原発運転期間延長、次世代型原発への転換…日本の原発政策が方針転換した理由

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。「GENERATION」のコーナーでは、大きく基本方針を転換した“日本の原発政策”について、視聴者を交えて議論しました。

◆政府が原発政策を方針転換…原発活用の検討を指示

Twitterの「スペース機能」を活用して幅広い世代の視聴者に参加してもらい、Z世代・XY世代のコメンテーターと議論する「GENERATION」。この日のテーマは"原発政策”です。

政府は脱炭素化に向けて話し合う「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を開催し、原発の運転期間延長や次世代型原発への建て替えなどを盛り込んだ基本方針を決定。

政府はこれまで原発の増設や建て替えを想定しないとしてきましたが、ウクライナ危機によるエネルギー資源問題や深刻な電力需給逼迫に直面し、原発活用の検討を指示。原発を巡る方針は大きく転換しています。

今回決定された基本方針では、60年を超えた原発の運転が可能に。これまでは原則40年に加え、20年まで延長でき最長60年でしたが、今後は再稼働のための審査で停止した期間を計算から除き、60年を超えた運転が可能となりました。
また、次世代型原発の建設は、廃炉が決まった原発を革新軽水炉や核融合など次世代革新炉に建て替えるとし、2030年代の運転開始を目指すということです。

岸田首相は、安全性の確保と地域の理解を大前提に、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉への建て替えを具体化するとしています。

現在の原子力発電所の稼働状況を見てみると、国内には廃炉されたものを除き33基の原発がありますが、再稼働したのは主に西日本に置かれている10基のみ。そのうち1基は停止中となっています。

キャスターの堀潤は、原発の運転期間延長に対し、過去に取材した経験から「(原発の)停止期間というのは、その間もいろいろなところが痛んでいくなどし、メンテナンスが非常に大切」、「停止していたからといって(その間に)何もなかった期間として、そのままなしにしていいというわけではないことは押さえておきたい」と懸念。

さらに、原発のある地域を取材すると「原発の賛否は語られるが、私たちの暮らしについては誰が議論してくれるのか」と嘆く声もあると言い、「地域としてのあり方も丁寧に見ていかないと、空虚な議論になってしまう」と案じます。

1979年に起きたスリーマイル島原子力発電所事故、1986年のチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故などを含め、長きに渡り原子力について学び、運動にも関わってきた獨協大学特任教授の深澤真紀さんは「今、改めて思うのは、原子力の技術自体は素晴らしいものだが、私たちに人間に扱いきれているのか」と指摘します。

深澤さんは「信じられないようなヒューマンエラーが各地で起こっている」とし、「こんなことが起こり得ないということが、スリーマイル、チョルノービリ、福島でも起こったことを考えると、なかなか難しいものがある」と憂慮。

さらに、誰のためのエネルギーなのかという問題に言及。福島原発では事故当時、東京の電力を作っていましたが、当時福島でそれを知る人は少なく、東京都民にしてみればなおさら。そうしたことも含め、深澤さんは議論していくべきと訴えます。

◆日本の原発政策で鍵を握るのは政府でも総理でもなく…

Health for all.jp代表の茶山美鈴さんは「原発問題は、他の再生可能エネルギーと並行して議論していくべき」と主張。というのも、今回の基本方針にしても安全性が確保されたとする政府の見解と国民感情は全く異なり、そこを結びつけていくのが難しい状況になっていることがひとつ。さらには、原発停止時に他の再生可能エネルギーでどのように賄っていくのかなどをベースに考えていくべきと茶山さん。

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんは、前提として「再生可能エネルギーと原発は必ずしも二項対立ではない」と語りつつ、日本の原発政策の鍵を握るのは「政府でも首相でもなく、裁判官であることを考える必要がある」と指摘。

当番組のTwitterスペースに参加していた視聴者からは「日本は原子力を置き換えるだけの自然エネルギーの開発ができていないことは認識しないといけない。ただ、エネルギーの産出が貧しい日本をいかに豊かな国にするか、そのための技術を育むために、今は原子力が必要だと思う」という意見がありました。

◆福島第一原発事故から、核のゴミ、除染土の現状は

東京電力・福島第一原発の現状を見てみると、2022年8月、2号機のデブリ取り出しの年内作業開始を断念。当初の計画よりも2年以上遅れ、2041年~2051年までに廃炉の予定となっています。

また、今後は東京都新宿区と埼玉県所沢市、茨城県つくば市で福島県内の除染で取り除いた土を再利用する実証事業が開始されます。環境省は、新宿御苑で住民に実証実験について説明しましたが「除染土を全国に拡散して大丈夫なのか」といった不安の声が上がっています。

こうした除染土や核のゴミなどの処理について明確なビジョンが定まっていないまま稼働しているのは大きな問題ですが、深澤さんは「私たちは全てお金でいろいろな地域に押し付けている」と言い、さらに「福島で東京の電力を作っていることを忘れてはいけないし、考えなければいけない」とも。

◆重要なのは議論の場、意思決定の前に議論を…

当番組でも度々取り上げてきた次代のエネルギー「核融合発電」に関しては、アメリカで進捗が。ローレンス・リバモア国立研究所では、世界で初めて核融合実験で投入した分を上回るエネルギーの獲得に成功しました。

核融合とは、軽い原子核同士がぶつかり重い原子核ができる現象で、このときに大きなエネルギーが発生します。今回の成功により、資源の量にほぼ制約がない水素の同位体などが燃料で、二酸化炭素をほぼ排出しない電源を作れる可能性が示されました。所管するエネルギー省のグランホルム長官は「画期的だ。この成果がさらなる発見につながる」と歓迎していますが、発電利用にはエネルギーの獲得効率を飛躍的に高める必要があり、実用化はできても数十年後という見方が強くなっています。

茶山さんはこのニュースを歓迎し、日本としては今後、エネルギー問題解消の手立ては多くの選択肢があるなか、それぞれメリット・デメリットをしっかりと見極め、議論していくことの必要性について言及します。堀も「議論する場作り」を重視。

堀が「日本は一方的な説明会が開かれ、それに対してのフィードバックは反映されないことが多い。議論のプロセス作りをうまく作れないか」と問題提起すると、「議論がプロセスになっていることが問題」と大空さん。「行政の手続きのなかでのプロセスとして議論の場を設けると、説明することが目的化してしまい、それは本来の議論の目的とはかけ離れていく」と解説し「意思決定が行われる前に議論をしていくことが大切」との見解を示します。

深澤さんは、各国にある再生可能エネルギーで全てを賄う「エネルギー自立地域」を例に挙げ、そこでは住民や議員が率先して自らエネルギーを作り、使うことに対する意識も高いといいます。ヨーロッパでは今、原発回帰しているものの、エネルギー自立地域で話を聞くと「これが終わったら私たちはすぐに戻れるから心配していない、むしろ前から準備していて良かった」という反応が多く、つまり原発に関しても自分たちでハンドリングできる状況にあるそう。対して日本はというと正反対。「私たちは国から降りてくるもの、お金や仕事、箱物をありがたがっている時代が昭和から続いてきている。それを変えていきたい」と今後の展望を語っていました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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