ブルース・スプリングスティーンによる、U2の“ロックの殿堂入り”祝福スピーチ

Rock & Roll Hall of Fame YouTube / Bruce Springsteen Inducts U2 at 2005 Rock & Roll Hall of Fame Induction Ceremony

2023年3月17日にリリースされるU2のニュー・アルバム『Songs Of Surrender』は、彼らの40年を超えるキャリアを通して発表してきた最も重要な40曲を、過去2年間に行われたセッションで2023年版として新たな解釈で新録音したアルバム。

このアルバムの発売を記念して、2005年にU2がロックの殿堂(Rock and Roll Hall of Fame)入りを果たした際、ブルース・スプリングスティーンが披露したユーモアとU2への愛にあふれた祝福スピーチの全文を掲載。

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音楽は宇宙や神様にまで挑戦する

(編註:U2「Vertigo」の歌いだし)「Uno, dos, tres, catorce」は「1、2、3、14」っていう意味だ。だけど、ロック・バンドにおいてはそれが正しい数式なんだ。芸術や愛やロックンロールにおいては、すべてが掛け合わさることで、その要素の単なる合計よりもずっと大きなものが生まれないといけない。さもないと、火を起こそうとして二本の木の棒を擦り合わせているだけってことになってしまうからね。偉大なロック・バンドとは、ビッグ・バンのあとに宇宙を膨張させたような莫大な熱エネルギーを作り出そうとするものだ。大地を震わせ、炎を吹かせたい。神様が降臨できるように、空を真っ二つに裂きたいと思うものなんだ。

音楽に多くを望み、多くを求めるのは恥ずかしいことだ。ただ、それだけのものが誕生することは現実にある。『The Sun Sessions』(エルヴィス・プレスリー)、『Highway 61 Revisited』(ボブ・ディラン)、『Sgt. Peppers…』(ザ・ビートルズ)、ザ・バンド、ロバート・ジョンソン、『Exile On Main Street』(ザ・ローリング・ストーンズ)、『Born To Run』(ブルース・スプリングスティーン) ―― おっと、最後のは省くつもりだったやつだ(会場笑い)。

それとセックス・ピストルズ、アレサ・フランクリン、ザ・クラッシュ、ジェームス・ブラウン、そしてパブリック・エネミーの『It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back』にこもったパワー。音楽は時の権力だけでなく、ともすると宇宙や神様 ―― 彼が聴いていればの話だが ―― にまで挑戦している。責任の求められる立場だが、U2もそんなグループの一つだ。

スプリングスティーンが初めてU2を見た時

80年代前半のことだ。俺はピート・タウンゼントと一緒にロンドンのクラブへ出かけた。彼はいつも、俺たちの立場を脅かすアーティストの登場をいち早く察知しようとしていた。そして、そこに彼らはいた。若かりしころのボノ、アイルランドでマレット・ヘアを流行させた張本人だ(会場笑い)。それにジ・エッジ、、いったい何って名前なんだ。そして、アダムとラリーの4人だ。そこで演奏していた彼らは、私がメンバー全員の名前を挙げることができる最後のバンドだね。彼らのライヴは素晴らしくて、そのサウンドは美しく壮大だった。会場も大いに沸いていたのを覚えている。

そのあとで彼らに会って話をすると、みんな好青年で、しかもアイルランド人だった。アイルランド人だよ!(編註:ブルースの父はオランダ系とアイルランド系のアメリカ人)。彼らがアメリカで成功を収めたのはそのおかげと言っても過言ではない。英国人には、持ち前の上品な感性を克服しないといけない側面があるけど、アイルランド系やイタリア系の人にそんな悩みはない。俺たちは最初に、拳と人情で心の扉を開けるんだ。U2は、天国の鐘が鳴るようなダークなサウンドを思いのままに操ることで ―― それはもちろん、彼らにとって最大のテーマである“報われない愛と憧れ”のサウンドだが ―― 彼らにとっての”神の探求”をありのままにサウンドで表現している。彼らは現世の世界を手中に収めようとするだけじゃなく、来世にまで目を向けているバンドだった。

