「親の人権ない」付き添い入院、訪問型保育の活用で負担軽減と子どもの発達支援を 認定NPO法人フローレンス会長・駒崎氏インタビュー

 認定NPO法人「フローレンス」会長の駒崎弘樹氏=1月11日、東京・千代田区

 幼い子どもが入院した際、保護者が24時間付きっきりで世話をする「付き添い入院」を巡り、体験した人たちから「負担が重過ぎる」「親に人権はないのか」と悲痛な声が上がっている。制度上、付き添いは原則不要のはずだが、実際には看護師不足を背景に病院側が保護者に要請することも多い。厚生労働省はこうした実態を把握するため、患者家族らを対象とする全国アンケートを実施したが、回答数は極端に少なく調査は不調に終わった。
 国は「異次元の少子化対策」を掲げて子育て政策に力を入れるが、入院中の子どもや家族のサポートには手が回っていないのが実情だ。この問題にどう取り組むべきか、打ち出せる対応策はないのか。障害児保育や子育て支援事業を運営する認定NPO法人「フローレンス」会長の駒崎弘樹氏に話を聞いた。(共同通信=禹誠美)

 ▽付き添うかどうか保護者が選択すべき
 ―付き添い入院については、寝食もままならない保護者の生活環境の問題に加え、経済的な負担や家に残る家族への悪影響なども指摘されています。課題と対応の方向性についてはどのようにお考えですか。
 「今の仕組みは保護者の負担が重過ぎると思います。基本的に子どものケアは全て病院に任せられる状況を目指すべきです。ただ、保護者の希望や家族の状況はさまざまです。子どものそばで付き添いたいという人もいれば、仕事や家に残したきょうだい児の世話、家族の介護など、さまざまな事情で付き添うことができない人もいます。病院側から要請する運用はやめ、付き添うか付き添わないかは保護者が選択できるようにすべきです」

 厚生労働省=東京・霞が関

 ―厚労省は2021年度に、患者や家族計3千人を対象とする実態調査を行いましたが、回答率はわずか1・4%でした。調査が不調に終わったことを理由に、対応策の検討も棚上げ状態となっています。
 「データが集まらないから検討ができないといって、そのまま放置しているのは理解できません。(不調に終わった)原因を分析し、対策を立てた上で、信頼できる民間団体に任せるなどの方法で早く再調査すべきです。付き添い入院の過酷さは、体験した人以外にはなかなか伝わりにくいのですが、長期の入院になれば子どもの発達にも影響がありますし、学校などで学ぶ機会も奪われます。こうした影響を考えれば、親に全てを任せれば良いという考えにはならないはずです。病院はもちろん、私たちのような保育の事業者も関わって、病気の子どもにとってベストな仕組みに変える必要があります」

 ▽「居宅訪問型保育」の柔軟運用で保護者の支援を
 ―医療現場では慢性的に看護師が不足しており、病院側が全ての子どものケアを担うのは困難だという指摘もあります。抜本的な解決は難しい状況ですが、どのような対応策が考えられますか。
 「現行制度でも、重い障害などで地域の保育所などに預けることができない子どもには、保育士らが家庭を訪ねる『居宅訪問型保育』という事業があります。フローレンスでもサービスを提供していますが、こうした仕組みを応用すれば良いのではないでしょうか」
 ―具体的にはどのような仕組みですか。
 「『居宅訪問型保育』では、それぞれの家庭に保育士らが訪問し、1対1の保育サービスを提供します。自治体の認可事業ですので、利用料金も認可保育所に預けた場合と同じです。これとは別に『居宅訪問型児童発達支援』という事業もあり、こちらは医療的ケアが必要だったり、重い障害があったりして外出が困難な子どもが対象です。障害児支援の経験など所定の要件を満たした保育士や看護師らが家庭を訪問し、発達を促すアクティビティを提供するサービスです」
 ―そうした事業を入院中に活用することはできないのでしょうか。
 「厚労省が『居宅(家)ではない』という理由で病院内でのサービス提供を認めていないため、現在は利用できません。しかし重い疾患や障害がある子どもたちは、体調の急変や検査のために入院することがしばしばあります。入院が長引くと付き添う親には心身ともに大きな負担がかかります。児童発達支援のサービスによって発話ができるようになったり、食べ物がかめるようになったりした子どもも、入院中に放っておかれると発達が退行してしまうことがあります」
 ―居宅訪問型の事業が入院中に利用できるようになれば、どのような変化が期待できるのでしょうか。
 「保護者は、きょうだい児のケアや仕事、家事など、生活を送る上で必要なことに時間をかけられるようになりますし、体調不良になった場合にも休むことができます。お子さんも入院中に途切れがちな療育や身体のケアを受けることで、心や体の発達の退行を防ぐことができます。厚労省には硬直的な解釈を改め、柔軟な運用ができるようにしてほしいと思います」

 子どもを抱く保育士のイメージ(フローレンス提供)

 ▽国は子ども予算を倍増すべき
 ―4月には「こども家庭庁」が発足します。どのような政策を期待しますか。
 「対国内総生産(GDP)比でみた日本の子ども関連予算の割合は、長らく欧州各国の半分ほどしかありませんでした。近年は少しずつ増えつつありますが、いまだ子育て支援や少子化対策の施策は不十分です。少子化が深刻な問題になることは30年以上前から分かっていたにもかかわらず、手を打ってこなかった政治家の責任ではないでしょうか。予算が増えなければ、できることも増えません。国は子ども国債の発行といった手段で財源を確保し、子ども予算を倍増すべきだと思います」

 インタビューに応じる駒崎氏

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 こまざき・ひろき 1979年生まれ。2004年にNPO法人フローレンスを設立。居宅訪問型の保育サービスや障害児保育施設などを運営する。内閣府「子ども・子育て会議」委員。

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