トランプ米大統領はM&Aに追い風?

米大統領選ではクリントン氏優位の事前の予想を覆し、共和党のドナルド・トランプ氏が勝利した。「トランプ米大統領」の誕生を受け、株式市場や為替市場は乱高下している。経済政策の見直しでM&A市場にも少なからぬ影響が予想される。トランプショックはM&Aにどんな影響がありそうか。編集部が独断と偏見で予想してみた。

予想①法人減税→投資余力の改善→米国内でのM&A増加

トランプ氏は当選直後の演説で、米国の経済成長率を2倍にすると宣言した。柱となる政策の1つが法人税の減税だ。現在は35%の連邦法人税率を15%に引き下げることをめざすとされる。

法人税が減税になれば、米国経済の活性化につながる。株主の取り分となる純利益がその分、増える。例えば税引き前利益で100億円の会社で35%の税率だと純利益が65億円だが、15%になると85億円と3割も増える計算となる。仮に時価総額1300億円で買収したとすると年間の投資利回りは5%から6.5%に上昇する。また減税分を内部留保に回せるようになり、投資余力が高まる。事業会社や買収ファンドによる米国内でのM&Aが増えそうだ。

予想②TPPの見直し→世界貿易の停滞→海運業界の大再編

トランプ氏は「環太平洋経済連携協定(TPP)から撤退する」とも発言した。関税の高止まりなどで、国境を越えた自由貿易が後退すれば、海運や航空輸送業界に大きな打撃となりかねない。大統領選に先立つ10月末には日本郵船、商船三井、川崎汽船の海運大手3社がコンテナ船事業の統合を発表したばかり。トランプ氏の通商政策の見直しで、荷動きの低迷に拍車がかかれば、海外勢やコンテナ船以外の事業も巻き込んだ大型再編に発展する可能性も否定できない。

予想③インフラ投資拡大→実物資産の価値上昇→LBOの増加

トランプ氏は米国のインフラ投資の拡大を主張しているとされる。今後、工場や不動産などの実物資産に投資する動きが盛り上がれば、地価や不動産価格が上昇し、企業の財務体質が改善、借入余力が高まりそう。不動産業界などで相手先の資産を担保に買収資金を借り入れるLBO(レバレッジドバイアウト)が活発になる可能性がある。


予想④米金利上昇→円安・ドル高→海外企業による日本企業のM&A増加

トランプの大統領選出を受け米国の長期金利は上昇に転じている。日本は日銀がマイナス金利政策を採用しているため、米金利が上昇すると日米の金利差が拡大。為替市場でドルを買って円を売る動きが加速し、円安・ドル高要因になる。日本企業による海外企業の買収が鈍くなる一方、海外企業からみた日本企業の株が割安に取得できる機会となる。米国企業による日本企業へのM&Aが増える可能性がある。

一方、長期金利の上昇でM&Aの際の資金調達コストが増加するのは、M&Aのマイナス要因となる。

予想⑤起業率の上昇→ベンチャー投資、ベンチャー向けM&Aの増加

トランプ氏は不動産開発会社の経営者から米国のリーダーまで上り詰めた。まさにアメリカンドリームの体現者と言える。勝利演説で「この国にアメリカンドリームを取り戻す」などと発言。米国民の起業家精神が高揚し、起業する若者が増えれば、ベンチャー企業への投資やM&Aが盛り上がりそうだ。

全体的にはM&Aにプラス要因が多いとはいえ、実際のところトランプ氏がどんな経済政策を進めるかは未知数。「米国の国益を最優先」する姿勢も鮮明で、例えばソフトバンクによる米通信会社のスプリントの買収のような、外国企業による米国の大手企業買収がやりにくくなるリスクもある。クロスボーダーのM&Aの関係者はトランプ氏の発言内容から当面、目が離せなさそうだ。

この記事は米大統領選を巡る新聞報道や専門家の意見を参考に作成しました。

文:M&A Online編集部

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