それに、彼らは正真正銘のバンドだ。一人一人のメンバーが必要不可欠な存在なんだ。俺が思うに、彼らはある種の民主主義を実践しているんだろう。でも民主主義はバンドにとって致命的なことだ。民主主義なんてイラクならまだしも、ロック界ではもっての外さ!それでも彼らは生き抜いてきた。彼らは、偉大なロック・バンドに必ず存在する“時限爆弾”をうまく利用しながら活動してきた。それは普通であれば、俺たちがいつも目にしているように、いつか爆発してしまうものだよ。だけど彼らは、ロック・バンドが職を安定させるために一番大切な原則を初めから理解していたようだ。つまり、「おい、バカ野郎。隣にいるヤツはお前が思うより重要人物だぞ!」ということさ。

偉大なバンドというのは、ロックで世界の現状を変えられると信じ、ファンを信じることを恐れず、最高の演奏をすることで最高の自分に出会えると信じているものだ。そしてU2は、そういうバンドの直系のグループであり、それをさらに一段進化させたグループでもある。彼らはポップ・スターの座や、大きな成功を手に入れられると信じてきた。愚かさと計算高さをどちらも持ち合わせていないとそうはいられない。それに、自分たちの作品とか、現状を変えることができる自分たちの作品のパワーに強い自信を持つことも必要だ。U2はそれらすべてを貪欲に求めながら、自分たちのサウンドを作り上げ、そのサウンドに合う楽曲を書いてきた。彼らは、ロック界屈指の美しさを誇る自分たちの音楽を守り続けている。

メンバー4人の印象

ジ・エッジ、ジ・エッジ、ジ・エッジ、ジ・エッジ(会場に拍手が起こる)。ほかとまったく違うスタイルを持つギタリストは珍しいが、彼はその一人で、これほどに繊細な感覚をもつギター・ヒーローは史上でも稀だ。彼はアンサンブルの一部に徹して、ギタリストとしてのエゴをグループに捧げている。だけど、誤解しちゃいけない。ジミ・ヘンドリックス、チャック・ベリー、ニール・ヤング、ピート・タウンゼントなんかを思い浮かべてほしい。自分のバンドだけじゃなく、その時代のサウンドを形作ったギタリストたちだ。そういう人たちの特徴は、そのプレイを真似れば、サウンドもそれに近くなることだ。

実際、4度の音程でサステインの効いた2音をリズムよく弾いて、深いエコーをかければ、ジ・エッジのような音を鳴らせる。振り返ってみれば、幸運を掴める可能性はわずかしかない。ほんの一握りのギタリストだけが、楽器で自分だけの世界を作り上げられるんだ。そして、彼はその一人だ。ジ・エッジの演奏は、凄まじい音の広がりで広大な心象風景を作り上げる。スリリングで胸が張り裂けるようなそのサウンドは、不穏な空模様のようにリスナーの前に垂れ込めてくる。その音色が描き出す景色は、それ自体が崇高なものだ。神の恵み、天からの贈り物なんだ。

だけど、今度はそれを制御するものも必要になってくる。安定感抜群のアダム・クレイトンのベースと、ラリー・マレンの優雅なドラミングによるリズムが、バンドの演奏を前進させつつ制御している。U2を官能的で危険な香りの漂うグループに仕立て上げているのは、この優れたリズム・セクションだ。「Desire」や「Mysterious Ways」、鼓動のようなビートの「With Or Without You」はその好例だろう。ラリーとアダムの二人による演奏は、この大地の下に、よこしまな裏の世界が存在するという素晴らしい可能性を感じさせてくれる。そしてそれは、“偉大なるロック・バンド”に必ず求められる要素なんだ。

アダムはいつも学者肌で、バンドでも一番洗練された人物というイメージだ。ステージでは、音楽の面だけでなく見た目の面でもバンドに安定感をもたらしている。彼が奏でるベースのトーンや奥行きのおかげで、バンドはロックから、ダンス・ミュージックのようなほかのジャンルにも音楽の幅を広げられるんだ。また、U2では、ギターやベースの音を非常に現代的なリズムが支えている。俺は彼らの演奏を聴いてすぐにそのことに気づいた。ラリーは単純な2分や4分のビートを刻むんじゃなく、シンコペーションを多く取り入れている。それも、U2のサウンドに現代のダンス・ミュージックのような風合いを持たせているんだ。多くの場合、彼のドラムの音は高くタイトだけど、彼はスイングしながらそのリズムを刻んでいる。このバンドがほかと一線を画しているのはそのおかげでもある。彼のリズムがあるからこそ、彼らはロック・サウンドを存分に展開させられるんだ。

