「福島とともに」弾き語りに思い 沢知恵さん 5年ぶり公演を心待ち

コンサートを開く被災地への思いを語る沢さん

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から間もなく12年を迎えるのを前に、岡山市在住のシンガー・ソングライター沢知恵さん(52)が23、24の両日、福島県でコンサートを行う。被災地で続けてきた公演は新型コロナウイルス禍で中止を余儀なくされ、開催は5年ぶり。ピアノの弾き語りに「月日が過ぎても被災地を決して忘れない」との思いを乗せるつもりだ。

 沢さんは千葉県に住んでいた2011年、震災に遭遇。幼い子ども2人を育てる中、事故の影響で局地的に放射線量が高い「ホットスポット」がすぐ近くにあることに不安を募らせ、14年に岡山市に移住した。

 「音楽には傷ついた心を癒やし、『明日も生きていこう』と思わせるパワーがある」と沢さん。被災地にとどまらざるを得なかった人たちに寄り添いたいと、移住後も東北地方を度々訪ねてはコンサートを開き、住民と触れ合いを重ねてきた。

 20年3月も福島県内で開く予定だったが、新型コロナの感染拡大で中止になった。「交流が途絶えれば、被災したまちや人たちが忘れ去られてしまう」と心配を募らせてきたが、「必ず再開させたい」との願いはようやく成就。福島で活動する友人の牧師から誘いが届き、今年2月の開催が決まった。

 コンサートでは、震災翌年の12年に宮城県で出会った男性をモデルに作詞した楽曲「S―やさしい風」を披露する。妻を亡くした男性の境遇を基に、大切な人を失った悲しみを抱きつつ前に進もうとする決意を込めており、被災地の公演ではいつも歌うという。

 23日は福島県須賀川市の須賀川教会、24日は南相馬市の小高伝道所が舞台。沢さんは「『被災地とともに歩みたい』という思いを込めて歌う」と久しぶりの訪問を心待ちにし、「泣いて笑って、心を解放して楽しんでほしい」と願っている。2日間の公演は後日、動画投稿サイトのユーチューブで公開する。

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