為替アナリストが「円安151円の更新は2030年以降になる」と考える理由とは

一時1米ドル=130円を割れる米ドル安・円高となりましたが、2月に入ると130円を大きく上回る米ドル高・円安に戻してきました。「円安復活で、ひょっとしたら2022年10月に記録した151円の更新に向かう可能性もあるのか!?」と、思う方はさすがにいないでしょうか。

そうですね、さすがにそれは無理だと思います。あの151円の円安を更新するのは、早くても5~6年以上先、「早くて」そうなので、普通なら2030年以降の話になるのではないかと考えます。しかし、この円安も思っている以上に進むかもしれません。


円高トレンドの中の一時的円安

図表1は、2021年以降の米ドル/円に120日MA(移動平均線)を重ねたものです。120日MAとは、過去120営業日の米ドル/円の平均値です。1ヵ月が大体21~22営業日ですから、120日営業日とはほぼ半年になります。

2021年1月の102円から、2022年10月の151円まで米ドル高・円安が展開した動きは、米ドル/円の半年平均である120日MAを基本的に上回るものでした。ところが、2023年1月にかけて130円を割り込むところとなった米ドル急落により、120日MAを大きく下回りました(図表1参照)。米ドル高・円安トレンドが展開する中で見られなかった120日MAを大きく割れるという値動きは、トレンドが米ドル安・円高に転換した可能性を示しているでしょう。

ということは、2022年10月151円からの米ドル/円の下落は、米ドル安・円高トレンドが展開する中で起こった可能性が高い。では、それが約3ヵ月経過した2023年1月の127円で、早々と終わった可能性はあるのか。

1998年以降の米ドル/円の主な「トレンド」を調べてみたのが図表2になります。この表の「継続期間」がトレンドに該当しますが、最短でも6ヵ月で3ヵ月というのはありませんでした。そもそも、1年未満と言うのは例外的であり、短い場合でも2年以上、長い時には4~5年続くのが米ドル/円の「トレンド」の基本でした。

以上のように見ると、1月の127円で米ドル安・円高トレンドが終了した可能性は低いでしょう。それなら、2月以降130円以上に大きく米ドル高・円安へ戻してきた動きは何か−−それは、トレンドと逆行する一時的な動きの可能性が高いということになるでしょう。

当たり前ですが、仮に2~3年の米ドル安・円高トレンドが展開する場合でも、相場ですから一時的に米ドル高・円安に戻すことは珍しくありません。これまで見てきたことからすると、2月の米ドル高・円安に戻してきた動きは「一時的な米ドル高・円安」の可能性が高いのではないでしょうか。

一時的円安でも140円超える!?

次は「一時的円安」の特徴を考えてみましょう。

図表3は2000年以降の米ドル/円のチャートに120日MAを重ねたものです。この中で複数年に渡って米ドル/円が下落した代表的な米ドル安・円高トレンドを赤の四角で囲ってみました。

これを見ると、米ドル/円の下落トレンドにおいて、それと逆行する一時的な上昇は、最大でも120日MA前後までにとどまっていたことがわかります。つまり「一時的米ドル高・円安」の特徴は、「120日MAを大きく超えない範囲内にとどまる」ということがわかります。では、この「大きく超えない範囲内」とは具体的にどの程度か。

図表4は米ドル/円の120日MAかい離率です。これを見ると、米ドル安(円高)トレンドにおいて、それと逆行する米ドル上昇は、最大でも120日MAを5%程度上回る範囲にとどまっていました(赤丸印の部分)。要するに、米ドル安・円高トレンドにおける「一時的な米ドル高・円安」は、基本的に120日MAを5%以上上回らない範囲内で起こる可能性が高いと言えそうなのです。

さて、足元の120日MAは138円程度です。これを5%上回るなら144円と言う計算になります。ということは、「一時的な米ドル高・円安」である以上、さすがに2022年10月に記録した151円に至る可能性はなさそうながら、それでも目一杯進むようなら140円は超える可能性もありそう、といった見通しになるわけです。

それでは、あの151円を米ドル高・円安が超えていくのはいつになるのでしょうか。普通に考えたら、そんなに簡単なことではなく、早くても5~6年以上先、「早くて」ですから、普通なら2030年以降の話になるのではないでしょうか。

図表5は、米ドル/円について、過去5年の平均値である5年MAからのかい離率を作成したものです。これを見ると、2022年10月に151円を記録した米ドル高・円安は、5年MAを3割以上も上回る記録的な米ドル「上がり過ぎ」という結果でした。

同じように、5年MAを3割以上上回ったのは、1980年以降では1998年と2015年の2回しかありませんでした。このような記録的な米ドル「上がり過ぎ」で起きた米ドル高値は、1998年の147円、そして2015年の125円でしたが、この2つの記録を更新したのは2022年だったので、早いケースでも約7年を要していたわけです。

方向は逆ですが、同じように5年MAを3割以上下回ったのは1987年で、この時の米ドル安値は120円、そして1995年の米ドル安値は80円でした。前者を更新したのは1993年、後者の更新は2010年でしたから、5~6年を要していたわけです。

以上から、記録的米ドル「上がり過ぎ」で起きた2022年10月の151円を更新するのも、普通なら、かなり先のことになる可能性が高いのではないでしょうか。

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