「今は辛抱するしかない」 物価高騰下の農業経営 頭抱える五島の農家

親牛に餌を与える川﨑さん=五島市

 古くから肉用牛の生産が盛んな長崎県五島市。農業生産額の7割以上を畜産が占めるが、原油価格高騰や円安、ウクライナ情勢などの影響で肥料や飼料、燃料が高騰し、経営を圧迫している。崎山地区で繁殖牛30頭を飼育している川﨑善一さん(62)は「今は辛抱するしかない」と頭を抱える。
 市内の約270戸は子牛を育てて、島外の肥育農家に販売する繁殖農家。五島の子牛は九州などでブランド牛として育てられているが、3年前からの新型コロナ禍による需要減で、子牛の平均取引価格は一時下落。家畜市場で年6回開く競りでは、4年前は約80万~70万円で推移していたが、昨年9月は2~3割減の約55万円に落ち込んだ。
 一方、配合飼料の価格はコロナ禍前と比べ1.5倍に高騰。子牛の品質を落とすわけにはいかず、親牛に与える配合飼料の量を抑えながら減った分を牧草で補う。その牧草を育てる肥料も値上がりしており、生後8~10カ月で出荷までの経費は1頭で5万円前後上がったという。
 離島は物資の輸送コストもかかる。「島外の肥育農家に買ってもらってわれわれは生活できるが、その肥育農家も消費の低迷などで苦しい」と表情を曇らせる。現在はJAごとう肉用牛部会長を務める。島内には規模拡大を図る若手も誕生しており「早く希望を持ってできるような状態に戻ってほしい」と語る。
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 五島市吉久木町のビニールハウス計40アールでイチゴを栽培する野原大嗣さん(37)。県のスマート農業実証事業に先進的に取り組み、収量増を目指すが、昨今の燃油代や肥料代の高騰がのしかかっている。

イチゴの生育状況を確かめる野原さん=五島市

 収穫は11月下旬から始まり、3~4月にピークを迎える。ハウス内は16度以上に保たせるため、暖房機を稼働させる。1月下旬に襲った寒波でも大量の重油を使用。生育を促すため、光合成に必要な二酸化炭素を発生させる機械には灯油も必要となる。経費を圧迫するが品質を上げるためには我慢するしかない。
 父が約20年前に始めたイチゴ農家。4年前に経営を引き継ぎ、両親と3人で栽培を手がける。スマート農業によって順調に収量増につなげてきた。ただ、「(物価高騰がなかったら)規模拡大を考えていた」とも語る野原さん。新たな作業員の確保という課題も抱える。燃油代など国や自治体の一定の補助はあるが、「安定的な経営に向け、さらなる支援をしてほしい」と語る。
 市内のトマト農家によると、高齢農家が物価高などを契機に引退する例も出ている。ある農家の60代男性は「五島で農業は基幹産業。辞める人が増えないか心配だ」とつぶやく。


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