電撃訪問

 〈世人の意表に出て急速に行動する意にも用いられる〉と辞書にある。こういう言い回しが生まれたのは、やっぱり「電気」が発見され、実用化されてからなのだろうか、と、新聞の見出しを眺めながら見当違いなことを考えた▲しかも、少し調べてみたら、中国の古い書物に由来する言葉らしいと分かった。二重に見当違いだったわけだ。ロシアの侵攻が続くウクライナの首都キーウをバイデン米大統領が電撃訪問した▲すらりとした長身にビシッとしたスーツ姿。ネクタイは青と黄色のウクライナカラーだ。訪問は極秘で行われ、しかし、現地での偶発的な危険を避けるため、ロシアには事前に通告されたという▲米ロの間に、直接的な衝突を回避するための回路が存在していることはわずかな救いのようにも思える。ただ、存分に戦え、とサプライズ訪問でウクライナの背を押した大統領には危機に終止符を打つ役割は期待しがたい▲ロシアのプーチン大統領は翌日、議会への年次報告演説に臨んだ。軍事侵攻を重ねて正当化し、手を引く考えが全くないことを強調したと伝えられる▲火花が走るように鮮やかな局面の転換は起きないか、アタマの上で電球が光るような絶妙な知恵はないものか、と無い物ねだりを繰り返している。侵攻開始から間もなく1年。(智)


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