インバウンド全国46位の福井県「金沢の隣といえば分かる程度」 それでも福井に惹かれた外国人、魅力ってなに?

【グラフィックレコード】外国人のハートつかめ
留学生らに着付けを教えるポリンさん(左から2人目)。「着物には数学的な魅力がある」と話す=福井県福井市文京3丁目

 帯や小物に丁寧な細工が施され、女性の美も表現できる着物。福井県福井市在住歴約10年のマグラブナン・ポリン・アンナ・テレーゼ・マラヤさん(35)=フィリピン出身=は、その優美さに引かれた。

 角度や折り目が正確なほど美しさが増す着物は「数学的な魅力がある」。好きが高じて、2022年4月には着付けの美しさを競う世界大会で3位相当の成績を収めた。現在は留学生や外国語指導助手(ALT)に着付けて、一緒に庭園を歩いたり酒蔵巡りを楽しんだりしている。

 外国人が求めるのは「ローカルエクスペリエンス(田舎体験)」だという。「着物を着て福井の伝統料理を地元のおばあちゃんと作るなんてすてき。紙すきやそば打ち、すしを食べるのも最高」。多くの外国人は、自分のように福井の風土を気に入ってくれると信じている。

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 新型コロナウイルス禍前の19年、福井を訪れた外国人観光客数は6万6832人で、都道府県別で46位だった。ポリンさんは「福井は海外では知られていない。金沢の隣といえば分かる程度」と話す。

 小中学生の学力が高い福井の教育モデルは、フィリピンや韓国など複数の国の教育機関で認知されているという。福井高専講師でもあるポリンさんは、福井のアピールポイントに「教育」を挙げる。

 母国の人に福井を知ってもらおうと、NPO法人マレーシア国際交流協会(本部鯖江市)のモハマド・シャイリル理事長(39)=越前町=は、大学生同士の交流事業に取り組む。対象は現地の将来有望なエリート学生だ。2月には、マレーシアだけでなくメキシコ、中国などの県外在住の外国人留学生を対象に丹南地域の企業を巡るツアーも実施した。モハマドさんは「留学生の受け入れ拡大など教育分野に特化し、外国人を呼び込むことで他県と差別化できるのでは」と話す。

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 北陸新幹線県内開業を見据え、インバウンド(訪日客)の受け入れ準備の動きもある。丹南地域の産業体験イベント「RENEW(リニュー)」の実行委員会が昨夏立ち上げた一般社団法人「SOE(ソエ)」。ものづくりの現場を巡り、職人の指導を受けながら体験できる通年型の産業観光を目指す同法人は、外国人向けのホームページ作成や宿泊施設開設を進める。

 専務理事の村上捺香さん(29)は「目的は持続可能な産地づくり。地元の職人が無理なく続けられるコンテンツとして、本物の体験を外国人に提供したい」と話す。昨秋のRENEWは3日間で延べ3万7千人が訪れ、工芸品の売り上げは3千万円を超えた。20~30代の女性が主力層だが、本物志向の外国人工芸ファンの裾野を広げたい考えだ。

 福井を訪れる外国人観光客は「現実的には京都や金沢のついでに来ることが多いだろう」と村上さん。「京都に関心が高い外国人は工芸にも関心がある。こだわりがあり、時間もお金も持っている。だから高価格帯の産業体験も受け入れられると思う」

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