アシックスにミズノも…5社の決算を比較してわかった、不景気でもスポーツブランドが好調な要因

連日の決算発表祭りがひと段落つき、発表翌日の上げた、下げたに一喜一憂しなくてもよい平和な日々が戻ってきました。とはいえ、ここからが投資家としての本領発揮。決算直後は、決算内容がよくても下げたり、悪くても上げたりとチグハグな株価の動きをすることが多いものですが、1週間、10日と経つうちに、正常な動きに落ち着きます。そうなってから、本当に決算のよかったものをじっくり買っていくのがわたしの得意な戦略です。

ひと通り決算に目を通した雑感は、原材料、エネルギー価格の高騰に泣いている企業が多いこと。価格転嫁がスムーズに行われている企業は、利益率をキープしつつ売上も増加していますが、そうでない企業は、減益決算が多く、明暗がくっきり分かれました。また為替の激しい変化に翻弄されている企業が多いのも印象的です。

そんな中、総じて好決算を出してきたのが、スポーツ関連企業です。景気後退が危ぶまれるなか、なぜスポーツブランドが強いのか−−有名ブランド5社の決算から紐解いていきましょう。


スポーツブランド5社の決算内容

足元で決算発表があったスポーツブランドから、アシックス、ゴールドウィン、デサント、ヨネックス、ミズノの5社の決算内容を、時価総額の大きな順で見ていきます。

アシックス(7936)

2月10日(金)に22年12月期の本決算を発表。①売上高484,601(百万円)、②前年同期比19.9%増、③営業利益34,002(百万円)、④前年同期比54.9%増、売上高営業利益率は、⑤前年5.4%に対して、⑥7%へと改善されています。

画像:アシックス「2022年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

新年度予想は、⑦売上高510,000百万円、⑧前年比5.2%増 、⑨営業利益37,000(百万円)、⑩前年比8.8%増と増収増益予想。伸び率がやや鈍化するので物足りない気もしますが、2021年度は4回、2022年度は2回上方修正していますので、23年度も徐々に予想を切り上げて行くかもしれません。

画像:アシックス「2022年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

アシックスのスター商品は、パフォーマンスランニングとカテゴライズされるマラソンや駅伝で使用されるシューズで、これらは欧米でかなりの人気です。欧州最大級のレース登録プラットフォームを買収したことで、ランナーとのセッティングポイントを獲得したのも後押ししており、ECでの売上が前年比で35.5%も増加。

また、中華圏でのオニツカタイガーの人気も見逃せません。コロナ前、原宿にあるオニツカタイガーの直営店には、大勢の中国人観光客が押し寄せていました。コロナ禍では苦戦しましたが、現在ではコロナ前の約80%まで売上が回復しており、今後の伸びが期待できます。

余談ですが、今年の箱根駅伝では、同社の「METASPEED」を履いた選手2名が、区間賞を取りました。

ゴールドウィン(8111)

2月7日(火)に23年3月期の第3四半期決算を発表。①売上高86,746(百万円)、②前年同期比17.6%増、③営業利益18,281(百万円)、④前年同期比29.1%増。同時に営業利益の通期予想を当初17,000(百万円)から20,300(百万円)へ19.4%上方修正しましたが、それでも進捗率は90%と余裕で予想の数字を達成できそうです。

画像:ゴールドウィン「2023年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

好調の理由は、なんといっても大黒柱の「THE NORTH FACE」の快走。ブランド力が高く、そもそも高価格ではありますが、値上げしても顧客が離れないのが強みです。営業利益率が20%超えと、ほかのスポーツブランドが一桁台の中、異彩を放ちます。

デサント(8114)

2月6日(月)に23年3月期の第3四半期決算を発表。①売上高86,099(百万円)、②前年同期比12.3%増、③営業利益7,300(百万円)、④前年同期比56.7%増。通期の営業利益予想は8,100(百万円)ですので、進捗率は90.1%。会社四季報の予想は9,800(百万円)ですので、それくらいは上振れて着地しそうです。期末配当を28円から40円と大幅増額したのも好感が持てます。

画像:デサント「2023年3月期第3四半期決算短信」より引用

デサントは、かつては値引き販売が当たり前のブランドでしたが、近年は返品率・値引率とも低水準を維持し、利益率の向上に努めています。「アスレチック」と「レジャー」を掛け合わせた「アスレジャー」需要が中国で急成長していることも追い風。そして、なんといっても大谷選手とのスポンサー契約が、ブランドイメージを一気にアップさせました。

ヨネックス(7906)

2月8日(水)に23年3月期の第3四半期決算を発表。①売上高79,632(百万円)、②前年同期比47.5%増、③営業利益9,317(百万円)、④前年同期比55.9%増。同時に営業利益の通期予想を9,200(百万円)から10,000(百万円)と8.7%上方修正しています。

画像:ヨネックス「2023年3月期第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

ヨネックスの売上比率は、バドミントンが60%と圧倒的ですが、近年はテニスにも力を入れており、海外での売上比率を伸ばしています。個人的には、2022年に取締役に就任したばかりのアリサ・ヨネヤマ氏に注目。1987年生まれの34歳、1958年設立の老舗ブランドの若きリーダーに多いに期待しています。

ミズノ(8022)

2月8日に23年3月期の第3四半期決算を発表。①売上高147,402(百万円)、②前年同期比18.1%増、③営業利益10,154(百万円)、④前年同期比25.9%増。同時に営業利益の通期予想を11,500(百万円)から12,500(百万円)と8.7%上方修正しています。

画像:ミズノ「2023年3月期 第3四半期決算短信」より引用

アメリカ、韓国でのゴルフ用品、国内ではサッカーを中心に競技スポーツ品が好調。ミズノの場合は、サッカー、野球、ゴルフ、バレーボール、バスケットボールとスポーツ領域を幅広くカバーしているのが強みです。

すべての企業が2桁の増収増益!

5社の決算を並べてみて、あらためて感動したのは、5社とも今回の決算で前年同期比二桁の増収増益となっていることです。さらに5社のうち、デサントをのぞく4社が過去最高益を更新予定。金利上昇、インフレ、景気後退、すべてを吹き飛ばすスポーツパワーに脅威すら感じます。

スポーツブランドが好調の理由は、下記などが考えられます。

(1)コロナを経て、より健康への関心が高まっていること
(2)人気のアーティストやスポーツ選手とのコラボレーションで認知度が向上したこと
(3)eコマースの普及で、販売チャネルが増えたこと

それに加えて、各ブランドが、それぞれにファンの心をがっちり捉えているため、値上げしても離れていかない。5社ともむしろ、利益率が向上していますので、それだけ付加価値の高い、代替の効かない商品を提供しているのでしょう。

見通しの立てにくい2023年度の株式市場ですが、少なくともスポーツ界隈には光が差しております。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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