誘拐大国のコロンビアやメキシコ、戦火のパレスチナで生きる子どもたち 日本の写真家が撮影した「生」

30年近く、世界の無法地帯や紛争地域を取材してきたカメラマンの釣崎清隆氏が、極限状態の中での「生」に焦点を当てた写真集『THE LIVING』(東京キララ社、税込8800円)を世に出した。その刊行記念写真展が8日まで都内の新宿眼科画廊で開催されている。釣崎氏がよろず~ニュースの取材に対し、コロンビア、メキシコ、パレスチナなどでの過酷な体験と共に、作品の背景にある世界を語った。

釣崎氏は1966年、富山県生まれ。慶應義塾大学卒業後、AV監督を経て、94年に写真家として始動。「死体写真家」の集大成となる写真集『THE DEAD』に続き、死と対になる「生」にフォーカスした写真集を今回刊行した。会場では22点が展示されている。

その中から「子ども」に焦点を当てた3作を絞って紹介。釣崎氏が解説した。

まずは2007年にメキシコで撮影された「サパティスタ・ガール」という作品。赤いバンダナのような布で口元を覆った少女が、野性味のある緑色のレモンを手にカメラを見つめる。硬そうな足の皮膚に目が行く。はだしで生きる少数民族の日常が足元に刻まれている。
「ラ・レアリダーという(メキシコの)自治区でも最深部の桃源郷みたいな場所。彼女の足は本物の少数民族、先住民の足です。『パリャカテ』と称されるバンダナは男性も使っていて、面が割れると特定されて攻撃されるので顔が見えないようにするため。子どもは誘拐の対象になるので素顔で写真を撮らないようにした。撮影時は子どもだったので5年くらい寝かした後に初公開した」

この少女のいる場所には、かつて民衆の熱気が渦巻いていた。94年にメキシコ南部のチアパス州で先住民を主体としたゲリラ組織「サパティスタ民族解放軍」による武装蜂起があり、弾圧後も、インターネットを使って世界中に少数民族の窮状を訴えて連帯に成功。「丸腰」で対話路線に転じた指導者の姿など、歴史的な写真も展示した。

続いて、コロンビアで95年に撮影された「チルドレン」と題した作品。幼い子ども3人がカメラを凝視している。

「アパルタドという町で、共産ゲリラと農民自警軍が対立する最前線で生活している子どもたちです。ここで革命軍がバスに乗っていた市民15人を虐殺した事件があって、それを取材に行ったのですが、移動に時間を要したため死体は既に片付けられていた。それでも、警察の力も及ばないカオスの最前線で撮った貴重な写真です」

釣崎氏は「毎日のようにテロが起き、子どもは誘拐される。コロンビアが世界で最も注目されていた熱い日々を知らない(同国の)若者が今、僕の写真に興味を持ってくれている」という。

さらに、パレスチナのベツレヘムで撮影された作品では、街頭で武装して歩く大人たちの手前にたたずむ少年たちの素顔が活写されている。なお、街に女性の姿はない。イスラム社会であることも実感する。

「9・11の同時多発テロ直後、あの暴力の意味を知るにはパレスチナに行くしかないと思い、何回も通った。この撮影は01年10月です。その後、イスラエルが情報を封じ込めるため、僕のようなフリーランスは入れなくなった。それに比べ、昨年のウクライナ取材は分け隔てなくウェルカム。逆に、コロンビアやメキシコは命の保証もない。ジャーナリストはテロの標的となり、特に日本人は誘拐のターゲット。警察官もタクシー運転手もみんな誘拐犯。コロンビアとメキシコは世界一、二の誘拐大国ですから。基本的にお金さえ払えば、彼らもビジネスなので人質を解放し、日本には帰れるんですけど、それでは迷惑をかけるし、何よりも格好悪くて恥ずかしい。信頼できる人間とコミュニケーションして情報を取りながら危険を回避するしかなかった」

そうして撮り続けた作品の背後には紛争やテロで犠牲になった人たちの血が流れている。
「圧倒的に強い軍隊に対して(不均衡な)組織などが抗戦する『非対称戦』のように、20世紀後半からは第二次大戦までの『正規戦』といわれるものから様相が違ってきた。中南米では犯罪か戦争か分からないカオスがあり、マフィアが軍隊化し、(コロンビアの犯罪組織)メデジン・カルテルは最盛期に戦車や潜水艦まで持っていた。共産ゲリラの革命軍は政府軍を圧倒し、民間人の自警軍はゲリラと戦った。パレスチナはイスラエルに対して〝弱者〟であることを武器にした。ウクライナもロシアに対する非対称戦とはいえ、戦車同士が向かい合い、近代兵器を打ち合う大規模戦闘は正規戦に近い感覚を持ちました」

会場には東日本大震災の被災地である福島・南相馬やウクライナなどで撮影した作品も展示。写真という2次元でありながらも、撮影者の現場体験に裏打ちされた「リアル」が立体的に浮かび上がっていた。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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