連載[ひきこもり支援の模索 新潟県内の当事者に聞く]<1>出せないSOS、親の年金頼りの生活 募る不安

女性の手。20年以上、ひきこもり状態の生活を続けている

 家族以外とほとんど関係を持たない「ひきこもり」状態の人が全国で115万人以上いるとされ、社会問題化している。政府は今国会で孤独・孤立対策を推進する法案を提出する方針だ。ひきこもりは実態がつかみにくい。当事者の多くは、社会とつながりたいという意思を持っているものの、適切な支援が十分届いていないのが現状だ。新潟県内の当事者に話を聞き、支援を模索する県内外の動きを追った。(報道部・中村茂雄)=4回連載の1回目=

 部屋の隅に置かれた石油ストーブの炎が揺れた。「誰も好きこのんで、引きこもっているわけじゃない」。女性のやり場のない叫びが響いた。

女性の手。20年以上、ひきこもり状態の生活を続けている

 下越地方に住むこの女性は50代。学校でいじめを受け、コミュニケーションが苦手になった。高校卒業後、職を転々とし、ひきこもり状態になった。数年前に父が病気で他界、80代の母の介護に1人で当たる。

 ずっと部屋に閉じこもっているわけではない。介護や医療の担当者と会話を交わすが「何か嫌なことを言われるのではないか」という不安が付きまとう。近所の人に見られないように、買い物は客がいない時間を見計らい、ごみ捨ては未明に行う。

 厚生労働省は半年以上、家族以外とほとんど交流せず、趣味の用事やコンビニなどに行くことのほかに、自宅から外に出ない状態を「ひきこもり」と定義している。女性はこのような生活を20年以上続けている。

 親族や近所の人から「いつまでそんな生活をしているのか」と責め立てられるたびに心を痛める。女性は「就職面接で『引きこもっていました』と説明して、通用するわけない」と悲痛の訴えを語る。

 だが、高齢の母が認知症になった。暮らしは母の年金に頼るところが大きい。母が亡くなった後の生活が不安になってきた。こんな自分でも支援してもらえるのだろうか-。

 支援先が記された新聞記事の切り抜きを、ずっと手元に置いていた。「今日こそ連絡しよう」と思う日が幾度もあった。SOSのメールを送信するまで2年近くかかった。

 ようやく巡り合えた支援者から、ひきこもり生活のねぎらいを受けると、少し気が楽になった。

女性が最近まで使っていたガラケー。「助けてと言えない人はたくさんいると思う」と女性は語った

 「本人は何も悪い事はしていないのにね。両親も世間体を考えて、支援を求められなかったのではないか」

 ひきこもりの家族会全国組織で「KHJにいがた秋桜(こすもす)の会」の三膳(みよし)克弥理事長(71)=新潟市江南区=は女性と家族の気持ちを推し量る。

 2001年に秋桜の会を設立し、当事者や家族を支援してきた。ひきこもりへの負い目、世間体を気にする人は多い。会のチラシを見て数年がたってから、相談の電話をかけてくる人もいる。

 一方、子どものひきこもりが長引き、解決を諦めて家族会を去る親も増えてきた。会員も10年前は約120世帯あったが50世帯まで減った。三膳さんは「無責任かもしれないが、しょうがない」と力なく語る。

 親に対し、自分が亡くなった後に子どもが先々困らないよう、相談先などを記したエンディングノートを作ることを勧めるようになった。ただ、死後の困難まで受け止められず、断る親もいる。

 「親も大変なんだよ」。三膳さん自身もひきこもりの息子と共に苦悩してきた。言葉は重い。

◆政府の動きは 孤独・孤立担当大臣を設置

 ひきこもり支援を巡っては、2021年に当時の菅義偉首相が関係府省の調整役となる孤独・孤立政策の担当大臣を設け、重点施策としてきた。

 不登校や就職のつまずきなど、ひきこもりになるきっかけは多様だ。だが親の年金収入が途絶えた時に、生活困窮などが一気に表面化することもあり、慎重な対応が求められる。

ひきこもりとなるきっかけ、苦しみは一人一人で異なる

 国は、ひきこもりに特化した相談窓口の設置や実態把握、支援の基盤づくりを市町村に求め、財政支援をしてきた。

 19年からは就職氷河期世代支援の一環で、就労相談や個別訪問などを民間に委託して行っている。23年度予算案では、ひきこもり支援に自殺対策、生活困窮者自立支援などと一括で、545億円を付けた。

 一連の支援では、民間支援団体への助成も盛り込まれているが、助成を受けるための手続きは煩雑だ。にいがた秋桜の会の三膳理事長は「これまで受け取っていた助成金の手続きだけで手いっぱいなのが現状。相談支援は時間もかかり簡単でない。人材の育成が必要」と指摘する。

 小倉将信孤独・孤立対策担当相は、今国会で孤独・孤立対策の新法案を提出する方針を明らかにしている。

(連載2回目は東京都江戸川区や新潟市の事例から、ひきこもりの実態を調べる意味について考えます)

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◇ひきこもりに関する公的な電話相談窓口(相談料は無料。通常の電話代がかかります)

新潟県ひきこもり相談ダイヤル 025(284)1001(月〜金曜、午前8時30分〜午後5時。祝日、年末年始除く)。

新潟市に在住の方 新潟市ひきこもり相談支援センター 025(278)8585(火〜土曜、午前9時〜午後6時、祝日・年末年始除く)。

女性が最近まで使っていたガラケー。「助けてと言えない人はたくさんいると思う」と女性は語った
ひきこもりとなるきっかけ、苦しみは一人一人で異なる

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