170キロの剛速球、町工場生まれの投球マシンが切り開いた「ニッチ市場」

 投球マシンを点検する、共和技研の田中完二社長=2022年11月、福岡県大野城市

 時速170キロの剛速球に、スライダーやカーブなどの変化球も自由自在に投げ分ける。社員7人の町工場が、圧縮空気を利用したピッチングマシンを開発した。ピッチャーの投げる球のスピードやコースまで忠実に再現でき、国内外のバッティングセンターや野球チームが続々と採用している。「高速で正確に球を放つ」技術は野球の世界にとどまらず高く評価され、意外な現場にも活躍の場を広げているという。(共同通信=東岳広)

 ▽バルブ制御から思いついたボールの発射
 福岡県大野城市の企業「共和技研」が開発した「トップガン」は細かい球速調整や正確なコントロールが売りだ。マシンの力を最大限発揮すれば時速400キロの球も投げられるが、安全面も考慮して70~170キロに調整している。ストレートだけでなく、スライダーやカーブも投げられる。これまで国内で約250台を納品。王貞治ベースボールミュージアム(福岡市)でも展示されている。性能は海外でも高く評価され、2019年にはタイのスポーツ施設にも納めた。
 田中完二社長(79)は元々、産業用バルブメーカーの営業マンで、野球経験はゼロだった。独立して1983年に共和技研を設立。圧縮した空気を使い、工場などの配管に取り付けられたバルブを開閉する制御装置を製造していた。そうした中、社員たちが遊び半分で、圧縮した空気を利用しボールを発射する装置を作った。
 この速球の技術、何かに応用できるのでは。最初に思いついたのは的当てのゲーム。遊園地に導入してもらうことを考えたが、納品先は限られる。そこでピッチングマシンとして売り出すことを考えたという。
 ピッチングマシンは従来、ばねの力を使ったアーム式や、回転する二つの円盤で球を挟んで放つローター式が主流だ。圧縮空気を使うエアー式は開発初期、球にうまく回転を加えられず、不安定な軌道の「ぶれ球」になった。そこで発射口付近にゴムを取り付け、摩擦で回転を生み出した。野球の文献を読み込んで知識を深め、投手が投げる球筋に近づけていった。
 目標は、プロ野球選手の投げた球のデータをマシンに入力し、一球一球を完全に再現すること。球の高低や回転数に加え、回転軸やツーシーム、フォーシームといったシーム(縫い目)のコントロールまで制御しようと、次世代機の開発に余念がない。

 開発中の投球マシンを調整する田中社長

 ▽違法漁船の取り締まりに豪雪対策も
 田中社長のモットーは「飯を食うため、どんなものでも請けたら作る」。「高速で正確に球を発射する」性能が徐々に広まると「野球以外にも使えないか」と、多方面から依頼が舞い込み、さまざまな企業や機関とのコラボを実現してきた。
 一つが東京消防庁だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)も加わり、消火剤を詰めた弾を発射するマシンを開発した。火災現場でヘリコプターから弾を放ち、人命救助に貢献している。
 銃器を備えていない水産庁の漁業取締船にも、トップガンの技術は使われるようになった。政府は近年、日本近海での外国船違法操業の取り締まりに苦慮している。違法操業をしていた証拠とするため、塗料が入ったボールを漁船に当てる。連続発射できることや狙った場所に当てる正確性が買われ、2018年ごろから共和技研の発射装置が採用されるようになった。
 豪雪地帯では送電線や鉄塔に雪が積もると、重みで断線したり、送電線同士が接触したりして停電の原因となる。送配電網の積雪対策として、ヘリコプターから氷の球を発射し、雪を落とす計画も進行中だ。田中社長は「零細な会社だからこそ、ニッチな分野を開拓してきた。世間にまだないものを作りたい」と話した。

 共和技研の田中社長

© 一般社団法人共同通信社