どうなる「貨物新幹線」 JR貨物社長が2030年めどに導入判断の方針を表明【コラム】

JR貨物が決算資料で示した「貨物新幹線」=イメージ=。現在のコキ車のような貨車でなく、旅客タイプの新幹線車両にパレット積み貨物を積載するように見えます(資料:JR貨物)

最近、目にするようになった鉄道の話題に「貨物新幹線」があります。新幹線に貨物専用車両を走らせ、鉄道の長所といえる長距離特性や大量輸送に「高速性」のプラスの要素を加え、ある意味行き詰まり状態にある貨物鉄道輸送を大きく刷新する狙いです。

現状を集約すれば、国土交通省が開催した2022年の有識者会議で、「新幹線を利用した物流の拡充」が検討課題として浮上。これを受けて、JR貨物が2022年11月に発表した2023年3月期第2四半期決算の説明資料に、「貨物新幹線(車両)」のイメージ図を掲載。〝貨物を運ぶ新幹線〟が、にわかに現実味を帯びてきました。

ここでは、新幹線による高速貨物輸送の可能性を検証。実現には多くのハードルもありますが、プラス思考でJR貨物にとっての貨物新幹線の必要性を考えましょう。

2030年めどに判断、導入には課題も

まずは新しい話題から。JR貨物の犬飼新 社長(新社長と誤読される可能性があるためスペースを空けます)は、2023年2月4日付の日本経済新聞で、大要次のように貨物新幹線への対応方針を明かしました。

「貨物新幹線の導入については2030年をめどに判断したい。北海道新幹線が札幌延伸される時期までに課題を洗い出す。北海道・東北新幹線での運行を念頭に、JR東日本やJR北海道と線路使用の交渉を進めるほか、車両開発への協力を求める。

しかし、貨物新幹線は課題も多く、ハードルも高い。線路設備の負荷になる車両重量に加え、車両基地や駅位置、それに運行時間帯の検討が必要だ」

過疎地配送はドローン、中長距離の幹線輸送は貨物新幹線

国交省が2022年3月に設置した、有識者会議「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」から振り返ります。新型コロナからの経済回復では、国際、国内ともに物流が大きな課題になることは本コラムをご覧の皆さんも日々、実感していらっしゃるかもしれません。

例えば、過疎地域への貨物配送では、小型無人機のドローンが活躍する時代が間もなくやってきそうです。そんな物流革新の一角に、貨物新幹線も位置付けられます。

貨物鉄道が得意とする中長距離の幹線輸送で、シェアを持つのがトラック。しかし、ドライバー不足は深刻で近い将来、「貨物があっても運べない時代」が到来するかも。

そうした事態に備え、トラックから鉄道や海運に輸送手段を変更するのが「物流モーダルシフト」。新幹線は時間短縮効果に加え、災害に強い特徴を持ちます。

ダイヤと車両、積み込み・積み卸し施設の検討が必要

国交省の検討会では、貨物新幹線が検討課題として提起されました。2022年に公表された「これまでの主な指摘事項」では、貨物新幹線の実現に向けた課題が次の2点に集約されました。

①新幹線を利用した貨客混載輸送が開始されているが、現状は旅客利用を想定したダイヤや車両、駅構造で、積み込み・積み卸しの効率化や施設の確保が求められる。

②新幹線で大容量貨物を輸送する場合、車両開発とともにダイヤ、乗り入れ区間(貨物新幹線の運行区間)、安全確保方策などの検討が必要になる。

お気付きになった方も多いと思いますが、以上の2点は前段で紹介した犬飼JR貨物社長が挙げた課題と一致します。

「物流の生産性向上や環境負荷低減に貢献、旅客各社の協力を得て検討」(JR貨物)

さらに、時計を巻き戻します。取り上げるのは、JR貨物が2021年1月に発表した「JR貨物グループ長期ビジョン2030」。中長期の経営計画で、資料3ページ目に「JR貨物グループが2030年に目指す姿」の実効策として、「鉄道インフラ(在来線・新幹線)の有効活用」が明記されています。

JR貨物が貨物新幹線の推進方針を打ち出した「JR貨物グループ長期ビジョン2030」。「総合物流事業の推進」と「不動産事業の更なる発展」を事業運営の2本柱とします(資料:JR貨物)

資料はカッコ書きだったため、気付いた方は多くなかったのですが(実は私も今回、初めて知りました)、「新幹線の有効活用」というのは貨物新幹線を意識した表現です。

真貝康一社長(当時。現在はJR貨物代表取締役会長)は、長期ビジョンの発表会見やインタビューで、「都市間を結ぶ新幹線を人流・物流で共用できれば、物流の生産性向上や環境負荷低減に貢献できる。ニーズなどを調査しながら、旅客各社の協力を得て検討していく考えだ」の方針を示しています。

「ハード・ソフトの課題や整備スキームについて国が主体になって検討してほしい」(JR東日本)

JR旅客会社は貨物新幹線をどう考えるのでしょうか。国交省の検討会にはJR東日本、JR東海、JR西日本の3社が出席。JR東日本の貨物新幹線に対する見解をご報告します。

①JR東日本の新幹線は高速化に取り組んでいるところで、貨物新幹線は列車ダイヤなどへの影響を十分考慮する必要がある。

②JR東日本の新幹線は5方面から乗り入れるネットワークで、貨物新幹線の運行可能区間は限定される(5方面とは東北・北海道、秋田、山形、上越、北陸と思われます)。

③貨物新幹線は旅客ホームでの荷さばきは困難で、専用の貨物ターミナル整備(既存新幹線とのアプローチを含む)が必要。

④以上の通り、貨物新幹線構想の実現にはハード・ソフト両面での課題整理が必要。整備スキームなどの問題も含め、国が主体となって検討してほしいと考える。

貨物新幹線で未来に向けた夢を描く

確かに貨物新幹線は課題も多いのですが、それでもJR貨物が実現に向けた方針を打ち出したのは、「未来に向けた貨物鉄道の展望を切り開きたい」という強い意志が読み取れるように思えます。

JR東日本も課題を挙げる一方で、貨物新幹線を否定することなく、国が主体となっての検討を求めるなど、一定の前向き姿勢が感じられます。

現状をまとめた本コラムはここまで。貨物新幹線、そしてJR貨物、JR東日本にエールを送りつつ、機会があれば続報をご報告することにして一応の締めくくりとします。

すっかり定着した、新幹線を活用した物流サービス。ただ現状は扱い商品が駅ビルでの販売商品などに限定され、広く産業界に認識されるにはもう一段のサービス改善や強化が必要といえます(画像:JR東日本)

記事:上里夏生

︎2023年2月18日18時……一部表記を修正いたしました(鉄道チャンネル編集部)

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