ラリーに関しては、素晴らしいドラマーなのに加えて、U2に欠かせない“男前のメンバー”であることも忘れてはいけない(会場笑い)。どういうわけか、Eストリート・バンドではすっかり忘れていた部分だね(さらに笑い)。俺たちの場合は“カリスマ性がある”ってことでよしとしておこう。女性たちはラリー・マレンに目がないんだ! 俺の女性アシスタントは、ラリーのドラム・スツールに座ってみたいらしい。男性アシスタントも同じことを言っているよ。ラリーに比べると、俺たちはみんな十字架を背負って生きているようなものだ。

そしてボノ…。何から話せばいいだろう? ジーンズ・デザイナーで、世界銀行の次期総裁で、普通の実業家で、ブルックリン橋の売り手 ―― いや、彼はブルックリン橋の下で演奏したことがあるだけだったね。そして、じきにボノ・バーガーというチェーン店をプロデュースする男。そこではおかしなアイルランド人が、ものすごい数の物語を聞かせてくれるだろう。誰かがやらなきゃいけない汚れ仕事だけど、まだ本業を辞めちゃダメだよ。これがきみの天職なんだから。これほど壮大なサウンドには、監督役が一人は必要なんだ。

ボノはその役目を立派に果たしている。懐が深くて広がりのあるその声は、彼がどれだけ懸命に歌ってもまったく聞き苦しくならない。彼は素晴らしいフロントマンなんだ。だけど予想に反して、彼はひと昔前に多かった、元ジャンキーで痩せ型タイプのフロントマンではない。むしろ彼はラグビー選手、いや、元ラグビー選手のような体格をしている。シャーマン、イカサマ師、そしてロック界でも指折りの救世主的存在でもある。それも、愛おしいほど無防備な救世主だね(会場笑い)。きみに神の御加護がありますように!何しろ、俺たちは似た者同士なんだから。

いいかい、アイルランド人やイタリア系アイルランド人の善良なフロントマンはみんな、ジェームス・ブラウンが現れる前にはイエス・キリストがいたことを知っている。だから、ステージ・セットにマクドナルドみたいなアーチなんて要らないんだ。俺たちは皮肉屋じゃないんだから。俺たちは心と、大地と、十字架の道行きの産物なんだ。そのことはどうやったって変えられない。彼は腕のあるロック・シンガーには珍しく、オペラのような声や美しいファルセットを出すこともできる。だけど何より重要なのは、突き抜けるような彼の歌声に自信のなさが感じられることだ。この壮大なサウンドがうまく成立しているのは、そのおかげなんだ。そんなボノの才能こそが ―― 彼の書く美しい歌詞と相まって ―― 神々しくも感じられるU2の音楽に、儚さやリアルさを与えている。常に自問自答するようなボノの歌声が、バンドの演奏に人間味を与えて、聴く人の共感を呼ぶものにしているんだ。

多くの場合、ボノの歌声はバンドの演奏の上に響いているというより、その奥深くから響いてくるように聴こえる。「神様、あなたに似た姿形の俺たちは、こんな有様です」、そんな風に彼は劇的に歌い上げる。時には「キスして、俺はアイルランド人だよ」と言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべることもある。彼は過去20年で数本の指に入るフロントマンだ。彼はまた、自分の信念やバンドとしての理想を現実世界で実現させようとする数少ないミュージシャンの一人でもある。草創期のロックは、自由、連帯、そして世の中をより良いものにできる可能性、といったものを感じさせてくれた。ボノはその精神を忠実に守り続けている。

バンドの楽曲:心を落ち着かせ、同時に高揚させてくれる

このバンドの作る美しい楽曲のことも忘れちゃいけない。「Pride (In The Name Of Love)」「Sunday Bloody Sunday」「I Still Haven’t found What I’m Looking For」「One」「Where The Streets Have No Name」「Beautiful Day」といった楽曲からは、彼らが常にリスクを恐れない曲作りをしてきたことがわかる。実に驚くべき楽曲群だ。彼らの音楽には心を落ち着かせ、同時に高揚させてくれる精神性が感じられる。自分の心や自分の願い、そして足元に神様が宿っていなければ、神に近づくことなんてできるはずがない。これだけ長いあいだこのバンドが続いている理由は、まさにそこにあるんだと思う。

