実の父親からの性的虐待は保育園のころから…「このままじゃ生きられない」女性の訴えは届くか

幼いころに父親から性的虐待を受けた女性の話です。

「このままじゃ生きられない」―。そう感じた女性は、父親を相手に裁判で闘っています。

女性は、幼いころの父親の性的虐待が原因で大人になってからPTSDを発症したとして、3年前、父親におよそ3700万円の損害賠償を求める民事裁判を起こしました。

そして、去年10月に出た判決では、1審の広島地裁は父親による性的虐待があったことは認めたものの、女性が性的虐待を受けた当時の民法は、「被害が生じてから20年経つと損害賠償を請求する権利が消滅する」と定めていたことから、父親への損害賠償請求を認めなかったのです。

女性は、控訴し、近く、2審・広島高裁での裁判が始まります。

広島市に住むあやさん(仮名・40代)です。

あやさん(仮名・40代)
「裁判をしないと自分がつぶれてしまう、苦しくて死んでしまうなって。父とのことに向き合わないと」

あやさんに父親からの性的虐待が始まったのは、保育園に通っていたころでした。

父親のひざに乗せられてアダルトビデオを見せられ、体を触られたことを覚えています。

小学校4年生のクリスマスの日、性交を強要され、それは中学2年生になるまで続きました。

あやさん(仮名・40代)
「『いい? それともこっちがいい?』と、行為をされることしか選択肢がなくて、『嫌だ』と断ることを教えてもらえない」

まだ子どもだった女性は、その行為が「虐待」だとは、分かりませんでした。

あやさん(仮名・40代)
「『好きだからやるんよ、誰にも言っちゃいけない』とずっと言われてきて、被害に遭っているっていうのが分からない。そのうちそのことが苦痛すぎて自分の頭で考えられなくなっている」

父親の行為はいつしか終わりましたが、自分では気付かないうちに気持ちをぐっと抑え込んだまま、あやさんは大人になりました。

周りの人を信じられず、なぜか生きづらい、苦しい時間が続きました。

そして、きっかけは数年前です。

大好きで頼りにしていた祖母が亡くなります。

そのころからだんだん感情がコントロールできなくなり、何十年も前に父親から受けた性的虐待が、フラッシュバックするようになったのです。

「このままじゃ生きていけない」―。そう思ったあやさんが、わらにもすがる思いでたどり着いたのが、性被害者をサポートするNPOでした。

あやさん(仮名・40代)
「あの建物に入ったら性被害者だって分かるんじゃないかって。そんな行動したことなかったから怖い、怖いで…。でも、ずっと話をただ聞いてくれて、ここはだいじょうぶだってわかった」

相談員との会話を通して、気持ちが少しずつ楽になったといいます。

それから数年経った2020年、裁判に踏み切ります。

父親の性的虐待が原因で大人になってからPTSDを発症したとして、父親に損害賠償を求めたのです。

しかし、去年10月、広島地裁が下した判決は、あやさんの訴えを退けるものでした。

あやさん(仮名・40代 去年10月)
「こんな被害を受けて訴えたのに負けるっていう判決が出ることが理解できない」

あやさんは控訴し、高裁でも闘うことを決めました。

寺西環江 弁護士
「被害を申告するというのは、ほとんどの被害者にとってとてもたいへんなことです。加害者の多くは知っている人です。訴えるというのは、とんでもないリスクを伴うわけです」

あやさんの弁護人・寺西環江さんです。これまでに担当した性被害を訴える複数の裁判の経験を元に、広島市のカフェで開かれた性暴力について理解を深める会で話をしました。

寺西環江 弁護士
「性被害を受けると尊厳を踏みにじられる。魂の殺人と言われています。精神疾患になってしまう人もたくさんいます」

そうした被害者が裁判で闘うのは、大きなエネルギーが必要だといいます。

ただ、被害を受けたことを誰かに話し、自分に起こった出来事を整理することが被害者が前へ進む手段のひとつになると寺西さんは感じています。

会の参加者
「当然のこととして訴えが認められるのが、彼女の尊厳の回復になると思う。当たり前のこととしてあなたは悪くないんだと、被害者が声を上げられる社会を作っていきたいなと思います」

あやさんは、「自分が性被害に遭ったことを知られたくない」という思いの一方で、自分が「被害を受けた」と声を上げることで、かつての自分のようにつらい思いをしている被害者の救いになればと考え、取材にも応じています。

あやさん(仮名・40代)
「性被害に遭うっていうことが恥ずかしいこと…、そうじゃなくて、『性加害をすること』が恥ずかしいじゃないですか。被害に遭いましたって言える世の中じゃないといけない」

2審では、被害を誰かに相談するまでに時間がかかることなど、性的虐待特有の被害の側面をていねいに伝えたいと考えています。

あやさん(仮名・40代)
「自分にとってはこの判決次第で、やっぱり今後、生きるか死ぬかぐらいの苦しいことだったりする。やれる限りのことはやろうとしてくれている弁護士さんとかNPOとか、こうやって一生懸命協力…。それがすごくうれしい。早く知っとけば、もっと早く被害を言えて、こんな年にもならんかったのになと思う」

あやさんにはいま、つらいときに話ができる相談員や一緒に闘う弁護士などの味方がいます。

「性被害を受けて今も苦しんでいる人が、声を上げられるように」―。そう願いながら、広島高裁での裁判に立ち向かいます。

去年10月の広島地裁の判決では、「ずっと苦しかったのなら、苦しみを感じ始めた少なくとも10代のころから今までの間、訴えることができたのでは…」というように裁判長が指摘しています。

一方で、女性は、10代の頃から苦しみを感じていたけれど、実際はそれがなぜ苦しいかは分からず、性的虐待を受けた気持ちを抑え込んでいたから、それが苦痛の原因と結びつかなかったといいます。

1審の裁判でもそれは伝えたけれど、判決に反映されなかったため、高裁ではそういったPTSDの症状の特徴を専門家の意見書や論文を通してしっかり裏付けして伝える予定です。

控訴審の第1回弁論は、6日に広島地裁で開かれます。

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