スプリントで長崎県勢初V 自転車・松本昂大(鹿町工高→日本競輪選手養成所) <心新たに 2023年春・4>

「信頼される選手に」と抱負を語る松本=佐世保市、佐世保競輪場

 2014年の競輪グランプリ。残り1周半でかねが鳴り、9人のペースが一気に上がる。真っ先にゴールを駆け抜けたのは黒いユニホームの2番車。最終バックストレッチで2番手からまくり、力強く押し切った。賞金は約1億円。「かっこいい。自分も選手になる」。テレビでレースを見た当時小学4年生の松本昂大は心に決めた。
 父はかつて自転車で国体に出場。自身も競技に親しみながら、川棚中では陸上部で脚力を養った。進学先の鹿町工高で師事したのは豊岡弘監督。1988年ソウル五輪代表で、プロ転向後はトップランクのS級で活躍した元レーサーだ。
 その恩師が「回転力は抜群」と評するセンスを生かし、教えをどんどん吸収した。メイン種目は1対1で先着を競うスプリント。日本一を目標に掲げた。
 2年夏のインターハイ7位で全国初入賞すると、代替わりして主将を任された。日々仲間を引っ張り、学校近くの長串山周辺で約40キロのロード練習。きつくても苦にならなかったのは「自転車で生きていく」という覚悟があったからだ。

持ち前のダッシュ力で高校最強スプリンターに輝いた松本(手前)=大分県別府市、別府競輪場

 努力が実ったのは3年になる直前の春の全国高校選抜大会。的確な仕掛けと持ち前のダッシュ力でライバルたちを打ち破り、県勢初の高校最強スプリンターに輝いた。監督に「やったな」と声をかけられたのは最高の思い出。ただ、夏のインターハイは4位、秋の国体は6位。県高総体前に痛めた脚の故障が響いた。
 気持ちを切り替え、10月に競輪選手養成所の入所試験を受験。200、1000メートル走に臨んだ1次の実技は「全国大会に比べれば全く緊張しなかった」。結果はもちろん合格。学科などの2次も通過し、この5月に入所することが決まった。
 同期の男子は自身も含めて71人。ほぼ全員が年上で、厳しい競争が待つ。最初のターゲットは年3回の記録会の成績優秀者に贈られる「ゴールデンキャップ」。豊岡監督もデビュー前に獲得したスター候補の証しだ。
 太ももは59センチとたくましいが「まだまだパワーが足りない」と自覚している。順調なら来春、憧れのプロの世界に飛び込む。「クリーンに勝ち、お客さんに信頼される選手に」。夢は賞金王。栄光をつかみ、悔しさも味わった高校時代のすべてを糧に、攻めの走りで見る人の胸を熱くする。(松本文泰)

 【略歴】まつもと・こうだい 東彼川棚町出身。父の影響で石木小4年から自転車を始め、県内で唯一、自転車部がある鹿町工高に進学。メイン種目にスプリントを選んだ。2年夏のインターハイで7位入賞。全九州新人大会で1000メートルタイムトライアルと合わせて2冠に輝き、全国高校選抜大会のスプリントで優勝した。先行逃げ切りが得意。好きな食べ物は肉。座右の銘は「初志貫徹」。趣味はアニメ鑑賞。173センチ、66キロ。


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