「はだしのゲン」を不使用に 広島市の平和教育教材 原作者・中沢さんの妻「残念です」

広島市教育委員会は、新年度から市内の小学校で使う平和教育教材の内容を見直し、漫画「はだしのゲン」を使用しないことにしました。

広島市は小学生から高校生までに独自の平和教育プログラムを導入しています。今年度までの教材では、小学3年生のパートに漫画「はだしのゲン」の一部が使われていました。

プログラムの導入からおよそ10年が経ち、市教委は大学教授や学校関係者などと改訂について検討しました。この中で「はだしのゲン」については、「漫画の一部を教材としているため被爆の実相に迫りにくい」という指摘がありました。

また、ゲンが生活費を稼ぐために、街角で浪曲をうなる場面も「いまの児童の実態に合わない」といった課題もあげられたということです。そして、改訂された新年度からの新たな教材では、「はだしのゲン」は使わず、代わりに原爆で家族を一瞬で失った女性の実体験を、教材として採用したということです。

広島市教委は「あくまで平和教育プログラムの見直しの中の一つで、『はだしのゲン』を外すことが前提ではない」と説明しています。

この方針に、原作者の妻は、「残念です」と話します。

「戦争の残酷さを伝えているのがゲン」原作者・中沢さんの妻

「はだしのゲン」の作者、故 中沢啓治さんの妻・ミサヨさんは、「教育委員会が決めることなので、仕方がないとは思いますが、残念です」と肩を落としました。

ミサヨさんは、「いまの児童の実態に合わない」といった指摘について「あの時代は食べる物もなかった。豊かな時代に暮らす子どもたちと実態が合わないは当然」と話します。

そのうえで、「なぜゲンが街角の浪曲で稼がなければならなかったのか、なぜ母親のためにコイを盗まなければいけなかったのか。子どもでも、そうしなければ生きていけなかったからです。『生きろ』というメッセージが込められている」。こうした背景をしっかりと教えることこそが重要だと訴えます。

また、ゲンの父親が家屋の下敷きになり、火の手が迫る中で、ゲンに逃げるように迫る場面も、教材では使われなくなります。

連載当時、アシスタントをしていたミサヨさんは、啓治さんがこの場面を描いている姿が忘れられません。「描いていた手が突然止まるんです。『熱かったろう、熱かったろう』って涙を流して」

描き始めては筆を止め、また描き始めては筆が止まる。啓治さんは、つらそうに机に向かっていたといいます。「被爆者は言いたくても言えないことを心に持っている。その思いを込めたのが、はだしのゲンなんです」。

ミサヨさんは力を込めて訴えます。「きれいな戦争なんてない。戦争ほど残酷なものはない。その残酷さを伝えることが、戦争反対、二度と戦争しないという気持ちにつながるのです」

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