投資をしていて【確定申告】した方がお得になるのはどんな人?知っておきたい「総合課税」のルール

税金が増えるのに、将来もらえる年金が減っていく……お金に対する不安をあおる報道が続くなか、NISAやiDeCoを活かして、投資や節税に関心を寄せるようになった方も多いのではないでしょうか。でも、「税金やお金のこともよくわからないのに、投資も始めてしまいパニック状態になっています」ですって?

なんて……嘆かわしい!

情報や知識も得ずに投資や税と向き合っていると、お得な手続きを逃してしまうこともありますよ。今回は投資の税について、お笑い芸人で現役の税理士である税理士りーなが解説します。


投資の税の基本

日本では、収入(儲け)があれば「所得税」と「住民税」という2種類の税金を納めなければならないという基本ルールがあります。給与収入のみという方は、これら税金の手続きは会社がやってくれるので、自分で税務署に行って申告など手続きをすることはほとんどありません。

「年末調整」で1〜12月の収入をもとに所得税の計算をして、そのデータが住んでいる自治体に送られて住民税の計算がされます。所得税は1月から11月まで概算で少し多めの税金を天引きしておいて、年末で精算します。住民税は翌年5月ごろ、納付書が届いて6月から年間の税額を12で割った金額を1年かけて毎月納付していきます。

この2種類の税金、投資に関するものはどのようにして納付がされているのでしょうか?

まず投資に関する税の基本は、自分の手元から株や投資信託などに投資をした時点(お金を出した時点)では税金は発生しません。税金を意識するタイミングは、自分が出した金額を超える金額を受け取ったとき、つまり「儲かった時」です。

(1)会社の株式に投資して配当金を受け取った
(2)株や投資商品を売ったら買った時の金額より高い金額で売れた

例えば、A会社の株を10万円出して買ったとしましょう。そして、A会社が「1年分の会社の儲けから、株主の皆さんに5,000円ずつの配当を出します」と言って5,000円を受け取ったら、この5,000円が(1)の儲けです。

A会社の業績や評判が良く、A会社株の価値がどんどん上がったところで、A会社の株を売ったら12万円で売れたというのなら、12万円―10万円=2万円が(2)の儲けです。

これら、(1)(2)いずれの儲けに対しても、所得税が15.315%と住民税が5%、両方合わせると20%ちょっとの税金がかかります。例で挙げた(1)と(2)を合わせると25,000円の儲け、税率をかけるとその税額は5,078円です。税金を差し引きした手取りは19,922円、2万円を割ってしまいました。なんて……嘆かわしい!

でも、「これら20%チョイの税金をナシにしてあげますよ」というのがNISA制度です。25,000円儲かったら、25,000円まるまる自分のものになります。
NISAで投資をすることで、国が20%以上の税をマケてくれているのです。なんて……喜ばしい!

「なんだか投資を始めた方がよさそう」と、普通に投資を始めてしまうよりも、同じ投資をするのならまずはNISAで投資を始めてください。

3種類ある証券口座の違いは?

証券会社には口座の種類が3種類あります。「一般口座」「特定口座」「NISA口座」です。銀行口座を開設すると、初めに「普通預金口座」ができるように、証券会社の口座も初めに「一般口座」は必ず開設されます。

NISAの口座を開設したいなら、一般口座とは別にNISA口座開設の申し込みが必要で、NISA口座は1人につき1つの証券会社でしか運用することができません。この「NISA口座」というところで株や投資信託などの金融商品を買い付けることで、儲かった時の税金をナシにしてくれるということです。

一方、一般口座や特定口座で買い付けたものは、配当受取や売った時に儲けが出たりすると、20%チョイの税金がかかるということです。つみたてNISAをしている方は、投資信託の積立商品しか買付ができませんので、企業の個別銘柄の株を買いたいという場合、一般口座または特定口座で買うことになります。一般でも特定でも、配当金については必ず20%チョイの税金が事前に引かれて、残りの金額が手元に入ってきます。

一般と特定の違いは、一般口座で買付したものは売買の儲けについて、自分で計算して確定申告して納付することが必要で、特定口座で買付したものは、配当も売買の儲けも全て全部ひとまとめにして税金の計算を自動でやってくれるという口座です。

特定口座では税金の手続きについて、取引のつど税金の計算を勝手にやって税を天引きしておいてもらえる、「源泉徴収あり」という設定をすることができます。特定口座で買付をし、配当受取や売買益が出た場合は、1月1日〜12月31日の取引分の儲けを集計して、ひとまとめにして税金の精算一覧表をもらうことができます。「特定口座年間取引報告書」という、この一覧表は確定申告の資料として用いることもできます。

特定口座を設定していない場合は、一般口座で売却したものについて、税金の精算がされていませんので、自分で確定申告をして儲けに対する税金を計算して、税金を納付する必要があります。

「自分で手続きするのが面倒」という方は、特定口座を開設して「源泉徴収あり」にしておくと、確定申告は必要ありませんからオススメです。

確定申告をした方がいいケースは?

特定口座で源泉徴収ありに設定しておくと自分で申告する必要がなく、証券会社から1年分の取引報告書が届いたとしても「へぇ〜」と寝そべりながら眺めるだけで良いのか〜、ですって? なんて…嘆かわしい!

