「後継者なし」は大きな経営リスク 1月は過去最多の36件、5カ月連続で30件超

~ 2023年1月「後継者難」倒産の状況 ~

 2023年1月の後継者不在による「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は36件(前年同月比12.5%増)で、1月としては2年連続で前年同月を上回った。また、1月の件数は、調査を開始した2013年以降、2020年に並び最多を記録した。

 要因別では、代表者の「体調不良」が19件(構成比52.7%)、「死亡」が16件(同44.4%)で、この2要因で「後継者難」倒産の97.2%(前年同月84.3%)とほとんどを占めた。
 産業別では、最多がサービス業他の12件(前年同月比140.0%増)で、1月では初めて2ケタに乗せた。このほか、製造業6件(同20.0%増)、小売業4件(同33.3%増)、情報通信業2件(前年同月ゼロ)の4産業で前年同月を上回った。
 2022年の経営者の平均年齢は、63.02歳(前年62.77歳)と上昇が続く。2022年の「後継者不在率」調査(約17万社対象)では、約6割(59.9%)の企業で後継者がいない。また、同年に休廃業した企業の経営者は、60代以上が全体の86.4%を占めるなど高齢化が進んでいる。
 企業倒産は、コロナ関連支援の効果が薄れ、増勢を強めている。そうしたなか、「後継者難」倒産は2022年9月から5カ月連続で30件超で推移している。中小・零細企業は、資金余力が乏しく、事業承継や後継者育成に独自で取り組むことは難しい。銀行は規制緩和が進み、投資専門子会社を通じた企業買収が可能となり、「事業承継」ファンドの設立が相次いでいる。こうした動きに連動した形で、中小・零細企業の事業承継が進むか注目される。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2023年1月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。

1月は2年連続で前年同月を上回る

 2023年1月の「後継者難」倒産は36件(前年同月比12.5%増)で、1月としては2年連続で前年同月を上回った。調査を開始した2013年以降では、2020年に並ぶ最多件数を記録した。しかし、負債1,000万円以上の倒産に占める構成比は6.3%で、前年同月の7.0%より0.7ポイント低下した。
 コロナ禍も3年が経過し、負債1,000万円以上の企業倒産は2022年4月から2023年1月まで10カ月連続で前年同月を上回り、増勢を強めている。そうしたなか、「後継者難」倒産も高水準で推移し、企業存続において重要な課題として浮上している。
 金融機関や一般企業は、業績だけでなく代表者の年齢や後継者の有無も与信判断の材料にしている。ただ、代表者が高齢になるほど事業承継や後継者育成への取り組みが難しく、資金調達に支障を来すこともある。このため、事業承継だけでなくM&Aや事業譲渡なども視野に入れ、自治体や金融機関、投資ファンドなど第三者の支援が必要になっている。

後継者難推移

【要因別】「体調不良」が5割

 要因別件数の最多は、代表者などの「体調不良」が19件(前年同月比90.0%増)で、2年連続で前年同月を上回った。構成比は52.7%で、前年同月の31.2%より21.5ポイント上昇した。
 次いで、「死亡」の16件(前年同月比5.8%減、構成比44.4%)で、2年ぶりに前年同月を下回った。
 代表者の「死亡」と「体調不良」は合計35件(前年同月比29.6%増)で、2年連続で前年同月を上回った。構成比は97.2%で、前年同月(84.3%)より12.9ポイント上昇した。
 「高齢」は、2015年以来、8年ぶりに発生しなかった。
 代表者の高齢化が進むなか、代表者などの「死亡」や「体調不良」は経営上の大きなリスクになっている。

後継者難 要因別

【産業別】10産業のうち、4産業で増加

 産業別件数は、10産業のうち、製造業、小売業、情報通信業、サービス業他の4産業で、前年同月を上回った。
 最多は、サービス業他の12件(前年同月比140.0%増)で、1月としては2年ぶりに前年同月を上回り、初めて10件超になった。構成比は33.3%で、前年同月(15.6%)より17.7ポイント上昇した。
 このほか、製造業6件(前年同月比20.0%増)と小売業4件(同33.3%増)が2年連続、情報通信業が2件(前年同月ゼロ)が2年ぶりに、それぞれ前年同月を上回った。
 一方、卸売業が6件(前年同月比14.2%減)で2年ぶり、不動産業が1件(同50.0%減)で5年ぶりに、それぞれ前年同月を下回った。また、農・林・漁・鉱業(前年同月1件)が2年ぶり、運輸業(同4件)が4年ぶりに、それぞれ発生しなかった。
 建設業が前年同月と同件数の5件、金融・保険業は2年連続で発生しなかった。

 業種別件数では、型枠大工工事業、塗装工事業、ガラス工事業、海藻加工業、織物製成人女子・少女服製造業、宗教用具製造業、配管工事用附属品製造業、電球製造業、受託開発ソフトウェア業、映画・ビデオ制作業、雑穀・豆類卸売業、各種食料品小売業、鮮魚小売業、公認会計士事務所、経営コンサルタント業、食堂,レストラン、喫茶店、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所、訪問介護事業、一般機械修理業、職業紹介業、警備業などが各1件で、前年同月を上回った。

後継者難 産業別

【形態別】破産が8割超

 形態別件数は、消滅型の「破産」が前年同月と同件数の31件だった。構成比は86.1%で、前年同月(96.8%)より10.7ポイント低下した。「特別清算」は2件(前年同月ゼロ)で、2年ぶりに発生した。一方、再建型の「会社更生法」が調査を開始した2013年より、「民事再生法」が6年連続で、それぞれ発生しなかった。
 業績不振が続く企業では、後継者の育成や事業承継の準備が後回しになり、代表者自身が事業を遂行できなくなった場合、経営に支障をきたし、消滅型の破産を選択することがほとんどだ。

後継者難 形態別

【資本金別】1千万円未満が半数以上

 資本金別件数は、「1千万円未満」が20件(前年同月比33.3%増)で、1月としては2年連続で前年同月を上回った。構成比は55.5%で、前年同月の46.8%より8.7ポイント上昇した。このほか、「1千万円以上5千万円未満」15件と「5千万円以上1億円未満」1件が、それぞれ前年同月と同件数だった。一方、「1億円以上」は、2年ぶりに発生しなかった。

後継者難 資本金別

【負債額別】1億円未満が7割超

 負債額別件数は、「1億円未満」が28件(前年同月比21.7%増)で、1月としては2年連続で前年同月を上回った。
構成比は77.7%で、前年同月(71.8%)より5.9ポイント上昇した。内訳は、「1千万円以上5千万円未満」20件(前年同月比66.6%増)が、2年連続で前年同月を上回った。
一方、「5千万円以上1億円未満」8件(同27.2%減)は、2年ぶりに前年同月を下回った。
 このほか、「1億円以上5億円未満」が前年同月と同件数の8件だった。「5億円以上10億円未満」は2年ぶり、「10億円以上」は6年連続で、それぞれ発生しなかった。

後継者難 負債額別

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