AIに適応できない人は失業!?オックスフォード大教授が予測する未来とは 話題の「チャットGPT」はグーグル検索に置き換わるのか

 インタビューに答える英オックスフォード大のマイケル・オズボーン教授=1月27日、東京都渋谷区

 10~20年後に、国内労働者の49%の職業が人工知能(AI)やロボットで代替可能になる。2015年にこんな大胆な予測を発表した英オックスフォード大のマイケル・オズボーン教授(41)が1月に来日し、共同通信のインタビューに応じた。予測の発表から8年。AIはどれほど進化し、予測は現実のものとなりつつあるのか。昨年11月に公開され世界的な反響を呼んでいる対話型AI「チャットGPT」の可能性も含め、AIの未来について話を聞いた。(共同通信=桑島圭、吉無田修)

 ▽正しかった予測と間違った予測
 AI研究の第一人者であるオズボーン教授は職業データを用いてテクノロジーが雇用に及ぼす影響を分析した。日本に関しては601業種を対象とし、労働人口で49%に当たる職業がAIやロボットで代替できるようになる可能性が高いとの研究結果をまとめた。定型的な仕事はAIに取って代わられる傾向がある一方、芸術など抽象的な概念を扱う職業や、人とのコミュニケーションが求められる仕事はAIが担うことは難しいと指摘した。

 ―当時の予測に対し、現在のAIの発展をどのように評価していますか。
 「AIの変化のスピードは非常に速かった。予測が正しかったことと間違っていたことの両方がある。自動運転の予測は楽観的すぎた。当時は1年後にも公道を走ると言われていたが、現在でも極めて限定的だ」

 「正しかった予測もある。ファッションモデルの98%ぐらいがオートメーション化できると予測した。現在、AIが生み出すデジタルモデルが台頭している。デジタルモデルは洋服やヘアスタイル、背景をさまざまに組み合わせて何度でも生み出すことができる。人間よりもはるかにコストが低い」

 「過小評価していたのは、大規模言語モデルの分野だ。昨年11月、(米新興企業の)オープンAIがチャットGPTを発表した。期待をはるかに超える反響があった。この技術はコピーライティングやソフトウエアエンジニアリングの職種に大きな影響を及ぼすだろう」

 オープンAIが開発した「チャットGPT」の画面

 ―なぜ自動運転の開発は遅れたのでしょうか。
 「めったに発生しないが一度起きると非常にインパクトが大きい事態に対応できていないという問題がある。消費者に安心してもらうには、新しいインフラの整備が必要だ。過去のモビリティ革命でも同様な必要性があった。例えば、電車を動かすために鉄道が整備されたことと同じだ」

 「法的な枠組みの整備も重要だ。消費者が自動運転を受け入れるようになるには、保険契約が必要だ。この分野で私は現在、あいおいニッセイ同和損害保険と研究に取り組んでいる」

 ―東京のような環境で自動運転の実用化は難しいですか。
 「大都市では数百万という車が走行し、いろんなことが起こり得る。しかも自動運転の技術には高い信頼性が求められる。その中で、1日1回の死亡事故もあってはならないというのであれば難しい」

 ―自動運転車が実用化され事故が起きた場合、だれが責任を負うのか。
 「使い方にもよるが、一番の責任はメーカーが負うべきだと思う。特に、米電気自動車(EV)テスラのような企業は自動運転が万全であるという印象をもたらしており、メーカーの責任は大きい」

 英オックスフォード大のオズボーン教授

 ▽コロナが長期的なイノベーションを阻害
 ―AIに取って代わられる職業と、そうでない職業の違いはどこにあるのでしょうか。
 「ある職種の中でも全ての仕事が代替されるわけではない。AIができない仕事は人間が担っていく。ファッションの分野でも、ショーで歩くのは人間のモデルだろう」

 「技術変化によって、全ての職種が変わる。AIとコラボレーション型で行う職種が増えてくるだろう」

 ―新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)はAIの発展にどのような影響を及ぼしましたか。

 「短期的にはコロナがAIの発展を推進した。感染リスクを減らすため、人間同士の接触をなるべく減らそうと多くの企業が自動化に投資をした。ホテル、飲食、小売りなどの例が挙げられる。そして消費者にも、より自動化された商品やサービスを使いたいという傾向が見られる」

 「だが長期的にはむしろ、イノベーションや自動化が減速するのではないかと思う。コロナ禍によって世界がより貧しくなったからだ。多くの人が亡くなり、今も感染症にかかっている人がいる。その上、コロナ禍を通じて国内に回帰する企業が増え、貿易が鈍化している。リモートの会議が増え対面の交流が少なくなった。これがイノベーションを阻む可能性もある。対面で人と人が交流するほうがイノベーションが生まれるという事実がある」

 ▽画像生成AIは創造性を拡張
 オズボーン教授が予想を上回る進化があったと指摘したのが、大規模な言語モデルを基にした対話型AIと、イラストなどを生み出す画像生成AIだ。対話型AIの代表例のチャットGPTは利用者がサイトで質問事項を記入すると、人間が書いたような文章ですらすらと答えが返ってくる。画像生成AIでは、利用者が単語や文章で描いてほしいイメージを指示すれば、それに沿ったイラストが短時間で生み出される。

 画像生成AI「ミッドジャーニー」が出力した画像。英語で「五輪で金メダルを獲得したキリン」と入力

 ―チャットGPTが大きな反響を呼んでいますが、回答内容には間違いも多いです。
 「確かにそうだ。検索エンジンと同じように考えた方がいいのではないか。多くの人が検索の使用に慣れたが、検索結果が必ずしも正しいとは限らないと分かっている。チャットGPTのような大規模言語モデルについても、利用者は同じ対応をしていくのではないか。重要な情報に関しては、クロスチェックをするような習慣になる」

 ―チャットGPTは検索エンジンに置き換わるのでしょうか。
 「グーグルは警戒しているようだ。だから創業者のサーゲイ・ブリン氏やラリー・ペイジ氏を呼び戻し、AIツールに関して評価することに注力している。大規模言語モデルが検索と同様の機能を果たしながら、検索を補完する関係性もあるだろう」

 ―創造性のある仕事はAIに代替されないと言われてきましたが、画像生成AIはデザイナーの仕事ができるようになりました。

 「AIにとって一番不得意な分野は、クリエーティビティ(創造性)と社会的知能を要するものだ。それに変わりはない。ビジュアルアーツにおけるAIの影響調査を数年前に行い、最先端技術を扱っているアーティストやテクノロジー関係者にインタビューした。みんなが口をそろえて言ったのは、画像生成AIは人間のクリエーティビティに取って代わるものではなく、それを拡張するものだということだ。技術を有効活用するには、AIに指示を出さないといけない。それにもクリエーティビティやインテリジェンスが必要だ」

 「画像生成AIに指示すると、何百万のイメージが出てくる。その中で最良のものを選択する目利きでなければならない。指示を出すことはアートではないと言う人もいる。だが、カメラが発明されたときも同じようなことを言う人がいた」

 「ビジュアルアーツの世界が大きな影響を受けることは間違いない。ただ、より多くの人がクリエイターになり、アーティストの数が増えるだろう。イラストレーターが全部失業するわけではないが、そういうものに適応できない人は失業するだろう」

© 一般社団法人共同通信社