トルコ・シリア大地震は、発生から一週間を迎えた。シリア北西部イドリブでの死者はこれまでに3000人以上、負傷者数は5000人を超える(イドリブ保健当局集計)。がれきの中から救出され、現在、イドリブ大学病院で治療を受ける子どもたちに、地元記者の協力のもとネット電話を通して話を聞いた。(取材協力:ムハンマド・アル・アスマール 構成:玉本英子)
◆がれきの下敷き、凍るような寒さの中、意識失い
地震が起きたのは午前4時すぎ(シリア時間)。ムハンマド・アル・ハサンくん(12歳)はイドリブ西部バスニア村の自宅アパートで就寝中だった。すさまじい揺れに目が覚めた。
「『地震だ、早く家を出ろ』とお父さんが叫びました。急いで逃げようとしましたが、上から何かが落ちてきて、がれきの下敷きになって身体が動けなくなりました。その間、凍るような寒さで本当に怖かった。そのあと意識を失ってしまいました」
およそ3時間後、民間防衛隊が、がれきをかきわけて救出、市内の病院に搬送された。ムハンマドくんは肩を骨折し、頭に打撲傷を負った。両親は助かったが、妹のヌールちゃん(6歳)は遺体で発見された。
「いま何か必要なものはある?」との問いに、ムハンマドくんは「何もいらないから、安心できる場所だけがほしい」とつぶやいた。
◆25時間後に救出も、両親ときょうだいが犠牲に
ヤザン・ムハンマドくん(4歳)は、地震発生から25時間後に倒壊したアパートのがれきの中から救出された。親族によると、助け出された時、父親はヤザンくんを守るように抱いた状態で亡くなっていたという。母親と彼以外のきょうだい全員も犠牲となった。
幼い彼は、家族が亡くなったことをまだ理解していないようだった。しかし、大きなショックを受けたからか、彼に声をかけても反応はなく、無心にスマホで子ども番組の動画を見つめていた。
記者によると、イドリブ大学病院では搬送されてきた負傷者が治療を受けているが、人員も設備も十分ではなく、医療スタッフも疲労困憊した状況だという。
◆内戦で疲弊した地域、地震が追い打ち
反体制諸派が実効統治するイドリブでは、地元市民からなる民間防衛隊のスタッフが中心となり、がれきの中に閉じ込められた人たちの救出活動にあたってきた。これまでに救出されたのは2950人。
隊員のひとり、フィラス・アル・ハリファさん(33歳)の自宅は亀裂が入り、損傷した。フィラスさんは妻子を親族に預け、地震発生直後から救出活動に取り組んできた。
「これまで空爆で破壊された建物から人々を救出してきましたが、地震の被害ははるかに大きいです。各地で同時に建物が倒壊しているため、どこから救助を始めるのか、その判断にも苦しみました。父親にしがみついている子どもの2人の遺体を掘り出した時は、心がつぶれる思いでした」
2月6日の地震発生から1週間が経過しようとしているなか、救出活動は続いている。時間の経過とともに、新たな生存者が救出されることはなくなり、発見されるのは遺体だと、フィラスさんは話す。
イドリブと接する2つのトルコ国境ゲートが開き、国際支援組織の食料やテントなどの支援が始まった。しかし、まだ市民に物資が十分に行き渡っている状況にはないと、ムハンマド記者は伝えている。
建物が倒壊し、路上や畑など屋外で寝泊まりしていた市民も、現在はテントに身を寄せるが、夜は氷点下になるため、厳しい状況という。
「内戦ですべてが疲弊した地域では、災害に対応する力がありません。住民たちは苦しい状況に追い込まれています」
ムハンマド記者は言う。
※民間防衛隊(ホワイトヘルメッツ):戦闘や災害で被害を受けた市民を救急救護するための民間組織。おもにシリアの反体制派エリアで活動。レスキュー活動のほか、医療支援などにも従事する。
あわせて読みたい記事- <トルコ・シリア大地震>シリア側でも被害深刻 イドリブの地元記者語る