F1ドライバーのシート合わせをアストンマーティンが解説。細かな修正と絶え間ない微調整の連続

 時速300kmを超えるスピードと、5Gを超える負荷。過酷なレースの現場で使用するシートは、ドライバーの体をしっかりとホールドしながら、ドライバーが安定してステアリングやペダルを操作できるだけの快適性も求められる。

 この相反する要求を達成するためには、緻密な作業によりドライバーの体にミリ単位でフィットした座席を作る必要がある。アストンマーティンF1はこのシート合わせの工程を、7ステップに渡って解説している。

 シート合わせの作業は、ドライバーが発泡ウレタンで満たされた袋の上に座り、型を取るところから始まる。ドライバーはシューズやブーツなど実際の装備を身に着け、発泡ウレタンはその体に合わせて変形していく。このときドライバーは運転時の動きを再現し、腕や足の動きにシートが干渉しないようにウレタンは削られていく。

アストンマーティンF1のファクトリーでシート合わせを行うフェルナンド・アロンソ

 アストンマーティンによると、ここで注意が必要なのが、ドライバーにはある程度の好みがあるということだ。「運転中の変化がないように、頭、首、肩の動きがほぼゼロであることを求めるドライバーもいれば、もう少し自由であることを好むドライバーもいる」ため、その嗜好に合わせたモディファイも重要な工程となる。

 このふたつのステップで完成した発泡ウレタンの型は、3Dスキャンが行われ、さらにCAD上のモデルに起こされ、これをもとにカーボンのシートが作成される。形になったカーボンシートには改めてドライバーが座り、再度フィードバックを加える。

 シートが形になったところで、続いて着座位置の検討に入る。ペダルやステアリング操作に最適な前後位置を割り出し、シートの高さも調整する。低くすれば重心を下げて運動性能を高めることができるが、視界を確保するために低すぎてはいけない。もちろん高すぎれば安全性に支障が出てしまうため注意が必要だ。

アストンマーティンF1のファクトリーでシート合わせを行うランス・ストロール

 マシンにシートが備え付けられると、いよいよ6つ目のステップとして硬いカーボンシートにパッドを貼っていく。パッドは快適性を高めるが重量増にも繋がるため、量は最小限に抑えられる。エンジンの熱からドライバーを守るためにシート後部のカーボンファイバーに金箔を貼る作業もここで行われる。

 これでようやくシートはできあがったが、作業はまだ終わらない。シートの具合はドライバーが実際にマシンを走らせるまでわからないからだ。実走行でのテストという最後の工程を経て、いよいよ世界にひとつだけのシートが完成する。

 こうして作業工程を見ると、シート合わせには細かなステップと絶え間ない微調整が必要なことが分かる。しかし、もし完成品に満足が行かなければどうするのか。その場合は「すべての工程を再度行い、完璧なフィットを追求する」のだとアストンマーティンは語る。極限状態で戦うドライバーを文字どおり支えるためには、ほんのわずかな妥協も許されないのだ。

アストンマーティンF1のファクトリーでシートを確認するフェルナンド・アロンソ
アストンマーティンF1のタイヤテストに参加するフェルナンド・アロンソ

© 株式会社三栄