業績悪化で従業員を解雇しているのに、なぜ株価があがるのか?

コロナショック後の回復局面から、インフレ長期化による景気減速懸念へとシフトしていくなかで、昨年2022年くらいから、米大手のITや金融、メーカーやサービス業など幅広い業種において、従業員を解雇する動きを伝えるニュースが目立つようになり、業績回復期待などで株価が上昇するケースもありました。

そこで今回は、従業員の解雇によって株価が上昇する現象など、日本人の感覚としてはなじみのなさそうな投資の常識・非常識の一部を解説します。


業績悪化による従業員解雇、なぜ株価が上昇するのか

コロナショック後の回復局面では明暗わかれ、いわゆる「K字型回復」となりました。米ビッグテックなどは巣ごもり需要に備えるために大量に人材を確保し、いまそれが裏目にでてメタボ状態となったため、大規模なリストラを実施しています。

アルファベット(グーグルの持株会社)、アップル、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトの「GAFAM」5社の2022年10-12月四半期の売上高は、いずれも前年同期に比べ減少か1ケタ増にとどまり、メタが2012年5月に株式上場して以来、初めて5社全てが2ケタ増収となりませんでした。

アメリカのスタートアップから大企業まで、各社のレイオフに関する情報をまとめている「Layoffs.fyi」によると、2022年には16万人超、2023年には10万人超のリストラが実施され、大手でも例えば次のような事例が発生しています。

コスト削減と利益率上昇

一般的にリストラというとネガティブな印象があり、リストラを実施している企業は業績が悪く、株価も下がるイメージを抱きやすいかと思います。しかし、実際にはリストラは業績悪化、あるいは業績のさらなる悪化を防ぐために行われることが多く、縮小させる事業と、成長分野として期待できる事業や継続させる事業とにわけるなど、「選択と集中」により「コスト削減と利益率上昇」などを狙い、実施されています。

アメリカなど主に北米企業で実施されているリストラは、あまり日本企業にはなじみのない「レイオフ」です。レイオフとは、企業と従業員が雇用契約は解消するものの、再雇用を前提とした一時的な解雇で、再び業績が回復すれば再雇用される可能性が高くなります。

また、レイオフ対象になったとしても転職してかまわないため、レイオフを機に他社へ移るケースも想定されます。実際に米雇用統計の失業率や雇用者数、時給などを総合して考慮すると、人材の流動化がそれなりにうまくいっているのか、大量解雇の影響が表面上はほとんどない印象を受けます。

このように、固定費として重くのしかかっていた人件費を圧縮することで、利益率を回復させることと、その効果により、株主資本に対する利益率も向上することになります。株価は将来の利益見通しを反映しますので、リストラ後の利益が変わらないとするならば、利益率と資産効率を同時に改善することが可能になり、将来の業績回復を見越した買いが入りやすくなります。

噂で買って事実で売る

もう1つ、投資の世界では常識とされているものの、世間的には馴染みが薄い現象を紹介します。

なぜ株価が動くのか、なぜ株価は時として思った方向と逆にいくのか、理解しにくいと感じている方は少なくないと推測されます。それもそのはず、有名な相場格言に「噂で買って事実で売る」「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」があります。

これらは事実として公表された際には「材料出尽くし」で売られてしまうとか、思惑や期待感によって相場は動きやすいということをあらわした格言です。日常生活のなかでは、不確定の段階に思惑で判断し、確定したら出尽くしというような経験はあまりないかもしれませんが、仕事やビジネスではよくあることです。

不変なのは、「買われすぎたものはいつかは売られ、売られすぎたものはいつかは買われる」ということです。好決算が期待された銘柄が、決算発表後に売られたり、マーケットの期待に届かず暴落したりするというようなことはよくありますし、逆もまたしかりです。

人はいまの状態が今後も続きやすいと考えがちですが、マーケットには「平均回帰」といって、チャートの移動平均線のような大まかな流れ(トレンド)から大きくかい離した動きが落ち着くと、そのトレンドへ戻ろうとする力が働きます。

生き残る知恵として役立てよう!

株式市場は実体経済の半年先をいく、と言われています。金融政策から相場サイクルを考えると、次のようなパターンがあり、それぞれのステージごとに強い業種(セクター)が移り変わりながらローテーションしていきます。

かつて、中国バブル(金融相場から業績相場)のピークから約2年後にはリーマン・ショック(逆金融相場から逆業績相場)が起こり、コロナショック(パンデミックによる供給制約・需要急減と、大幅金融緩和・巣ごもり消費急増による、K字回復を伴う突発的な金融相場)のボトムから約1年後の急回復(金融相場と業績相場)は目覚ましいものがありました。

投資の世界では常識でも、日常では非常識であったり、わかりにくいことが少なくありません。特に近年では様々な要因が複雑に絡み合い、明確に相場サイクルが現れないことも想定されるところでありますが、株式市場や金利などの動向をおおまかに把握しておくことで、資産運用の戦略を立てるヒントになると考えます。

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