堀ちえみ「風のささやき」自身最大のヒットシングル「さよならの物語」収録  堀ちえみデビュー40周年!待望のCD / DVD-BOXがリリース

とても身近に感じる堀ちえみのキャラクター

堀ちえみはハッピーな曲よりも淋しげで傷ついたり悲しんだりしている曲のほうが合っている。

… というのは私の勝手な意見なのだが。

1982年デビュー組がそれぞれに成長し、大人びていく中、ほどよく少女のあどけなさを残していたのがちえみ。それが当時の男子たちを「俺が守ってあげたい」という気持ちにさせ、人気に繋がっていったのではないかと思っている。

実際、私の同級生にも熱心なちえみファンは何人もいて「あの “俺がいなきゃ” って感じがええねん!」と言っていたような気がする。

ただ、「俺がいないと何もできない」わけではなく、どこか芯の強さを感じさせるところも魅力だったのだろう。ドラマ『スチュワーデス物語』における「ドシでのろまな亀」だけど「何があろうとも決して諦めない」姿は、ちえみのキャラクターにシンクロしたからこそ、あれだけの人気を得たのだと思う。もちろん、ちえみ演じる松本千明が訓練で落ちこぼれていけばいくほど、「頑張れ! 負けるな!」と応援したくなる気持ちを掻き立てられたというのもあるが。

私は彼女と同い年で、同じ大阪府堺市出身ということもあり親近感を抱いていたが、「クラスの隣の席に座っている女の子」のような、とても身近に感じるキャラクターも安心感があったのではないだろうか。

上り調子の中で作られたアルバム「風のささやき」

さて、今回私が語るのは、1983年にリリースされたサードアルバム『風のささやき』。まだ『スチュワーデス物語』が始まる前にリリースされた作品である。シングルをリリースするごとにセールスを伸ばし、5枚目のシングル「さよならの物語」ではついに初のオリコンTOP10入りを果たした。そんな上り調子の中で作られたアルバムである。

ジャケット写真はどこかシリアスな表情を浮かべているが、夏のリリースということもあり、明るめな曲が並んでいる。作家陣は「さよならの物語」の岩里祐穂×岩里未央コンビ、「とまどいの週末」の森雪之丞、後に「夕暮れ気分」を提供する天野滋などが名を連ねている。他に城戸依子という見慣れない作詞家の名前があるのだが、これは尾崎亜美の別名。編曲は前2作の鈴木茂から変わり、大半を鷺巣詩郎が担当している。

岩里祐穂・岩里未央コンビの作品は6枚目のシングル「夏色のダイアリー」のカラーを踏襲した、さわやかなサマーソングが多い。1曲目「プレゼントは夏」は、オープニングにふさわしいキラキラしたイントロが印象的。

森雪之丞作品は作詞・作曲ともエッジが効いていて、良いアクセントになっている。特に6曲目「誘惑アルファベット」では

 映(A)画館を出たなら
 び(B)しょ濡れの夕立ち
 みちゃだめよ 恥ずかしい(C)
 シャツが透けちゃう
 デー(D)トのたびあなたが
 言い(E)だせない誘惑

など、後の浅香唯「ヤッパシ…H!」に繋がるような、森雪之丞お得意の言葉遊びも交えつつ、ちょっとスリリングなシチュエーションを描いていて面白い。

天野滋による「真夏の国」はメルヘンチックな雰囲気。城戸依子(尾崎亜美)、小林信吾や清水信之による作品はどれも上品な仕上がりで、的はずれな曲は1曲もない。軽快な5曲目「雨のダンスシューズ」や、コミカルテイストなイントロが印象的な8曲目「恋はディンドン」なども楽しい。

スペシャルシングル「CHIEMI SQUALL」が収録

ただアルバムを通して聴くと、どうしてもシングル曲「さよならの物語」のインパクトが強くなる。実はこの曲、意外に知られていないのだが、堀ちえみ全シングルの中で一番売上枚数が多い作品なのだ。この曲が堀ちえみがブレイクするきっかけになったのは確かであり、まさに「淋しげで傷ついたり悲しんだりしている」センチメンタルなナンバーだからこそ、「俺がちえみを守ってやらなければ」という前出の感情に繋がるのではないだろうか。

そしてもうひとつ、このアルバムにはおいしいところがある。それは当時スペシャルシングルとしてレコードに封入されていた「CHIEMI SQUALL」が収録されていることだ。

 ちえみ(ちえみ!)
 好きよ(好きさ!)

と、名前を呼び、ためらうことなく堂々と「好きさ」と叫ぶことができる、ファンとしては最高のナンバーである。ちなみに曲中に名前が入る曲としては松本伊代の「センチメンタル・ジャーニー」より後にはなるが、倉沢淳美の「プロフィール」よりは前である。

この曲、当時コンサートでもファンとの掛け合いで大いに盛り上がっていたナンバーなのだが、現在も意外なところで根付いている。埼玉県立松山高校の吹奏楽部が高校野球の応援時に演奏する「プロミネント松高」という曲があり、これの原曲がなんと「CHIEMI SQUALL」なのである。

何故アイドルの、しかもLPの特典でしか聴けないマニアックな楽曲が応援歌として使われているのか? 何故かというと、当時の学生にちえみファンがいたそうだ。確かに「ちえみ(ちえみ!)好きよ(好きさ!)」の合いの手などは応援コールとして使いやすいし、盛り上がるとは思うのだが、それをまさか高校野球の応援歌に使うとは… 恐るべしファン魂である。

デビュー40周年、今こそ堀ちえみの歌手活動にも注目

ところで、このたびデビュー40周年を記念してリリースされるCD / DVD-BOXではストリーミング配信では聴くことのできないボーナストラックとして「さよならの物語」「夏色のダイアリー」のオリジナル・カラオケも聴くことができる。特にオリジナル・カラオケを聴くと、一音たりとも無駄な音がなく、当時のアイドル歌謡がいかに丁寧に作られていたかがわかる。あれだけ短いスパンで作品をリリースする状況で、クオリティの高い音楽が生み出されたのは、一流のスタジオミュージシャンによるサポートの力も大きい。

堀ちえみというと、どうしても『スチュワーデス物語』や『スタア誕生』『花嫁衣裳は誰が着る』といった、インパクトの強いドラマでの演技ばかりが語られ(どれも大映テレビ制作だから印象が強くなるのは仕方ないのだが)、歌手活動については思ったほど語られていないのが非常にもったいない。今回のCD-BOXやストリーミング配信をきっかけにして、たくさんの方が彼女の作品に触れてくれることを願う。

ーー堀ちえみ80年代にリリースされた全オリジナルアルバム、ストリーミング配信がスタート!アルバムアーティストとして、高いクオリティの作品を発表し続けた堀ちえみの軌跡をこの機会に存分に楽しんでみては。

カタリベ: 不自然なししゃも

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