ペロブスカイト太陽電池を保護する厚さ1µmの二酸化ケイ素膜 宇宙・地上両方の環境で寿命を伸ばすことを確認

太陽光で発電する太陽電池は、一般的にシリコン (ケイ素) を使用していますが、効率面や価格面などの様々な理由で、他の材料による太陽電池の開発が進められています。有力候補の1つは「ペロブスカイト太陽電池」です。これはペロブスカイト (灰チタン石) と同じ結晶構造を持つ物質を使用している太陽電池であり、原材料や製造コストが低いこと、エネルギー効率が良いこと、曲面など平らではない場所にも配置できることを特徴としています。

その一方で、ペロブスカイト太陽電池にはいくつかの課題もあります。最大の問題は耐久性です。従来のシリコン太陽電池は20年前後に渡って性能を維持しますが、ペロブスカイト太陽電池は外部環境の様々な要因に対して不安定であることがわかっています。

ペロブスカイト太陽電池が不安定な理由は様々です。地上での主な劣化の原因は、空気中の水分や酸素、それに紫外線です。一方、宇宙では紫外線に加えて、真空、原子状酸素、放射線、宇宙線、高温などが問題になります。人工衛星や宇宙探査機の電源として太陽電池が極めて重要であることを考えると、この性質は問題となります。

このような外部要因を防ぐためのコーティングは、分厚くすればするほど肝心の太陽光も遮ってしまうことによる効率低下や、重量の増大という別の問題も招きます。そのため、最小限のコーティングで最大の遮蔽効率を得るという、ある意味で都合のいい性質を持つ物質の探索が課題となっていました。

【▲ 図: ペロブスカイト太陽電池は、外部の様々な要因で劣化しやすい。今回の研究では、厚さわずか1µmの二酸化ケイ素が、とても高性能な保護を与えることをしめした(Credit: NREL)】

アメリカ国立再生可能エネルギー研究所 (National Renewable Energy Laboratory) のAhmad R. Kirmani氏などの研究チームは、効率の良いペロブスカイト太陽電池のコーティングを探り、1つの重要な結果に辿り着きました。

カギとなったのは、ガラスの原料でもある二酸化ケイ素 (シリカ) の極めて薄い膜です。その厚さはわずか1µm (1000分の1mm) で、発電効率や重量の問題はありません。特に重量については、従来の放射線シールドより99%も軽量です。また、このような薄膜は蒸着と呼ばれる簡易なプロセスで付着させることが可能であり、製造コストや太陽電池の形状にもほとんど影響しません。これほど薄いコーティングですが、その性能は特筆に値します。

ペロブスカイト太陽電池にとって最大の問題は宇宙線に含まれる陽子です。高エネルギーの陽子は太陽電池そのものを貫通するので問題にはなりにくいものの、低エネルギーの陽子は太陽電池の結晶構造を壊して性能を低下させてしまいます。そのような低エネルギーの陽子は、宇宙に豊富に存在しています。

実験では、地球周回軌道のうち低軌道を20周と高楕円軌道を30周するのに相当する期間、ペロブスカイト太陽電池を低エネルギーの陽子線に晒しましたが、発電効率は約15%しか減少しませんでした。二酸化ケイ素の薄膜による保護は、他の代表的な宇宙線であるα (アルファ) 粒子にも有効な保護性能を示しました。

また、太陽電池を温度と湿度が調整されていないごく普通の環境に数日間晒す実験も行われました。その結果、二酸化ケイ素で保護されていない太陽電池の変換効率は19.4%から10.8%へと大幅に低下した一方、二酸化ケイ素で保護された太陽電池の変換効率は19.4%を維持したことがわかりました。低軌道と同等の紫外線を照射する実験では、保護されていない太陽電池が8分後に破壊された一方で、保護された太陽電池は20分後でも性能が低下せず、30分後になって性能がわずかに低下することもわかりました。紫外線による太陽電池の劣化は、紫外線によって生み出された原子状酸素による影響であり、地球低軌道に存在する原子状酸素からの保護にも役立つ事を示しています。さらに、二酸化ケイ素の薄膜で保護された太陽電池は、水やN,N-ジメチルホルムアミドに丸ごと浸されても機能を維持するほどでした。

これらの実験により、二酸化ケイ素の薄膜で保護されたペロブスカイト太陽電池の宇宙空間における寿命は、従来の数か月から大幅に延びて数年程度になると推定されます。コストや性能にほとんど影響を及ぼさない保護膜によって、これほどの性能が維持される点は非常に重要です。もちろん、宇宙分野に限らず、地上の一般的な分野でも同様に寿命の延長効果が期待できます。この点でも、今回の実験結果は非常に重要です。

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文/彩恵りり

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