阿川佐和子、思い出の「母の味」は? 亡くなった母親の記憶を〈食〉で辿った最新エッセイ集刊行

公開中の映画『エゴイスト』でゲイの青年(宮沢氷魚)の母親役を演じるなど女優業も快調な阿川佐和子だが、リズムと匂いにあふれる名文家ぶりも健在。定評のある阿川の食エッセイの最新作『母の味、だいたい伝授』が3月1日、新潮社より刊行された。 これまで、娘から見た父の作家・阿川弘之の横暴ぶりや食い意地については『アガワ家の危ない食卓』や『強父論』などさまざまなエッセイで書いてきたが、本書は3年前に亡くなった母が回想の中心。子どもの頃からよく作ってくれた料理を自らも作ってみることで振り返る半自叙伝であり、いかに日々をイキイキと過ごすかという〈暮らしのヒント〉集でもある。 「母が作ってくれた料理でいちばん好きだったものはなんだろう。クリームコロッケか鶏飯か。はたまたオックステールシチューかドライカレーか。かつぶし弁当も木須肉(ムースーロー)もおいしかった。そうだ、レモンライスというのもあったっけ……」と始まり、コロナ禍の最中に母をおくった「リモート葬儀顚末記」で終わる。浮かび上がってくるのは、居職でうるさい夫と4人の子どもたちを何十年も毎日食べさせてきたひとりの女性の人生であり、それをゆっくり回想していく娘の姿だ。 料理研究家の土井善晴も本書の帯に、「この本を読んで、料理を学ぶ学生の教材にしたいと思いました。美味しいはもちろん大切だけど、料理とは人生そのものだとわかるからです。」と推薦文を寄せている。

【著者紹介:阿川佐和子】

1953(昭和28)年東京生れ。慶應義塾大学卒。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞。その他の著書に大ベストセラーとなった『聞く力』などがある。

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