会社に“風俗店勤務”の過去バレて解雇… 社員の「経歴詐称」裁判所の判断は?

「この黒歴史は隠しておきたい」

ありますよね。就職活動や転職活動をするとき「会社に好印象を持ってもらいたい!」と思い、過去のグレー経歴を少し省略

そんな履歴書を書かれている方は多いと思います。そしてバレずに就職できた方がほとんどだと思います。しかし!バレてしまうと解雇されるおそれがあります。

今回は、過去の職歴がバレて懲戒解雇された女性の事件を解説します。この女性は風俗店で働いていたことを隠して面接を受けて採用されたんです。でも約5か月後にそれがバレて懲戒解雇されました。

しかし裁判所は「懲戒解雇はやりすぎでしょ、無効!」と判断。女性の勝訴です。以下、詳しく解説します(弁護士・林 孝匡)。

どんな事件か

懲戒解雇された女性は当時19〜20歳の女性(以下「Xさん」)。パチンコ店の面接を受けて採用されました。平成20年11月21日からパチンコ店で勤務を始めました。ホールスタッフとして採用されました。契約のタイプは2か月の雇用期間で更新されていくものと認定されました(女性は無期雇用だと主張したのですが)。

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▼直前に風俗店で働いていた
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Xさんはパチンコ店の面接に行く前に、約3か月間、風俗店で働いていました(H20年8月上旬〜11月上旬)。このことを面接で伝えなかったんです。パチンコ店で働き始めてから4か月くらいはバレなかったのですが、ついにバレちゃいます。

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▼ なぬっ!この子は!
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平成21年4月上旬、パチンコ店の従業員が風俗に行こうと思ってたのでしょうか。発見してしまったんです。ある風俗店のHPにXさんの顔写真が載っていることを。

後日、別の従業員がXさんを呼び出して問いただしたところ、Xさんは前に風俗店で働いていたことを認めました。

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▼ 懲戒解雇
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4月17日、会社は、就業規則に記載されている以下の懲戒事由にあたるとしてXさんに対して「1か月後の5月16日付で懲戒解雇する」と伝えました。

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にせの経歴を作り、そのた不正なる方法を用いて雇い入れられた時
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Xさんはその通告を受けた後も、約1か月間はホールスタッフとして働きました。懲戒解雇された後、Xさんと会社とのバトルが始まります。

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▼ 会社との攻防
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約1年半にもわたり、Xさんと会社の攻防が繰り広げられています。

  • Xさんの彼氏が会社に電話して「不当解雇だ」と伝える
  • Xさんが会社に何度も手紙を送って再度雇用してほしいとお願いする
  • 電話でも抗議する

などしましたが、会社が応じることはありませんでした。

労働審判へ

そこでXさんは、復職を求めて労働審判を申し立てました。しかし審判の結果はXさんの請求を認めず「会社は解決金30万円を払え」という結果となりました。Xさんは納得できず異議を申し立てました。舞台は訴訟に移ります。

【裁判所の判断】
裁判所はザックリ「たしかに懲戒事由にあたるけど、懲戒解雇はやりすぎだわ、無効!」と判断しました。以下、詳しく解説します。

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▼ たしかに懲戒事由にあたる
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まず裁判所は「風俗店で働いていたことを隠したことは【にせの経歴を作っている】ので懲戒事由にあたる」と判断しました。

裁判所は「風俗店で働いていたことを会社が知っていた場合は、Xさんを雇用しなかったか、または採用に関してより慎重な検討をした上で対応策を講じるなどの結論を出した」としているので、重要な経歴詐称と判断したと考えられます。

一般的には、その経歴が採否に決定的な影響を与え、その経歴を知っていれば採用しなかったときには重要な経歴詐称にあたる考えられています。多くの会社の就業規則では重要な経歴詐称をすると懲戒解雇になると規定されています。

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▼ けど懲戒解雇は無効
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けど懲戒解雇は無効!と判断しました。なぜか? 「権利の濫用」にあたると判断されたからです。今では以下の条文に定められています。

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労働契約法 15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
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会社は「Xさんが過去に風俗店で働いていたことが客の間でうわさになると業務に支障が出る」と主張したのですが、裁判所は以下の理由を挙げて懲戒解雇は権利の濫用だと判断しました。

  • 風俗で働いていたのは2か月
  • 解雇通告後もホールスタッフとして働いており配置転換などしなかった
  • Xさんは有期雇用のアルバイトにすぎない
    → 企業秩序が侵害されたとしても、程度としては軽微
  • 勤務態度は特に問題なし

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▼ Xさんが獲得したもの
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懲戒解雇は無効になったのですが、Xさんが獲得できたのは4日分の給料の約1万9000円だけでした。5月20日までの契約のところを5月16日に解雇されたので、5月17日〜20日分の給料だけなんです。詳細は割愛しますが「無期雇用だ」というXさんの主張は認められなかったんです。

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▼ もし正社員なら
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もし正社員なら、解雇無効を勝ちとればガッツリ給料をもらえます。バックペイといいます。バックペイとは【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。もし裁判が4年続けば、4年分の給料がもらえます。働いていないのに。

転職してたとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。

最後に

誰しもコレは隠しておきたいなという経歴があると思うんですが、バレた場合は解雇されるリスクがあることを頭に入れておいてください。ただ重要な経歴詐称じゃなければ戦える可能性があります。もし経歴詐称で解雇されそうな方がいれば社外の労働組合か弁護士に相談してみましょう。

■風俗店への要望
辞めた子の写真、すぐに消してあげろや!

今回は以上です。またお会いしましょう!

【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1

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