うさぎ企画が焼津でビジネスマッチング×MaaS実証を開始

MaaSや地方創生事業を展開する合同会社うさぎ企画(以下、うさぎ企画)は、今年1月16日から2月末まで静岡県焼津市で人材交流とモビリティサービスを組み合わせた実証実験「コミュニティーMaaSプロジェクト」を展開している。また、1月20日には同実証実験の説明・体験会が焼津Portersで行われた。

日本初、人材交流×モビリティの実証とは

説明会にはうさぎ企画代表の森田創氏とソフトウエア開発を担当する株式会社LANDMARK CEOの讃井寛海(さぬいひろみ)氏が登壇した。

焼津市では、現在、旧港地区で漁具倉庫「焼津Porters」のリノベーション事業が進むほか、市内企業の課題解決に貢献する複業人材など関係人口も増えつつある。さらに、これまでBtoB主体だった市内企業がBtoCへと事業を広げる動きが出ており、顧客接点を求める声も増えているという。

森田氏は「焼津には魅力的な施設や店舗、観光名所がたくさんあるが、その多くが駅から遠く、観光客には分かりづらい場所にある。また、拠点同士も離れている上、その間をつなぐ交通手段が不足している」と同市の現状について説明した。

プレゼンテーションする森田創氏

今回の「コミュニティーMaaSプロジェクト」実証は、人材交流目的での移動需要の検証を目的としている。ビジネスマッチングアプリ「FLAG」を用い、焼津駅南口3キロ圏内のコワーキングスペース・飲食店・観光施設・直売所などの拠点をつなぐモビリティサービスを提供するというもの。

実験参加者は、自分の関心領域をアプリに登録することで、AIが提案する自分と近しい人材とのマッチングを受ける。その後、アプリを通して2種類のモビリティサービス(グリーンスローモビリティ、電動自転車)を選び、待ち合わせ場所に移動することができる。なお、モビリティはアプリ登録者のみが利用でき、チケットはアプリ内から購入が可能だ。

うさぎ企画、コミュニティーMaaSプロジェクトを静岡県焼津市で実施

合同会社うさぎ企画(以下、うさぎ企画)は、株式会社LANDMARK(以下、LANDMARK)と、実証実験「コミュニティーMaaSプロジェクト」を静岡県焼津市(以下、焼津市)で2023年1月~2月に実施する。12月15日付のプレスリリースで明かした。同実証は、日本初※ となるビジネスマッチング...

FLAGアプリの1⽉19⽇時点(4⽇間終了時点)での登録ユーザー数は68、施設来訪数は93、モビリティ利⽤者数は20。今後はサービス改善に取り組み、実証終了の2月末には登録ユーザー数600、アクティブユーザー数400、施設来訪者数300、モビリティ利⽤者数200を目標として掲げている。

讃井氏は「人と人との出会いにおいて移動手段は重要。これまで移動は目的地に行くための手段だったが、FLAGと組み合わせることで『目的人』のための移動になるというのは面白いと思うし、実際に交流促進にどんな効果をもたらすのか、実証でその仮説を検証していきたい」と話す。

また森田氏は「アプリで地元の人と市外来訪者との交流の機会を作り、モビリティで市内移動を便利にして周遊を促進することで、焼津のまち全体を活性化していきたい」と意気込みを語った。

LANDMARK CEOの讃井氏(左)とうさぎ企画の森田創代表(右)。

後ろはリノベーション中の焼津Porters

地域内のつながりを創るビジネスマッチングアプリ「FLAG」

FLAGは元々ワークプレイス内に点在している人の情報を集約・可視化することでコラボレーションを促すコミュニティデザインサービスだ。

今回の実証ではワークプレイスを焼津市に置き換え、地域内に点在する人やコミュニティを可視化し、人材交流を生み出すサービスとして提供している。

讃井氏は「FLAGによって地域内に新しい交流が生まれることを期待している。アプリを通じてさまざまなデータが収集できるので、それらのデータを焼津市のまちづくりに活用していきたい」と、今後の展開について語った。

今後LANDMARKはFLAGを活用し、地域を巨大なコワーキングスペースに見立て、コワーキング以外にも会社、飲食店、イベント、公共機関などを拠点にし、人の流れを活性化して関係人口増加につなげていくといった地域活性化の取り組みも進めていくという。

LANDMARKの讃井氏

低速なグリスロだからこそ焼津の魅力に気がつける

今回の実証で使用するのはグリーンスローモビリティ1台と電動自転車3台。2種類のモビリティはアプリ登録者のみが利用可能で、チケット(名称:つなモビチケット)はアプリ内から購入できる。利用料はグリーンスローモビリティ・電動自転車ともに1日中乗り放題で500円。利用時間はグリーンスローモビリティが平日12時〜18時(予約は17時45分まで)、電動自転車は平日9時〜17時。

利用する際はチケット購入後、グリーンスローモビリティは電話で乗車場所を指定し、電動自転車は観光協会で受け取りと返却を行う。

1月20日の体験会では、実際にグリーンスローモビリティに乗車して市内の施設を巡った。グリーンスローモビリティは時速20km未満の低速で走行する小型EVだ。ドライバーは地元の静鉄タクシーに運行委託をしている。グリーンスローモビリティには同時に3名までが乗車可能で、乗降は今回の実証用に設定した市内23カ所の停留所で行う。

実際に乗ってみると、ドライバーは地元のタクシードライバーということで、交通量の多い幹線道路では後続車両に道を譲りながら、所々で観光スポットの紹介をするなど、安心して乗車できた。移動中は、道沿いにあるカフェやショップ、観光施設など市内の様子も見ることができ、本来はビジネスマッチングのための移動手段ではあるが、焼津のまちの魅力を紹介するには良いモビリティサービスの一つだと感じた。

森田氏は「前職ではMaaSで大量の人を移動させ、連れてくることに重きを置いていた。しかし、これからの社会で本当の意味で地域のためになるのは数万人の一見さんではなく、何度も通って地域に貢献してくれる数百人のリピーターではないかと考えるようになった。今回のモビリティ×人材交流の可能性に期待している」と話す。

地域の移動支援にとどまらず、MaaSと人材交流を組み合わせることで「目的地に行くための移動ではなく、会いたい人に会いに行くための移動」という、新しい移動需要に着目したユニークなこの取り組み。焼津の地域活性にどんな影響を与えていくのか、今後の展開を引き続き注目していきたい。

(取材・記事/柴田祐希)

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