100年に一度の変革期 自動車業界から医療業界に参入するワケ

自動車業界は電動化などで「100年に一度の変革期」を迎えています。そうした中、自動車業界で培った技術で、全く新しい分野に参入した、ある自動車部品メーカーの挑戦を取材しました。

渕上沙紀 アナウンサー
「ハマダの本社工場にやってきました。大きな機械が並んでいます。こちらではエンジンやミッションなど自動車の精密部品が作られています」

広島・府中町に本社のあるハマダです。1953年設立、70年にわたり、主に自動車部品の精密加工を手がけてきました。

作業の効率化を図るため、機械化を取り入れています。

ハマダ 開発課 小石茂樹 課長
― こちらは、どういうものを作っている場所?
「ミッションの中に入っている部品を作っています。自動化ラインになっていて、ハマダで治具の設計をしたり、プログラムを作って動かしています」

マツダ 丸本明 社長(去年11月 記者会見)
「カーボンニュートラルや電動化へなどへの対応を着実に進めてまいります」

マツダは、クルマの電動化に向け、大きく舵を切りました。

2030年に全ての生産車を電動化する方針を打ち出し、電動化などへの対応に約1兆5000億円を投じると発表しました。

自動車業界が「100年に一度の変革期」を迎え、大きな技術転換は部品メーカーも求められます。ハマダでは…。

ハマダ 医療機器開発のリーダー 小石茂樹 課長
「ハマダで作っている人工股関節のカップです」

渕上沙紀 アナウンサー
「触ってもいいですか? 自分がきれいに映ります。すごくきれいな球体ですね」

2011年、球体加工を生かした技術で人工の股関節を製作。自動車業界から医療業界に参入しました。

ハマダ 開発課 小石茂樹 課長
「もともとは自動車のチェンジレバーを作っていて、ここに球体があります。医療機器では滑りをよくしないといけないので、鏡面加工をしています」
― 削り方は?
「企業秘密です。球体を作るハマダの技術は、世界に誇れる技術だと思います」

球体加工の最終工程を、「特別に」見せてもらいました。

ハマダ 小石茂樹 課長
「削るというより磨いています。毛布みたいなものに当てることによって鏡のように光るようになります。最後は人の手でやらないときれいにならない」

ハマダの 濵田忠彦 社長が、医療業界進出を決めたきっかけは、ヨーロッパの医療展示会でした。

ハマダ 濵田忠彦 社長
「人工関節が非常に多く展示されていて、球面が使われているので、これならわれわれの持っている、車で学んだ技術力で対応することができる」

最初は、試行錯誤の連続だったといいます。

ハマダ 濵田忠彦 社長
「医療部品は精度が非常に厳しいものが多くあります。ただし、要求数量は100個とか、数10個とか、多くても1000個とかになってくるので、生産性をあまり考慮しなくても精度さえ出せれば何とかなる。しかし、車はそうはいきません」

精密性が求められる医療機器と比べ、自動車部品は生産性が求められます。

ハマダ 濵田忠彦 社長
「時間あたりの出来高を上げていかないと、世界中で行っているコスト競争に負けてしまうので、ちょっとでも向上させていくことが車業界の特徴だと思っています。さらに精度の厳しい製品と生産性向上がドッキングしたら相乗効果で強みになってくる」

2019年、手術用の医療機器「クリップアプライヤ」も開発しました。

ハマダ 小石茂樹 課長
「大腸の手術で使うものなのですが、内視鏡手術で穴を開けて、トロッカー(手術用の管)から挿入して体内でクリップを置いてくるという機器になります。従来品は、違う鉗子で角度を変えていたが、ハマダが開発したものは、片手で操作ができて、角度も自由に変えられる」

この開発を進めるときに連携したのが、山口県防府市に本社のある医療機器メーカー「平和医療器械」です。

平和医療器械 下濃和夫 社長
「中国など海外のメーカーと話をすることあるが、日本でないとできないっていう技術がけっこうあって、精密な、細かいことがうまいとか、日本の会社は優れている」

平和医療器械は、1963年に創立。最先端の手術用機器やディスポーザブル製品(ガーゼなど消耗品)を製造・輸入し、全国の医療機関に販売・供給しています。

平和医療器械 下濃和夫 社長
「立場上、手術室に入る機会が多い。外科や心臓外科・婦人科・泌尿器科などの現場に入ることも多いので、現場の医師のニーズを発見して、小さいものからなんですけど、製品開発や仕入れなどを始めています」

ハマダと開発した「クリップアプライヤ」は、片手で操作できるため、手術時間の短縮、患者の負担軽減などの面で医師からも高い評価を受けています。

平和医療器械 下濃和夫 社長
ー ハマダが医療業界に進出するという話を聞いたときにどう思われましたか?
「非常に驚きました。許認可などハードルが高いにもかかわらず、目先のことだけにこだわらず、勇気を持って進出された」

厚生労働省のまとめによりますと、日本の医療機器は年間4兆円規模の大きな市場ですが、海外からの輸入に頼っているのが現状です。

平和医療器械 下濃和夫 社長
「海外製品が約7割、日本製品は約3割にとどまっています。それはなげかわしいことだと思いますが、医学のソフトウェアとともに機器が入ってくるので・・・」

ハマダ 濵田忠彦 社長
「これまで70数年、自動車部品業界に携わってきて、そこそこのものが作れるという自負心はありました。そういう環境の中で、なぜ70%も、それも日本で使われる、日本人が使われる医療機器の70%が外国製品であるということに驚きを覚えました。ある面、危機感を感じますし、市場としては非常に大きな市場があるということなので非常にやりがいもあるし、社会貢献もできるかなというふうな思いがきっかけかもしれません」

ハマダの医療機器開発部門は、30代を中心に11人。人材育成にも力を入れています。

ハマダ 濵田忠彦 社長
「ミクロン単位の精度管理をして、細かいタッチが要求されてくるので若手中心になる。さらに、これからのハマダの技術を伝承してもらいたい。それを向上させてもらいたい」

自動車部品メーカーと医療機器メーカー。2社の連携にあったのは、「日本製品にこだわりたい」という共通の使命感です。

広島・山口から世界に展開したいと意気込みます。

平和医療器械 下濃和夫 社長
「今の世界情勢、特にウクライナ情勢などで海外から供給しにくいという状況が続いています。自国で供給していこうという情勢にあり、日本の会社と協力して一緒にやっていきたいと思います」

ハマダ 濵田忠彦 社長
「日本人の患者さんに使われる医療機器は、日本が開発した医療機器であるべきだとわたしは思う。大それたことはできないが、やれる範囲から一歩ずつやっていきたい。これはもう長期戦略ですよね」

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渕上沙紀 アナウンサー
「平和医療器械が、医者の要望を直接聞き、ハマダが自動車部品の技術を活かし製品化。ハマダは2028年の目標として自動車部品で90億、そして医療分野で10億。つまり、医療で10%の売り上げをあげて、合わせて100億円を目指したいとしています」

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