企業の7割超が「人手不足」訴え 飲食・医療は9割超と深刻 企業の「人手不足」に関するアンケート調査

 コロナ禍による行動制限が全面解除されてから、3月で1年を迎える。2022年10月には訪日外国人客の入国規制も緩和され、経済活動はポストコロナに向けて踏み出している。だが、その一方で企業の人手不足感が急速に高まり、企業活動への影響も深刻化している。

 東京商工リサーチ(TSR)は2月1日~8日、全国の企業を対象に「人手不足」に関するアンケート調査を実施した。その結果、企業の7割超(構成比72.4%)が「人手不足」と回答した。また、大企業の人手不足は中小企業を上回る8割(同80.6%)に達することもわかった。
 2022年12月の全国の有効求人倍率(季節調整値)は1.35倍で、2020年3月の1.39倍以来の水準に回復した。特に、宿泊・飲食やサービス、情報通信、卸売・小売は2022年の新規求人が年間を通じてすべての月で前年同月比で5%を超え、人手不足が恒常化している。
 異例の物価高騰に加え、今年の春闘では政府、経済団体が掲げる「賃上げ5%」の壁を乗り越えるかも注目されている。少子高齢化の下で、人手不足は飲食・サービス、医療・福祉など需要回復が見込まれる業種を中心に、より深刻さを増すとみられる。資金力の余裕がある大企業は、賃上げや残業削減などの待遇改善を進めやすく、求人の“囲い込み”も想定される。今後の雇用は、中小企業と大企業との二極化が拡大する可能性も出てきた。

  • ※ 本調査は、2023年2月1日~8日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,852社を集計、分析した。
     資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。今回調査が初の実施。

 Q.貴社の人材の状況は以下のどれですか?(択一回答)

 規模別 大企業の8割が「人手不足」

 全企業では、「非常に人手不足である」15.4%(749社)、「やや人手不足である」57.0%(2,768社)を合わせ、「人手不足」と回答した企業は全体の72.4%を占めた。規模別では、大企業ほど顕著で、80.6%(518社)が「人手不足」と回答した。
 一方、中小企業では「非常に人手不足である」15.1%(639社)、「やや人手不足である」56.0%(2,360社)を合わせて71.2%で、9.4ポイントの差があった。中小企業は大企業に比べ、売上がコロナ前の水準に戻らず、その分「人手不足」への温度差が生じたとみられる。

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業種別 医療、飲食、職業紹介の3業種で9割超が“人手不足”

 人手不足と回答した業種別では、新型コロナ感染者の診療など異例の対応が続く「医療業」が95.6%でトップだった。次いで、「飲食店」(93.1%)、「職業紹介・労働者派遣業」(90.3%)も9割を超えた。この他、「総合工事業」(84.5%)、道路貨物運送業(82.8%)、社会保険・社会福祉・介護事業(80.7%)など、13業種で8割を超えた。
 行動制限の緩和に伴う経済活動の回復に加え、人手不足が深刻な業種は対面型サービス業のほか、“リモートワークが困難”など、コロナ禍で定着した働き方に移行しにくい業種が多い。
 一方、「人手過剰」の業種別では、「印刷・同関連業」が23.1%で最も多かった。次いで、「運輸に附帯するサービス業」(12.1%)、「家具・装備品製造業」(10.0%)、「繊維工業」(9.6%)、「広告業」(8.6%)など、構造的に不振が続く業種やコロナ禍で需要が落ち込んだ業種を中心にしている。

 人手不足と回答した企業は、全体の7割(構成比72.4%)を超え、なかでも大企業は80.6%と顕著だった。
 コロナ禍による企業活動への影響は、大企業に比べ中小企業で回復まで時間を要している。東京商工リサーチによる企業アンケートで、自社の売上高が前年同月比で「減少している」と回答した企業は、2021年5月以降、中小企業で大企業を10ポイント以上上回る展開が続く。新型コロナで受けた影響からの回復が早い業種や、大手企業では需要の回復に伴い人手不足感は強い傾向にあるようだ。
 大企業ではスケールメリットも手助けし、価格転嫁を取引先にオファーしやすい環境にあり、従業員の待遇改善等、雇用情勢の変化に適応しやすい側面も持つ。一方、中小企業は競合も激しく、価格転嫁の実現には時間を要する傾向にあり、新規採用の決め手となる給与や待遇等、訴求力の差も生じる可能性がある。
 5月の大型連休明けに新型コロナ5類への移行も決まり、飲食や宿泊、介護・福祉など対面でのサービスはさらに需要増が見込まれる。人手不足でサービス提供に応じられないことを理由にした廃業もすでに散見され、人手不足の解消には、規模や業種ごとの細やかな対策が求められそうだ。

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