<社説>喜友名諒選手引退 沖縄文化の真価発信した

 東京五輪の空手男子形金メダリストの喜友名諒選手が現役を引退した。共に団体形でアジア選手権6連覇を達成した金城新、上村拓也両選手も同時に引退した。 世界を舞台とした喜友名選手らの活躍は県民の誇りであり、改めて偉業をたたえたい。今後は武道家として後進の指導に当たることが期待される。これまで磨き上げた技の継承に尽くしてほしい。

 五輪だけでなく、世界選手権でも4連覇を果たした喜友名選手は沖縄文化の真価を世界に発信した。県民にとってその功績は計り知れない。

 沖縄が発祥の地とされる空手は琉球古典舞踊や組踊と並ぶ貴重な伝統文化である。空手の実践者や愛好者は国内外で活動し、さまざまな流派が生まれた。喜友名選手の活躍によって、空手発祥の地の存在意義を示すことができた。沖縄文化の金字塔を打ち立てたのである。

 喜友名選手は沖縄空手の精神を支える「礼節の心」も同時に発信した。空手は「礼に始まり、礼に終わる」といわれ、県内の空手道場の稽古でも実践されている。喜友名選手も金メダルを獲得した試合の後、マット中央で正座して一礼し、県民にすがすがしい印象を残した。師である佐久本嗣男氏の提案だったという。この行為によって沖縄空手の奥深さが伝わったのではないか。

 五輪金メダルは大きな到達点であり、一つの通過点でもある。沖縄の空手関係者は今回の成果を踏まえ、伝統技の継承・発展に向けて英知を結集してほしい。

 沖縄空手は伝統空手と競技空手に大別され、地域に点在する道場を拠点に各流派が鍛錬を重ねている。県内空手・古武道4団体の連合体として2008年に発足した沖縄伝統空手道振興会は伝統技の継承、普及に尽くしてきた。県は16年に空手振興課を設置し、空手に関する施策を展開してきた。

 新型コロナウイルス感染症の影響で各地にある道場は厳しい運営を強いられてきた。活動の活性化、児童生徒を含む空手人口の拡大など諸課題が残されている。道場、団体、県行政が連携し、沖縄空手の継承・発展に向け、活発な議論を重ねる時だ。

 沖縄空手界はユネスコ無形文化遺産登録という目標を掲げている。玉城デニー知事は23年度県政運営方針で、世界大会の定期開催と合わせ遺産登録に向けた取り組みを強力に推進する考えを表明した。登録実現に向け、沖縄空手の起源や各流派の型・形の特徴に関する学術研究を重ねながら沖縄空手の文化的価値を高めてほしい。

 24年のパリ五輪は残念ながら空手は実施競技・種目から外れたが、28年ロサンゼルス五輪では、開催都市が提案できる追加競技の候補に空手が残された。競技復活の可能性はある。復活に向けて沖縄でも知恵を絞りたい。

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