ともされた火、これからも 「蜷川シェイクスピア」が終幕 カーテンコールで蜷川氏の「登場」も

終演直後、「ジョン王」の衣装のまま喜び合う吉田鋼太郎さん(右)と小栗旬さん(提供写真)

 埼玉県川口市出身の演出家・故蜷川幸雄さんが芸術監督を務め、25年前に始まった「彩の国シェイクスピア・シリーズ」。最終作となる歴史劇「ジョン王」が24日、さいたま市浦和区の埼玉会館で千秋楽を迎え、日本の公共劇場としては初となるシェークスピア全37戯曲の上演を達成した。蜷川さんの遺志を受け継ぎ、同シリーズの2代目芸術監督として演出・出演を担ってきた俳優の吉田鋼太郎さん(64)は「感無量」と語った。

 公演を主催する彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市中央区、改修のため休館中)によると、日本の公共劇場としてシェークスピアの全37作品を上演したのは初めて。シリーズは蜷川さん演出・監修の下、1998年の「ロミオとジュリエット」(大沢たかお、佐藤藍子さん出演)でスタートした。

 実力派に加えて蒼井優さんや高橋一生さんら注目の若手俳優を起用、蜷川さんのダイナミックな演出と相まって、国内外で大きな話題を呼んだ。これまでに40万人以上の観客を動員。本場の英国でも評価され、埼玉から世界に文化を発信する事業の一つだった。2016年に蜷川さんが5戯曲を残して亡くなり、常連俳優だった吉田さんが17年に「アテネのタイモン」でシリーズを再開させた。

 「ジョン王」千秋楽のカーテンコールでは、蜷川さんの写真が掲げられ、総立ちとなった観客から長い拍手が送られた。主演の小栗旬さん(40)とは上演中、舞台袖に戻った時に、ハイタッチして喜び合ったという。終演後にインタビューに応じた吉田さんは「(コロナ禍で)公演が一部中止となるなど試練が多かった分、乗り越えられた充実感がある」と晴れやかな表情を見せた。

 吉田さんは40代半ばからシリーズに参加し、37作品中17作品に出演。芸術監督としては5作品を手がけた。2代目芸術監督の就任以降は「プレッシャーを感じるひまもなく突っ走ってきた」と振り返り、「唯一無二の蜷川さんしか創り出せない世界。けれど蜷川さんの血が、自分の中にも流れていると自負している。蜷川さんの魂を観客に伝えようと取り組んできた。今後は魂を意識しつつ、自分のオリジナルも出したい」と語った。

 敷居が高いと思われがちなシェークスピアの概念を壊そうと、例えば「ジョン王」では、飛び蹴りや水を使用するなど、多くの人を引き付ける演出に挑戦してきた。「どんな人が見ても面白いと思うシェークスピアを探し続ける」と吉田さん。

 シリーズは終了するが、「蜷川さんがともしたシェークスピアの火を消してはいけない。これからも埼玉で優れた作品をつくりたい」と述べた。

© 株式会社埼玉新聞社