いいかい?バンドが偶発的に生まれることはあっても、そのバンドが偶然で長続きすることはない。そのためには意志、決意、目的意識の共有、そして仲間の過ちを許し、許される関係が必要になる。それでもやっと、可能性が五分五分になるくらいだ。U2は可能性を五分五分にした上で、最高の仕事をし続け、音楽シーンとチャートの頂点に25年ものあいだ立ち続けてきた。そうして彼らはバンドを続けてきたんだ。俺は彼らにミュージシャンとしてだけでなく、一人の人間としても強い親近感を覚えるんだ。

iPodのCM

あるとき、俺はパジャマ姿で長男と一緒にソファに座っていた。隣にいる長男はテレビを見ていて、俺は自分の大好きなことをしていた。これまでのキャリアで断ってきたCMの出演料を数え上げていたんだ(会場笑い)。そして、そのお金があればできたことに想いを馳せていた。すると突然、「Uno, dos, tres, catorce!」という声が聞こえて、俺は顔を上げた。するとそこには、iPodのCMでいつも跳ね回っているヒッピーかぶれのシルエットではなく、あいつらが映っていたんだ!

なんてこった!あいつら、金に目が眩みやがった!

俺がiPodについて知っていることといえば、音楽を再生する機器ってことくらいだ。もちろん彼らの新曲は格好良かったし、パフォーマンスも最高だった。だけど俺の耳には、その昔にテープ技師をしてくれていたジミー・アイオヴィンの手腕がどこかで感じられた。したたかで抜け目のないやり口だ。俺自身の話をすると、俺は尋常じゃなく金遣いの荒い生活を送っていて、妻を怒らせている。とてつもない収入が必要になるほど、お金を浪費しているんだ。それなのに、俺はまるでお金にならない愚かなミュージシャン像を作り上げてしまっていた(会場笑い)。俺の悩みが想像できるだろう?自分を恨むしかないよ。

だから次の日の朝、俺はジョン・ランドー(編註:スプリングスティーンのプロデューサー)に電話をかけた。彼のことは“アメリカのポール・マッギネス”と呼んでいるんだ(編註:ポール・マッギネスはU2のマネージャー)。それで俺が「iPodのCMは見たかい?」と言うと彼は「ああ」と答えた。それから「彼らは金をもらってないって聞いたぜ」と言うので、俺は「お金をもらってないだって?!」と驚いた。彼は「そうとも」と言うので、「抜け目ない、したたかなアイルランド人たちだ」と返したんだ(会場笑い)。

CMに出てお金をもらうことは誰にだってできる。だけどCMに出てお金をもらわないなんて…抜け目ないよ。実にしたたかだ。だから俺は言ったのさ。「ジョン。ビル・ゲイツか誰か知らないが、これの責任者に電話して提案してほしいんだ。“ザ・ボス”ことブルース・スプリングスティーンのサインが入った、赤・白・青のiPodをね。だけど忘れちゃいけないよ。どれだけの額を提示されても、絶対に受け取っちゃダメだ!」(会場笑い)。

とにかく、あの晩から次の月くらいまで、14歳の愛息子の部屋から毎日、何かが聞こえてくるようになった。近ごろ急にぐっと低くなった声で「Uno, dos, tres, catorce」と叫ぶのが廊下まで聞こえてくるんだ。ロックンロールの正しい数式さ。ありがとな、お前たち(会場拍手)。

このバンドは、ロックンロールの力を信じ続けてきた。人の心を動かし、人を活気づける素晴らしい力だ。その力は少しだって弱まることはない。そして、彼らは自分自身のことも信じてきた。だがもっと重要なのは、彼らが「きみたちのことも (you, too)」信じてきたということだ。

ボノ、ジ・エッジ、アダム、ラリー。ありがとう。それではみなさん、U2をロックの殿堂に迎え入れるとしましょう。

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最新アルバム

U2『Songs Of Surrender』
2023年3月17日発売

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