【インディカー2023プレビュー】昨年9勝を挙げた常勝軍団チーム・ペンスキーの牙城を崩すのは?

 今週末、2023年NTTインディカー・シリーズが開幕する。

 今年も開幕戦はフロリダ州のリゾートタウン、セント・ピーターズバーグ。湾に面した空港の滑走路、公園内道路とダウンタンのストリートを使ったテンポラリーコースがその舞台だ。

 レース開催地は昨年と変わらず、レース数も17のままだが、デトロイトのレースはベルアイルを離れ、ダウンタウンにコースが変わる。インディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースでは5月と8月の2回レースを開催し、アイオワのショートオーバルは今年もダブルヘッダーとなる。

 使用サーキットのバラエティは、ストリートが5戦(セント・ピーターズバーグ、ロングビーチ、デトロイト、トロント、ナッシュビル)。

 常設ロードコースが7戦(バーバー・モータースポーツパーク、インディアナポリス・モータースピードウェイ×2、ロードアメリカ、ミド・オハイオ・スポーツカーコース、ポートランド・インターナショナル・レースウェイ、ウェザーテック・レースウェイ・ラグナセカ)。

 そしてオーバルは5戦(テキサス・モータースピードウェイ:全長1.5マイル、インディアナポリス・モータースピードウェイ:全長2.5マイル、アイオワ・スピードウェイ:全長7/8マイル)、ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ:全長1.25マイル)。

 昨年はウィル・パワー(チーム・ペンスキー/シボレー)がキャリア二度目のシリーズタイトル獲得を果たした。勝利数はわずかに1回だけだったが、12戦でトップ4に入る脅威的安定感を保って、5勝したチームメイトのジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー/シボレー)に16点の差をつけてチャンピオンに輝いた。

 パワーはポールポジションを5回獲得。PPキャリア獲得数68回はマリオ・アンドレッティを抜いての歴代トップとなった。
 

2014年以来2度目のチャンピオンを昨年獲得したウィル・パワー

 

 前述の通りにランキング2位はニューガーデン。チーム・ペンスキーのワン・ツーだった。しかも、彼らの3番目のドライバー、スコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー/シボレー)もランキング4位という上位につけた。彼は3勝。ペンスキー勢は3人で17戦のうちの9戦を制する強さを発揮した。

 2023年もペンスキー勢がタイトル争いの中心になる。そう見るのが妥当だろう。今年も全エントラントが使用するマシンには大きな変化がないからだ。

 シボレーとホンダの供給する2.2リッターV6ツインターボエンジンは大幅な設計変更などができないルールとされているため、マッピングやパーツ類の細部の改良による小さなパフォーマンスがなされるのみ。

 ワンメイクシャシーのダラーラDW12も空力の変化は経験してきているものの、ベースの部分は変わらないため、どの出場チームもマシンを熟知し、性能をフルに引き出している。

 その週にレースの行われるコースやコンディションに合わせたファインチューニングが勝敗の鍵を握っている。

 近年のパフォーマンスではペンスキー以上のものを誇ってきているチップ・ガナッシ・レーシングは、2022年は不振と言ってもいいぐらいだった。

 インディアナポリス500マイルレースでマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)が勝利したのだから、不振と呼ぶべきではないのかもしれないが、過去6回チャンピオンになっているスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)は、ランキングこそ3位に食い込んでみせたももの、優勝2回、ポールポジション1回という結果は彼とチームが満足のできるものではなかった。

 エリクソンの優勝はインディ500のみ。ランキングは6位。シーズン中に契約で揉め始めたアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)は最終戦ラグナセカで優勝し、前年度チャンピオンが未勝利……という事態だけは避けた。

 彼のランキングは5位。4台目に乗ったジミー・ジョンソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)はランキング21位で、シーズン終了後にインディカーへの継続参戦しないことを発表。トニー・カナーン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)はチームの5台目でインディ500にだけ出場し、見事に3位フィニッシュを達成した。

 2022年には、その前年に続いてアロウ・マクラーレンSP(2023年からはアロウ・マクラーレン)の躍進ぶりが目立った。パト・オワード(アロウ・マクラーレン/シボレー)は2勝を挙げてランキング7位となり、チームメイトのフェリックス・ローゼンクヴィスト(ア/シボレー)も勝利こそなかったが、ランキング8位につけた。

パト・オワード(アロウ・マクラーレン)

 アロウ・マクラーレンの進出によってその地位を危うくされているのはアンドレッティ・オートスポートだ。アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)が2019年以来となる久々の勝利を挙げたが、彼のランキング9位がチーム内のトップ。

 コルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート・ウィズ・カーブ・アガジェニアン/ホンダ)も1勝したがランキングは10位。ロマン・グロージャン(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)はキャリア初勝利を記録できず、ランキングも13位とチームや世間の期待に応えることができなかった。
 

コルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート)

 
 チーム・ペンスキーは他のどのチームよりも風洞や7ポストリグ、そしてシミュレーターを多用してシャシー開発に取り組んでいる。クルーの統率も取れており、マシンの準備やピットストップもシリーズ最高レベルにある。

 彼らの牙城を打ち破るのは容易ではない。パワーが持ち前のスピードを保ったまま安定感を身につけた点は非常に大きい。ニューガーデンはそんな進化したパワーを打ち負かすべく全力を注ぎ込んでくるだろう。そして、フルシーズン3年目を迎えるマクラフランは先輩2人も用心すべきタイトルコンテンダーとなりそうだ。

 彼らの連覇を阻止する最有力候補は、もちろんチップ・ガナッシ・レーシングだ。

 ディクソンは担当エンジニアをまた変更する。デイル・コイン・レーシングで経験を積んできたロス・バネルとのコンビで予選でのスピード不足などの課題を克服し、7度目のタイトル獲得を目指す。
 

