「育休」女性社員の職場復帰を拒否・解雇… 会社の「言い分」に裁判所が下した判断は?

「妊娠したら会社を辞めてもらう」

この言葉は、外国人技能実習生が会社や関係団体から浴びせられたものです。国の初めての実態調査では約4人に1人がこのような発言を受けていたことが明らかになりました。

この仕打ちは外国人だけでなく日本人女性も受けています。育休を取得したら「解雇させられた」「降格させられた」などのケースが見受けられます。

今回は、育休からの復帰を拒否され、解雇された事件を解説します(シュプリンガー・ジャパン事件:東京地裁 H29.7.3)。

会社は何だかんだ理由をつけて解雇したのですが、結果は女性社員の勝訴です。相談機関なども解説します(弁護士・林 孝匡)。

どんな事件か

会社は英文の学術書や専門誌などの販売を行っていました。女性社員のXさんは論文などの電子投稿査読システムをサポートする仕事をしていました。

1回目の育休からの復帰はうまくいったんです。経過は以下のとおり。

平成22年9月 産前産後の休暇
10月 出産 → 育児休暇
平成23年7月 職場復帰

問題は2回目の育休です。

平成26年8月 産前産後の休暇
9月 出産 → 育児休暇

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▼ インドに行け!?
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平成27年3月、Xさんは育休から復帰しようと会社に調整を申し入れました。しかし会社は拒否。

Xさんに対して「チームの業務は7人で回せているのあなたを復帰させるのは難しい」「会社に戻りたければ、インドの子会社に転籍するか、収入が大幅にさがる総務部のコンシェルジュ職に移るしかない」と突きつけました。赤子いるのにインドて...。

Xさんは会社の提案に応じることができず、仕事ができない状態が続きました。

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▼ 調停の申し立て
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Xさんは労働局雇用均等室に助けを求め、調停を申請しました。労働局はXさんの主張が正当だと判断し、平成27年10月、会社に対してXさんの主張に沿った調停案を出しました。

しかし会社は調停案を受け入れず。調停は打ち切りとなりました。

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▼ 解雇
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会社は、平成27年11月30日、Xさんを解雇しました。会社はXさんのことを手に負えない社員と煙たがっていたようです。解雇理由として「協調性が不十分で注意・指導しても改善の見込みがない」などたくさん挙げました。

問題行動の多い社員とマークされていたようです。Xさんは納得できず訴訟を提起。

両者の主張

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▼ Xさんの主張
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Xさんの主張は「妊娠や育休を理由に解雇したので無効だ」「合理的な理由がないから無効だ」というもの。主張の根拠は下記の条文です(+ 労働契約法16条)。

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男女雇用機会均等法9条3項 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと〜を理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

育児介護休業法10条
第十条 事業主は、労働者が育児休業申出〜し、〜育児休業をしたこと〜を理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない
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▼ 会社の主張
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会社の主張は「妊娠などを理由に解雇したんじゃないです。協調性が不十分などの理由で解雇したんです」というもの。

そりゃそうなんです。妊娠などを理由で解雇したら1発アウトなので、会社は他の理由を挙げてきます。

裁判所の判断

Xさんの勝訴です。裁判所は「解雇は無効だ」と判断しました。理由はザックリ「妊娠などと近接した時期に解雇されてるし、解雇事由に合理的理由がないってことを当然に認識するべきだった」というものです。

会社はいろいろな事情を挙げて「Xさんは問題行動の多い社員だったんです!」と主張しましたが解雇を有効とするまでには至りませんでした。

会社が主張したXさんの問題行動を一部挙げると、自分の待遇に不満を持って上司に執拗(しつよう)に対応を求める、自分の決めた方針にこだわり上司の指示にもスッと従わない、時に感情的になって極端な言動をとる、皮肉あてこすりのような言動をとる、など。

会社からすれば「キングオブめんどくさいやつ!」ってことだったんでしょう。

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▼ 解雇が無効になった理由
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しかし解雇は無効と判断されました。裁判所が提示した理由をザックリ挙げます。

  • Xさんの能力、成績は優秀な部類(人事評価などを見て)
  • Xさんに何らかの問題があったとしても、会社はそれを甘受すべきだ
  • 他の社員の生命身体に危険をさらすくらいヤバければ解雇もできるけど
  • 今回そういった裏付けないよね
  • これまで懲戒処分を行ったことがない
  • 文書による注意もない
  • なのにいきなり解雇。手順が踏まれていない
  • ってことは解雇に合理的理由がないと十分に認識できたよね

という理由を挙げました。

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▼ 衝撃のバックペイ
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解雇が無効となれば社員の方はバックペイを頂けます。バックペイとは【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。

今回のケースではザックリ1年7カ月分(平成27年12月〜平成29年7月)の給料が支払われることになったと思います。年2回のボーナスも頂けてます。おめでとうございます。

もし裁判が4年続けば、4年分の給料がもらえます。働いていないのに

転職してたとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。

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▼慰謝料は基本ムリ
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慰謝料は基本ムリなんですが、今回は50万円の慰謝料が認められています。理由は、受け入れがたい選択肢(インド...)を提示されて退職勧奨を受けた、紛争調整委員会の勧告にも応じていないというものです。

Q.
慰謝料の金額が50万円になったのは、なぜですか?

A.
分かりません!裁判官が部屋でハーブティーを飲みながら脳内でガラガラポンです。

最後に

会社は妊娠などを理由に解雇したら1発アウトなので、それ以外の理由を挙げて解雇してきます。

解雇だけでなく、妊娠などを理由とした降格などの不利益取り扱いも違法です。出産を経て理不尽な理由で配転・降格などされそうなときは労働局雇用均等室に助けを求めてみましょう。

今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!

【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1

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