住友林業、インドネシア・カリマンタン島のマングローブ林の生態系保全へ始動

インドネシア・カリマンタン島のマングローブ林(住友林業撮影)

住友林業は1月31日、インドネシア・カリマンタン島で、世界的にも貴重な生態系として注目されるマングローブを「保護林」として管理し、海と森にまたがるマングローブの適切な管理モデルを構築する、と発表した。昨年12月に、同島で9738ヘクタールのマングローブの森林を保有・管理するPT. BINA OVIVIPARI SEMESTA(ビナ・オビビパリ・スメスタ社、以下BIOS 社)の株式を100%取得し、完全子会社としたことで取り組みが始動した。マングローブに蓄えられる炭素を維持してCO2の排出を削減するとともに、海洋生物によって海中に吸収・貯留される『ブルーカーボン』の量をより高い精度で計測する技術を確立し、質の高い炭素クレジットの創出を目指す。(廣末智子)

マングローブとは、熱帯および亜熱帯地域の海水と淡水が混じり合う水域で生育している植物の総称で、構成する植物は110種以上あるとされる。FAO(国連食糧農業機関)の2020年の調べによると、世界のマングローブ面積の40%以上が、インドネシアとブラジル、ナイジェリア、メキシコの4カ国に集中。このうち最も多いのがインドネシアで世界全体の19%を占める。さらに世界のマングローブの面積は1990年から2020年の30年間に世界全体の6.6%に当たる104万ヘクタールが減少しており、インドネシアでは直近10年で年平均2万1100ヘクタールが減少しているとする報告もある。

住友林業が保有・管理するインドネシア・西カリマンタン州の森林(上空より住友林業撮影)

住友林業がマングローブを管理する西カリマンタン州の森林は、1960年代から1990年代前半まで違法伐採や焼き畑が繰り返されたことによって荒廃が進行していた。2010年からは同社グループが、現地の森林事業会社を通じて大規模な植林事業を展開。そのなかで、貴重な生態系を有する泥炭地を中心に、2030年までに陸域と海域それぞれの30%以上を保全する国際目標である「30 by 30(サーティ・バイ・サーティ)」を満たす保護エリアを有するこの地域の森林の管理を、生態系保全と持続的な木材生産による経済性を両立する観点から行ってきた経緯がある。

付近で生息が確認された絶滅危惧種のカワゴンドウ(Orcaella brevirostris)=住友林業提供写真

同社によると、今回のマングローブの管理もこのノウハウを活用し、海と陸の境にあるマングローブから内陸部にある泥炭地と熱帯林を連続する生態系とみなして広域的な生態系 保全に取り組む。マングローブの生態系は、海洋生物の作用によって大気中から海中へと吸収されたCO2由来の炭素を指す『ブルーカーボン』の最大の吸収源の一つとされ、BIOS社のマングローブの炭素固定量(樹木と土壌に固定されているブルーカーボン)は、約6600万トン-CO2と推計されることから、新事業ではマングローブの樹木や土壌が吸収・固定する炭素量を高い精度で計測し、海底に貯留されている炭素量を推定する技術を確立する。

またBIOS社の近隣に広がる一帯では600世帯以上の地域住民がマングローブを原料とした木炭生産に携わっているとされることから、現地の森林事業会社と連携して木炭原料として利用できる樹種の植林を進め、地域住民の持続的な木炭生産を支援。さらにエビやカニなど多くの魚介類が生息するマングローブの保全を通じて、住民にとっての漁業資源を増やし、地域の持続可能な発展に貢献する。

住友林業の広報担当者は「地元行政などとも連携しながらマングローブの減少を食い止め、保全事業の拡大、他地域への展開を目指す。生物多様性の維持や水質浄化、保水と水循環機能を向上させ、ネイチャーポジティブを実現したい」と話している。

住友林業グループは2022年2月に発表した長期ビジョン「Mission TREEING 2030」で、グローバルな規模の森林ファンド設立を含む「循環型森林ビジネスの加速」を掲げ、2030 年までに国内外で保有・管理する森林面積を50万ヘクタールにまで拡大することを表明。今回の事業で、保有・管理する森林面積は約29万ヘクタールとなった。

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