2022年は予選で下位に沈むことも多かったスコット・ディクソン

 
 パロウは2023年いっぱいでガナッシを去ってマクラーレンへ移ることになるようだが、契約問題がクリアになったことで、2023年はレースにフォーカスしパフォーマンスを上げてきそうだ。

 エリクソンはすでに安定感の高さは証明済み。予選順位を上げれば複数回優勝を記録し、タイトル争いに絡むことも可能だろう。

 ガナッシ勢ではルーキーのマーカス・アームストロングも興味深い存在だ。開幕前のテストではコンスタントに好タイムをマークしている。彼はロード&ストリートのみへの参戦だ。

 そして、アームストロングと同じカーナンバー11でオーバルレースに臨むのが佐藤琢磨だ。彼にはインディ500での3勝目を期待したい。チームも勝てるドライバーとして琢磨を雇い入れた。

 琢磨の加入は、エリクソンやパロウにもたらすプラス効果も大きいだろう。シーズン第2戦テキサスがガナッシでの初レースとなる琢磨。テキサスは非常に得意なコースだが、そこではチームに慣れることが最優先となる。

 4月のインディ500向け合同テストから本気モード。インディの後のアイオワ、セントルイスの両ショートオーバルでも琢磨は速い。フルシーズン参戦ではない琢磨は、出場各レースでシンプルに勝利だけを目指した戦いを行う。

■インディカー2強を追うチームは?

 ペンスキー、ガナッシの2強を倒すことができるチームがあるとしたら、それはマクラーレンかアンドレッティだ。シリーズナンバー3の座を競い合っている彼らだが、この2シーズンほどマクラーレンの優位が続いている。

 今年その差が広がってマクラーレンがトップ3の一角を占めることとなるのか、アンドレッティが巻き返すのかは大いに注目されるところだ。

 F1進出の話が進行中のアンドレッティとしては本業のインディカーで苦戦を続けているわけにはいかない。

 おもしろいことに、ロッシは久々の勝利を挙げたが、チームを離れることになった。彼はオワード、ローゼンクヴィストとの3カー体制を敷くマクラーレンの一員となる。この3人がスムーズにチームワークを発揮できるようになるのか、フリクションが生まれるのか。
 

マクラーレンへと移籍したアレクサンダー・ロッシ

 
 マクラーレンはインディ500には4台目をエントリーさせ、ベテランのカナーンを乗せる。前年のインディ500で2、3、4、5位に入ったドライバーたちが1チームに名前を連ねることになったわけだ(優勝のエリクソン以下はオーワード、カナーン、ローゼンクヴィスト、ロッシの順だった)。

 進歩を続けてきているチームだが、フルシーズンの3カー体制になるのは今年から。ドライバーたちの協力体制の構築も含め、マネジメント部門の力量が問われる。

 アンドレッティはロッシの抜けた穴にカイル・カークウッド(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)を持ってきた。アンドレッティで2021年にインディ・ライツチャンピオンとなったカークウッドは、AJ・フォイト・レーシングで1シーズンを戦って経験を重ね、今年の開幕前テスト2回(サーマルクラブとセブリング)で上々のタイムを出していた。
 

カーナンバー27でエントリーするカイル・カークウッド

 
 カークウッドにスピードが備わっているだけでなく、アンドレッティのマシンがライバル勢との差を詰めてきているとしたら、ハータとグロージャンのパフォーマンス向上も当然あり得る。

 参戦2年目のデブリン・デフランチェスコも含め、今年はアンドレッティ勢がよりシリーズを混沌と、そしておもしろくさせることが期待される。

 レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダは2022年ルーキー・オブ・ザ・イヤーとなったクリスチャン・ルンガー(21歳)のさらなる成長が楽しみ。グラハム・レイホールとジャック・ハーベイの奮起も期待したい。彼らはインディ500で女性ドライバーのキャサリン・レッグを登用することにもなっている。
 

合同テストでも好調だったクリスチャン・ルンガー

 
 メイヤー・シャンク・レーシング/ホンダは今年もふたりのインディ500優勝候補=エリオ・カストロネベスとシモン・パジェノーというベテラン2人を走らせる。アンドレッティ・オートスポートとの技術提携は今年も変わらない。

 リナス・ヴィーケイとコナー・デイリーのコンビをキープしたエド・カーペンター・レーシング/シボレーにはあと一段のステップアップが必要だ。

 フンコス・ホーリンガー・レーシング/シボレーのカラム・アイロットは初勝利を挙げても不思議のないスピードを見せてきている。あとはチームのレベルアップ次第。今年はアルゼンチンのツーリングカーチャンピオンであるアグスティン・カナピノを起用しての2カーに体制を拡大するが、それがアイロットの足を引っ張ることがないようにしてもらいたい。

 カナピノがどこまで素早くインディカーに順応し、チームメイトに迫る走りを見せるかにも注目だろう。
 

予選では非凡な速さをみせていたカラム・アイロット

 
 デイル・コイン・レーシングは人材流出で苦況に追いやられたが、昨年ルーキーながら大活躍したデイビッド・マルーカスと、インディライツ上位ランカーのスティング・レイ・ロブという若手2人(どちらも21歳)を走らせる。

 AJ・フォイト・レーシング/シボレーはサンティーノ・フェルッチをエースに迎え、インディ・ライツで走っていたベンジャミン・ペデルソン(23歳)を起用する。

 2023年もNTTインディカーシリーズは混戦必至。全17戦でエキサイティングなバトルが繰り広げられることになる。

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