、彼女からの連絡をひたすら待ち続ける電話男(こがけん)が立っている。店の外では、楽隊員たち(梅津和時、星衛、常味裕司、立岩潤三)が、思い思いに音楽を奏でている。言葉も文化も異なる隣国の人間達が交わる一夜が、更けていく。
迷子になった警察音楽隊は、果たして演奏会に間に合うのだろうか?

公演概要
ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』
日程・会場
東京:2023年2月7日(火)~2月23日(木祝) 日生劇場
大阪:2023年3月6日(月)~8日(水) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
問合:06-6377-3888(10:00~18:00)https://www.umegei.com/schedule/1079/
愛知:2023年3月中旬 刈谷市総合文化センター大ホール
問合:052-331-9966(平日10:00~18:00)
キャスト
風間杜夫:トゥフィーク(指揮者)
濱田めぐみ:ディナ
新納慎也:カーレド(トランペット)
矢崎 広:イツィク
渡辺大輔:サミー
永田崇人:パピ
エリアンナ:イリス
青柳塁斗:ツェルゲル
中平良夫:シモン(クラリネット)
こがけん:電話男
岸 祐二:アヴラム
辰巳智秋:警備員
山崎 薫:ジュリア
高田実那:アナ
友部柚里:サミーの妻
太田惠資:カマール(バイオリン)
梅津和時:警察音楽隊(マルチリード)
星 衛:警察音楽隊(チェロ)
常味裕司:警察音楽隊(ウード)
立岩潤三:警察音楽隊(ダルブッカ)
スタッフ
原作:エラン・コリリンによる映画脚本
音楽・作詞:デヴィッド・ヤズベック
台本:イタマール・モーゼス
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
演出:森 新太郎

公式HP= https://horipro-stage.jp/stage/bandsvisit2023/

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