「倍増」と言われても

 1960(昭和35)年の流行語を調べてみると「所得倍増」「寛容と忍耐」「私はうそは申しません」とある。どれも時の首相、池田勇人氏が発している▲10年で国民所得を2倍にする。詳しく言うと、70年度のGNP(国民総生産)を60年度の2倍に引き上げる。そう言い放ったのが池田氏だった。日本経済はぐんぐん背丈を高くすると確信していたらしい▲国民を信用させようと、池田氏は何かにつけて「私はうそは申しません!」と連呼した-と、ジャーナリスト、鈴木文矢さんの「池田勇人 ニッポンを創(つく)った男」(双葉社)にある▲日本経済は「倍増」を超える成長を遂げ、それは70年代まで続く。では、近ごろ見聞きする「倍増」がどうかと言えば、行方がなんとも心もとない。岸田文雄首相は子ども予算の倍増を掲げるが、国会で「中身を整理している」と言うにとどまる▲「防衛力強化と比べて見劣りしない」ようにするという。防衛費は向こう5年間で今の1.5倍になるが、子ども予算もこれに劣らず力を入れます-と“意気込み”を示す程度の「倍増」ならば、中身を詳しく語れるはずもない▲首相が「私はうそは申しません!」と連呼しても、国民は戸惑うばかりだろう。聞きたいのは威勢のいい意気込みではなく、理にかなった中身に尽きる。(徹)

© 株式会社長崎新聞社