「殺すなら殺せ」金正恩命令に抗った”10人の金持ち”の運命

北朝鮮で毎年1月から行われる「堆肥戦闘」。不足する化学肥料を補うために、人糞を集めさせて大量の堆肥を作らせる動員事業だ。

今年も当局は「ご飯を食べている者はひとり残らず堆肥生産に乗り出せ」と、国民に堆肥戦闘総動員令をかけている。そのせいで経済活動はストップしてしまい、食糧不足の中で現金収入を絶たれた人々はさらに苦境に立たされる。

一方で、経済的に余裕のある人は、ワイロを使って堆肥を納めたことにしてもらい、面倒な作業を避ける。また、サボタージュを行う人もいる。これに対して、当局は取り締まりに乗り出した。黄海北道(ファンヘブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

沙里院(サリウォン)市内の大城洞(テソンドン)と駒泉洞(クチョンドン)では先月末から、サボタージュを行う人が多く現れた。大城市場の闇両替商10人は、口裏を合わせたかのように、一斉にサボタージュを始めた。

「先月から1ヶ月以上、休みもなく堆肥生産に追いやられ、この手の社会的動員に苦しめられた人が『殺せるなら殺せ』と組織的な動員指示拒否を行っている」(情報筋)

昨年は、月の半分を堆肥の生産と運搬に毎日動員され、残りの半分は2〜3日に1回動員されていたが、今年は1月の1カ月間、毎日動員されたという。すると、これに不満を抱いた人々がサボタージュを始めた。

言うまでもなく、堆肥生産は農業の重要課題であり、農業は金正恩総書記が自ら旗を振る重要政策のひとつだ。それに反抗したと見なされたら、反逆者として極刑を下される可能性すらある。

それに、北朝鮮で闇両替は当然、違法行為だ。その点だけでも、刑事事犯として厳罰を受ける可能性がある。

ただし、闇両替商を営むには相当の経済力と、強力なコネが必要になる。「多少反抗したところで、われわれには手を出せまい」彼らはそう思ったのかも知れない。

だが、そうはならなかった。人民班(町内会)や洞事務所(末端の行政機関)から報告を受けた朝鮮労働党沙里院市委員会は、沙里院市安全部(警察署)に対策を立てるよう指示した。

安全部は、サボタージュに参加していた10人を郊外の嵋谷(ミゴク)協同農場に連行し、強制労働をさせている。この話を聞いた市民は、生活苦への対策を取るのではなく、動員を拒否したからと強制労働をさせる当局のやり方に驚愕しているとのことだ。

だが、これでもマシな方かも知れない。

嵋谷協同農場といえば、故金日成主席の時代から「模範的な農村」とされた施設の整ったところで、外国人観光客も訪れるほど。何のコネもない一般市民だったら反動分子にされて、奥地の農村に追放されていた可能性もある。

闇両替商たちの思惑は、半ば成功したと見ることもできるかもしれない。

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