香川県「船の体育館」解体へ 当初予算案に準備費4700万円

解体の方針が決定した旧香川県立体育館。船形の特徴的な外観で親しまれてきた

 香川県は、戦後日本を代表する建築家丹下健三氏(1913~2005年)が手がけた旧県立体育館(高松市福岡町)を解体する方針を明らかにした。1964年に完成し、特徴的な外観から「船の体育館」として親しまれてきたが、耐震強度の不足を理由に2014年9月に閉館。利活用のめどが立たず、23年度当初予算案に解体準備事業費約4700万円を計上した。

 「文化財的な価値は理解しているが、大規模地震で崩落する恐れもある。苦渋の選択だった」。予算案説明の記者会見で池田豊人知事がそう述べた。

 体育館は、東京五輪開催を控え、スポーツ熱の高まりを受けて建設。香川県庁舎(1958年完成、国重要文化財)にも携わった縁で丹下氏が設計を担当した。和船を連想させる彫刻的な外観と、ケーブルで屋根をつるして柱のない大空間を確保するわが国最初期の「吊(つり)屋根構造」が特徴で、戦後モダニズム建築の代表作の一つとされてきた。

 近年は老朽化が進み、2012年に耐震強度不足が判明。県は耐震改修工事を計画したが、計3回の入札は応札がなかった。文化財的な価値や県民の愛着もあり解体を保留し、体操用マットやバスケットゴールなど大型機材の倉庫に活用してきた一方で、高松市サンポート地区で新県立体育館の建設が進み、役割を終えつつあった。

 「香川の“顔”の一つであり続けただけに、閉館後も一貫して存続の道を探してきたのだが…」と県教委保健体育課。耐震改修をせずに公共施設として活用する道は見いだせず、21年度には企業や団体から利活用策を募るサウンディング型市場調査を実施。博物館やフードコート、プロスポーツのクラブハウスなど10件が提案されたが、耐震改修費を含めた資金確保に無理があったという。

 県は当初予算案が可決されれば、23年度から実施設計を行い、解体方法や費用を決めていく方針。同課は「現在の建物や解体作業時の映像など、デジタル資料としての活用を視野に詳細な記録を残していきたい」としている。

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