実は、特定口座で税金が事前に納付されている場合でも、確定申告すると税金が返ってくることがあります。

通常、株に関する配当のもうけや売却した時の儲けは「分離課税」と言って、他の収入やもうけとは違うくくりで計算して、所得税の税率は一律で15.315%です。ただし、このうちの「配当金」による儲け分(配当所得)については、確定申告をする時に「総合課税」と言って、他の収入やもうけと同じくくりで計算してもらうこともできます。

例えば、給与が年収300万円の人は所得税率が5%になり、配当所得を「総合課税」で一緒に計算すると、配当に対する税率も5%になるので、15%の税率で計算されるよりも所得税の金額が10%分も安くなります。同様に、給与が年収400万円の人も、所得税率が10%になるので、配当所得を「総合課税」で一緒に計算すると、配当金に対して5%分の所得税が安くなります。

いずれの場合も、住民税の税率が5%アップすることになりますが、令和4年分の確定申告書には「住民税に関する事項」という入力欄で、「住民税の方では配当を確定申告しなかったことにしてください」と指定することができます。

「え、本当にいいんですか?」と思うようなありがたい話ですね。ただし、これができるのは今回が最後です。令和5年分からは、所得税と住民税は申告内容をそろえなさい、というのが決定してしまっています。

反対に、給与が年収1,000万円なら所得税率は23%になります。配当所得を分離課税のままにしておけば配当分の税率は15%で済みますから、「総合課税」で一緒に計算すると分離のときよりも8%分の税率がアップすることになりますから、給与年収が1,000万円を超える方は申告しない方が有利なケースもあります。

確定申告のメリット「配当控除」

確定申告をするメリットは、税率が下がるだけでなく「国内株式の配当金」について、「配当控除」という税金が安くなる特別ルールがあるので、保有しているのが国内株式であればさらに税金の還付額が増えます。

この「配当控除」は、日本の企業が儲けた分に対しては国に法人税を納めていて、その税金がかけられた儲け分を株主に分配しているのに、さらに株主が受け取る配当金にまで所得税を課税すると、法人税の上に所得税を2重に課税していることになるので、企業が法人税を払ってくれている分については株主の方で所得税を納めなくていいですよ、という意味で「配当控除」という特別ルールが設けられているのです。

配当控除で引いてくれる金額は、個別の国内株式の場合は配当所得の10%です。投資信託の場合は5%になりますが、信託商品でも国内の株式に投資している割合が少ないとこの率が2.5%、1.25%とどんどん下がります。日本の個別株を持っていて配当を受け取った方は、配当金に対して10%もの所得税が還付されますので、確定申告して還付を受けたいものですね。

なお、所得税・住民税の税率と配当控除との兼ね合いを見ると、所得税率が33%以下で、なおかつ配当控除の10%をまるまる受けられる方は、確定申告をした方が有利になります。配当控除は、所得金額1,000万円以内の部分はまるまる10%の控除を受けられますが、配当所得とそれ以外の所得金額を合計して1,000万円を超える部分は、5%しか控除を受けられません。

給与収入がある方は、会社から発行された源泉徴収票を見て「給与所得控除後の所得金額」を確認して、配当金額を足した金額が1,000万円を超えないかチェックしてみましょう。

確定申告するには?

確定申告をすることになれば、パソコンやスマホで国税庁の確定申告サイトから申告書を作成できます。マイナンバーカードをお持ちの方は、e-Taxの電子申告で提出を行うことができます。

e-Taxを利用して確定申告を行うには、国税庁「確定申告書等作成コーナー」というページにある、「作成開始」ボタンから「所得税」の申告書を作成します。質問に答えながら入力を進め、「給与所得」で源泉徴収票に記載の内容をもれなく入力した上で、「配当所得」についても入力を行います。

画像:国税庁「確定申告書等作成コーナー」より引用

「総合課税」を選択して、「特定口座年間取引報告書」の内容を入力してください。

どんな金融商品をいくら持っているかという内訳を入力する欄では、すべて国内株式であれば「投資法人の投資口」は「0円」と入力すれば、すべての配当について10%の配当控除を受けることができます。

なお、ふるさと納税をワンストップ制度で手続きされた方は、確定申告書を提出するとワンストップの手続きはすべて帳消しにされてしまいますので、「寄附金控除」というところで入力をしましょう。ふるさと納税サイトで寄附金控除に関する申告データや必要な書類をダウンロードできますので、準備して申告してください。

そして、最後に「住民税申告不要制度」の入力を忘れないようにしましょう。この手続きを忘れずに行うことで、住民税の税額は配当金を含めず5%の天引き分だけで済ませてくれます。入力を進めると、最後に「住民税・事業税に関する事項」という画面が出てきますので、ここを入力します。

画像:国税庁「確定申告書等作成コーナー」より引用

その中にある「6株式等譲渡所得割額控除額がある方の入力項目」で、「特定配当等について住民税で申告不要としますか?」という項目がありますので、「はい」を押してください。

最後まで入力して、計算結果が「◯円 還付です」と表示されたら、あとは、住所やマイナンバー、還付の銀行口座など入力を最後まで行い、電子申告で提出または印刷して税務署に提出しましょう。配当に関する税金の還付を受けることができます。

なお、もし計算結果が「◯円 納付です」となったら、確定申告をしないほうが有利な方に該当します。ご自身がどちらになるのかわからない方は、まずは金額の入力だけして、計算結果を確認してみてください。


知っている人だけが得をする「確定申告しなくていいけど、申告してしまおう」というテクニック。税金の還付が思わぬ臨時収入になり「なんて……喜ばしい!」ですよね。

令和4年分の所得税などの確定申告の受付は、2月16日(木)から開始しますが、還付申告は1月からすでに始まっています。自分は該当するかもと思われた方は、ぜひ国税庁のサイトから確定申告に挑戦してみてください。

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