少子化と18歳選挙権が選挙に与えた影響(原口和徳)

岸田首相が年頭記者会見において「異次元の少子化対策に挑戦する」ことを表明するなど、少子化対策への注目が高まっています。

少子化は選挙にも影響を生じさせています。近年、若者と選挙の関係にどの様な変化が生じているのかを確認してみましょう。

進む有権者の高齢化

図表1は2000年代に行われた参議院議員選挙について、総務省の抽出調査を基に有権者と投票者それぞれの平均年齢と中央値の推移を図示したものです。

図表1_参議院議員選挙における平均年齢の推移

2000年代に入ってからしばらくは平均年齢と中央値ともに右肩上がりの傾向を示しており、少子高齢化の影響を確認できます。また、「18歳選挙権」は、導入された2016年以降の選挙においてそれぞれの値の推移が概ね横ばいとなるなど、少子高齢化の影響を緩和する効果を発揮していることが確認できます。

投票者数に表れる少子高齢化の影響

小さい方から並べたときにデータ全体のちょうど真ん中となる数値を表す中央値は、有権者年齢よりも投票者年齢の方が高くなっています。

このことの背景には、若年層の投票率が他の世代よりも低いことがあります。

図表2_第26回参議院議員通常選挙における年齢階級別ヒストグラム

図表2は、前回参院選での有権者数と投票者数を10歳区切りでまとめています。(10代有権者は20代と合算)

有権者数をみると、10代・20代有権者の数を基準とした場合に最も人数の多い40代有権者は1.25倍、次いで70代有権者は1.20倍の規模と、それほど大きな人数の差がないことがわかります。一方、投票者数を見ると、若者は少なくなり、70代を頂点として年齢が高い世代側に重心のある山型の構造になっていることがわかります。

例えば、10代・20代投票者を基準とした規模は、60代で2.19倍、70代で2.29倍となっています。

過去の選挙とも比較してみましょう。

図表3_第19回参議院議員通常選挙における年齢階級別ヒストグラム

第19回参院選(2001年)では、20代有権者数は60歳代以上の有権者よりも多かったことがわかります。

また、投票者数の比較には、少子高齢化の影響がよりはっきりと表れています。10代・20代有権者の投票率(第19回参院選は20代のみ)は34.4%(第19回参院選)、34.2%(第26回参院選)とさほど違いはありません。一方、70代有権者の投票率は73.3%(第19回参院選)から65.5%(第26回参院選)へと低下しています。

それにもかかわらず、10代・20代投票者(第19回参院選は20代のみ)を基準とした規模は、1.46倍(第19回参院選)から2.29倍(第26回参院選)へと変化しています。

10代有権者は20代よりも高い投票率を記録するものの、2回目以降の減少対策が課題

18歳選挙権が導入された影響も確認しておきましょう。

図表4_若年層の国政選挙での投票率の推移

図表4にある通り、10代有権者の投票率は総じて20代有権者よりも高い水準にあります。

10代投票率と20代後半の投票率に着目すると、10月に実施された衆院選では10代投票率が高く、7月に実施された参院選では20代後半の投票率の方が高くなっています。同じ18歳有権者でも、高校に在学中の人のほうがすでに卒業している人よりも投票率が高くなるとの報告もありますが、そのことが裏付けられています。

また、初めて10代の有権者が選挙権を得た参院選(2016年)では10代に限らず20代有権者の投票率も向上させていました。

一方で、18歳選挙権には、「2回目の投票での棄権」という課題が生じています。

図表5_参議院議員選挙における年代別投票率、投票者数の推移

参院選(2019年)での10代有権者の推定投票者数は約76万人ですが、3年後の参院選での21歳有権者と22歳有権者の推定投票者数は71万人と約7%減少しています。

内訳をみると、参院選(2019年)での19歳世代の投票者数は3年後に増加していますが、18歳世代の投票者数は17%ほど減少しています。

また、国政選挙で初めての10代有権者となった世代でも、投票者数は39%減(2019年)、27%減(2022年)となっています。

18歳選挙権をきっかけとして若い世代の投票を増やしていくためには、「初めての投票」を一度きりの出来事としてしまうのではなく、その後の投票習慣としていくための働きかけが求められています。

今後も有権者の高齢化が進む中で求められること

2022年には80万人を割り込むとされる出生数ですが、長年、対前年比マイナスの状況が続いており、今後も有権者に占める若者世代の割合は低下していくことになります。

世代の違いが政治に要求するものを決める唯一の要素となるわけではありませんが、当事者だからこそ鮮明に感じることのできる問題もあるはずです。そのような中で、自分たちの世代の人数が他の世代よりも少ないということは、選挙に参加するためのモチベーションを下げる十分な理由となってしまいます。特に様々な政策課題に対して「選挙で示された民意」が強調されることの多い昨今の風潮の中では、その影響が強まります。

人口構成というすぐには変えられない条件によって最初から不利な立場に置かれることがわかっている若者に選挙への参加を促すためには、意識啓発に加えてより若者を優先した参加しやすい環境づくりが必要となります。

日本でも大学や高校、ショッピングモールなどの若者がいる場所へ投票所を設置することや投票所の運営に若者が参加する取組み、投票済証明書を使った各種割引サービスなど、様々な取組みが行われています。また、海外に目を向けてみると他にも様々な取組みが行われていることがわかります。
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成功するものもそうでないものもあると思いますが、これからも少子高齢化が続くことが見込まれる中だからこそ、各地の取り組みを参考に選挙を通して若者も一緒に日本の、地域の未来を選択していくことのできる環境づくりが求められています。

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