インドネシアで歴代3位のメガヒット 気を許すととんでもない残虐描写も 『呪餐 悪魔の奴隷』

© 2022 Rapi Films

飯塚克味のホラー道 第37回 『呪餐 悪魔の奴隷』

前回、紹介した韓国ホラー『呪呪呪/死者をあやつるもの』はドラマ版の続きということだったが、今回紹介するインドネシア産のホラー映画『呪餐 悪魔の奴隷』も実は続編だ。心の準備ができていないと、いきなりタイトルで『2』が出てきて、腰を抜かすことになってしまうかもしれない。幸い、公式サイトには詳細が記されていて、「1980 年代に、イスラム教圏で最も恐いホラー映画として話題を集めたインドネシア映画『夜霧のジョギジョギモンスター』。それをリメイクし、2017 年インドネシア映画の観客動員数1位を記録(420 万人)した『悪魔の奴隷』」の続編であることが語られている。

そこで気になるのが前作『悪魔の奴隷』だが、内容はこんな感じだ。有名歌手だった母を持つ20代の女性リニ。だがその母は病に伏して、余命いくばくもない状態。田舎暮らしのリニには、それぞれ年の離れた弟が3人いて、父親も健在だが、皆、看病疲れに陥っていた。そしてついに母が他界するのだが、その翌日には父親は仕事のため家を出て、リニが一家の長になる。そして母の死を境にしたように、家族に怪奇現象が襲い始める。

Jホラーの影響も随所に感じられ、ポルターガイストや邪教集団の存在など、いろんな要素が詰め込まれ、エンタメとしてのホラーをやり尽くそうという作り手の気概が感じられ、非常に楽しめる一本になっていた。またラストに向かうに従って、伏線の回収がどんどん行われ、脚本の巧さにも舌を巻いた。

続編となる本作は東南アジアで初となるIMAX撮影を行い(画面サイズはスコープサイズ)、本国で640万人を動員するメガヒットを記録。これはインドネシア映画歴代3位の記録というから驚きだ。

今回の『呪餐 悪魔の奴隷』は前作から4年後、1984年の話となる。姉弟の末っ子イアンを失ってしまい、都会に逃げるようにやってきたリニの一家。彼らが暮らす国営の高層アパートは低地にあたる地域に建てられ、大雨の際は周囲を水に覆われてしまうようなものだった。またここ数年の間に2000人もの人々が犠牲になった連続殺人事件が起きていることも不安の種だった。そんな中、10数階もあるのに、1つしかないエレベーターで落下事故が発生。大勢の人が命を落とす。そしてタイミングを合わせたかのように大嵐が襲来。たくさんの遺体がある中、世間から隔絶されたリニの一家と他の住民を、またもや怪奇現象が襲い始める。一体なぜ?そこには恐るべき秘密が隠されていた。

前作が一軒家を舞台にした『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)のような作りだったのに対して、今回は高層アパートという広い空間が舞台になっている。リニと弟の友達が中心に描かれる群像劇にもなっているので、ちょっと見た感じは『学校の怪談』(1995)にも雰囲気は似ているのだが、気を許すととんでもない残虐描写が飛び込んでくるので、ある程度は覚悟をしておいた方がいいだろう。

『ザ・レイド』シリーズくらいしか馴染みがないインドネシア映画ということもあって、キャストは日本人にはほぼ無名。主人公のリニを演じたタラ・バスロが北村一輝主演の『KILLERS/キラーズ』に出演している。監督のジョコ・アンワルは斎藤工も参加したオムニバスホラー企画『フォークロア』(2018)で『母の愛』を監督し、日本でもイベント上映され、DVDにもなっている『グンダラ ライズ・オブ・ヒーロー』(2019 )も手がけている。1976年生まれということあり、まだまだこれからが期待できそうな人物だ。

もちろん前作『悪魔の奴隷』を観た方が、本作を楽しめるのは事実だが、今回はリニの家族のみに話を絞っていないので、未見でも楽しめるはず。鑑賞後、前作を観ても、全く問題はない。それにしても、こんなに死体や不気味なものが出てくる作品が年間トップに輝くというインドネシアという国は、どういう国民性なのか。そっちの方が気になってしまうくらいだ。映画館の暗闇も大いに鑑賞の手助けになると思うので、是非、劇場に足を運んでみてはどうだろう。

© 2022 Rapi Films

【作品情報】
呪餐(じゅさん) 悪魔の奴隷
2023年2月17日(金)より、全国ロードショー
配給:アルバトロス・フィルム
© 2022 Rapi Films



飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。

© 合同会社シングルライン