ドライバー震撼“飛び乗り男”の恐怖… 車が破損も「現行犯逮捕」されない事情とは?

今年1月にFNNがスクープした“交通事故”の動画が、Twitter上で「回避不可能」「こわい…」と物議をかもした。

交通事故と言っても、人的被害がある人身事故でも物損事故でもない。歩行者の男が突如車に向かって直進し、そのままボンネットの上に飛び乗ったものだ。

不審な男に気づいて停止していた車に飛び乗った男は、車の上を歩いて乗り越えた後、走ってきた後続車も蹴ったという。荷台の鉄骨が折れるなどの被害に遭ったドライバーは警察に通報。男性は事情聴取を受けるも、暴れる様子はなく落ち着いていたといい、現行犯逮捕されたという報道はなかった。

“飛び乗り男”はどんな所に出没したのか

平日の夕方、事故が起きた東京都世田谷区の住宅街に出向くと、キックボードの子どもや買い物に行くお年寄りなど、想像より人通りが多い。

自転車やキックボードに乗った小学生の往来もあった(弁護士JP編集部)

飛び乗り男が出没した「現場」のすぐ横には公園と保育園があった。さらに付近には公立小学校が2校と国立の小学校、そして公立中学校もあり、現場に隣接した公園や裏路地からは子ども同士の元気な掛け合いが聞こえてきた。

保育園の前には「とびだしちゅうい」の看板。手前のフェンスは公園のもの(弁護士JP編集部)

周辺を歩いてみると、戸建てやファミリー層向けのマンションが多いが、単身者向けのアパートもいくつかあった。作業服姿の“飛び乗り男”がこの付近の住人の可能性もあり、高級住宅地として有名でもある地域住民たちは不安を抱えているかもしれない。

“飛び乗り男”が事情聴取を受けていた場所(弁護士JP編集部)

なぜ現行犯逮捕されない?

今回の事故ではTwitterを中心に、多くのドライバーから「なぜ現行犯逮捕されないのか」「予測できない事故に対して、どう対応すればいいのか」といった声が集まった。それらの不安や疑問を、交通事故や刑事事件の対応を多く行う髙橋怜生弁護士に投げかけた。

車を壊せば「器物損壊罪」に問われることもあると思いますが、今回の事故で男性が「現行犯逮捕」されなかったのには、どのような理由が考えられますか?

髙橋弁護士:身元がはっきりしていて、取り調べに素直に応じるなどの状況から、逮捕しなくても逃亡しないと警察が判断したことが考えられます。

逮捕などの身柄拘束は、証拠隠滅や逃亡防止のためにすることが基本なので、そのどちらもないと警察が判断すれば逮捕はされないでしょう。もっとも、今後警察の呼び出しを無視することが重なるなどすれば、そのとき逮捕される可能性が出てきます。

今回の“飛び乗り男”や“当たり屋”など「回避も予測もできない事故」や「相手が故意に接触してきた」場合、どのように対応することが望ましいのでしょうか?

髙橋弁護士:警察にも保険会社にもすぐに連絡することは当然として、ありのままを丁寧に話すことです。今回のように、怪我はしていないけれども自身が被害者になる場合は、警察に被害届を提出するなど「被害申告」をして本格的な捜査をすぐにしてもらうべきです。

一般的に交通事故では怪我がない限り刑事事件にはなりませんが、それは「過失で」器物を損壊した場合の刑事処罰規定がないためです。この事例のように「故意に」自動車を損壊した場合には器物損壊罪(刑法261条)として刑事事件の対象となりますので、告訴する意思を警察にしっかり伝えることで刑事事件として捜査をしてもらうことができます。

ドライブレコーダーの証拠があれば、車を壊した人に対して、損害賠償請求をすることは可能だと思うのですが、SNS上では「相手に損害賠償の支払い能力がない場合は、訴えるだけ損なのでは」という声もありました。実際にやはり費用倒れ(※)になってしまうのでしょうか?

(※)弁護士費用などが賠償金額を超えてしまうこと。

髙橋弁護士:損害金額が低い場合は費用倒れの可能性が高くなります。高額の賠償金となる場合でも、加害者が財産を持っておらず仕事もしていない場合には費用倒れの可能性があります。

裁判で権利を得た後、加害者が任意で支払いをしてこなければ、強制執行をして回収をすることになるのですが、加害者に貯金などの資産がないとまとめて回収することができません。また、加害者が仕事をしていないと給料から回収することもできません。そうすると、裁判のためにかけた費用(弁護士費用など)が結局赤字になってしまいます。

車を壊されるなど、被害を受けた人は理不尽を感じると思いますが、泣き寝入りするしかないのでしょうか。

髙橋弁護士:理不尽な気持ちはよく分かるのですが、残念ながら、経済的な意味では保険などでカバーできるようにしておくしかないのが実情です。

泣き寝入りの可能性がなくなるわけではありませんが、刑事告訴をして加害者が示談を持ち掛けてくる可能性を高めるなどの方法はあり得ると思います。

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