輸入魚粉が過去最高額を記録 エサ代高騰で養殖業45年の男性が出した決断とは?

海外から輸入している魚粉の輸入価格が、去年は過去最高額を記録しました。魚粉を原料とするエサの値上げを受け、広島・大竹市で魚を養殖する業者が出した決断とは?

水揚げされたばかりの新鮮な魚介類が全国から届く、広島市の中央卸売市場です。9日も近海で獲れたアジ・サワラ・マダイなどの競りが行われていました。養殖の魚は、生きた状態で市場に届きます。

魚を卸す広島水産の職員
「これは、さきほど届いた魚(カンパチ)なので特に元気」

― どこから届いた?
「高知県から」

広島水産 仲野龍治さん
「脂がくさいという話が30年近く前はあったが、今は身と皮の間のゼラチンが甘みに感じる。天然と違って養殖はエサがある程度改良されているので、年を通して味が一緒」

養殖ものは、天然より ”安くてまずい” は昔の話…。

この日の天然マダイの卸値は1キロあたり860円ほど。一方で養殖のマダイは1200円程度。養殖のマダイの方が高い値がついていました。仕入れ業者の広島水産によりますと、10年ほど前までは養殖のマダイよりも天然の方が高値で取り引きされていましたが、広島の市場では2017年ごろにそれが逆転し、今もその状況が続いているといいます。

広島水産 仲野龍治さん
「どうしても養殖もエサの高騰などがあって、単価が(天然より)100円・200円上がっている。今は(エサ代が)上がりっぱなし」

瀬戸内海に浮かぶ大竹市の阿多田島です。水産業が盛んなこの島で養殖業を営んでいる 中森誠 さん(63)を訪ねました。この道45年…。島の沖合に設置した12m四方の生けす6面でハマチ・マダイ・サーモンあわせて約3万匹を養殖しています。

中森水産 中森誠さん
「ここにはサーモンが4000匹ぐらいいる」

深さ4メートルの生けすの中では、60cmほどのサーモン4000匹が、ゆっくりと沈んでいくエサに群がっていました。中森さんが作るサーモンは、「レモンサーモン」。オリジナルブランドです。

阿多田島では、2014年、エサにレモンを加えることで身からかんきつ特有の成分を確認できた「あたたハマチ to レモン」の開発に成功し、現在は中森さんが漁協から生産を委託されています。

ハマチとサーモンのブランド魚は、軌道に乗っているといいますが、それらより単価が安く、出荷に時間がかかるマダイの事業からは今月で撤退することを決めました。

中森水産 中森誠さん
「もうこれだけ(10匹ぐらい)しかおらんわ、最後の最後…。マダイもレモンをやってみたんですけどね、『レモンダイ』にしようと思って。だけど、効果が出なかった」

最大の要因は、コストの7割を占めるエサ代…。中森さんは、30年以上続けてきたマダイの “最後の出荷” を迎えました。

中森水産 中森誠さん
「悲しいよね。『養殖の魚はうまいのう』って言ってくれる人が多くなってきましたよ、この島の中でも、町の人でも。じゃけえ、そういう声が、ちいたあ励みになりますかね」

中森さんは、サーモンやハマチの養殖はこれからも続けていくとしていますが…

中森水産 中森誠さん
― 魚の量を増やす?
「現状維持にする。ちょっとね…。もう63歳なので」

魚粉価格などの高騰でエサ代は去年、2割値上げ…。この春にもさらなる値上げの話があるといいます。ほかにも船を動かす燃料費や電気代など、さまざまな費用が増加しています。養殖業者も厳しい環境にさらされています。

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