コロナから復活し過去最高益の美容家電トップメーカー、株価が冴えない理由は?

コロナによる行動規制が解除され、電車に乗る機会がふたたび増えています。いつのまにか電車内での広告は、グラフィックではなくムービーが主流に変わっていました。転職、金融、増毛、結婚……。車内広告には、世相が如実に現れますが、最近よく見かけるのは美容家電の広告です。

マスク生活によって肌荒れしてしまった、Zoomにうつる自分の顔の“あら”が気になる、さらにはマスクレスの生活に備えて肌を整えるなどなど、女性だけでなく男性も美容への関心度が高まっているようです。


美容家電のトップメーカー・ヤーマンの業績は?

美容家電といえば、なんといってもヤーマン(6630)が頭に浮かびます。“おうちでエステ”を、普及させたのはおそらく同社ではないでしょうか? 5、6万円の美顔器は、わたしの友人でも保有している方が多く、肌感としては、かなり儲かっている印象です。

直近の決算短信を見てみましょう。

2022年12月13日(火)に発表された2023年4月期第2四半期決算は、①売上高26,568(百万円)、②前年同期比+27.1%、③営業利益5,367(百万円)、④前年同期比+36.7%と、二桁の増収増益、なおかつ増収率よりも増益率が高いので、営業利益率が改善されていることになります。あれだけ広告をあちらこちらで見かけましたので、広告費はそれなりにかけているはずですが、それらをこなしての増益ということになります。営業利益の通期予想は、10,000(百万円)ですので、第2四半期段階での進捗率は53.6%。まあまあ順調ですね。

画像:ヤーマン「2023年4月期第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

文句なしの好決算ですが、気になるのは③営業利益5,367(百万円)と、⑥経常利益6,799(百万円)の差が大きいことです。前年度は、それほど差がないので、なにか特別な事情がありそうです。

損益計算書を確認すると、営業外収益に為替差益1,717,078(千円)が計上されており、これが営業利益との差であることがわかります。

画像:ヤーマン「2023年4月期第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

海外売上比率が35%なので、その分、円安がメリットになっています。この期間(2022年5月1日~2022年10月31日)は、1ドル110円から150円と急激にドル高円安に触れており、それがヤーマンの経常利益を押し上げてくれていますが、11月以降はドル安円高と逆行しておりますので、この点は注意が必要です。

コロナ前とガラリと変わった販売方法

コロナ前に記憶を戻せば、インバウンドで賑わっていた家電量販店では、ヤーマン専用の売り場がドーンと広く設けられていました。2016年、2017年、2018年の3年間で売上は40%、営業利益はなんと5倍に増益しています。当時の店販部門の売上比率は、全体の44%、ほか海外部門、直販部門、通販部門がありますが、圧倒的に店頭での販売が占めていました。

ところが、コロナで店頭販売が大きく落ち込み、その穴埋めを引き受けたのが海外部門です。主戦場は中国EC市場で、高価格帯の美顔器がかなり売れているようです。

海外部門の売上推移を決算説明書で確認すると、第2四半期の売上が①5,491(百万円)→②7,507(百万円)→③13,435(百万円)と一気に増加し、かつて王者だった店販部門の④3,791(百万円)と比べると3倍以上、全部門の売上の50%以上を占めています。

画像:ヤーマン「49期2Q決算補足説明資料」より引用

想像するに、同社にとってコロナ前のインバウンド需要は、まさに笑いが止まらないような商機だったと思われます。ところが一転、まったく店頭で売れない悪夢から、素早く次なる販売経路を拡大し、見事復活。いや、復活どころか、コロナ前の業績を飛び越え、2023年4月期は過去最高の売上、営業利益を更新予想です。

なぜか冴えない株価

一方、株価はといえば、過去最高益を更新予定のわりには、冴えない展開。過去の値動きを見ると、3回の大きな株価上昇時期があり、2018年5月、2020年11月、2022年6月に高値をつけています。ただし、1回め、2回め、3回めと徐々に株価の高値は切り下がり、勢いが衰えている印象です。

TradingViewより

株価チャートの下部分に表示されている出来高を見てください。この棒グラフが長いほど、活発に売買されていることになります。最初の盛り上がりを見せたときの出来高はとても活況ですが、その後は、そこまで盛り上がりを見せていません。

このように一度フィーバーした株は、その後、最初のフィーバーをなかなか超えられないといったことがよくあります。大ヒットを飛ばしたアーティストが一発屋で終わってしまうのと似ているかもしれませんね。継続的にヒットを出し続けるのがむずかしいように、継続的に株価を上げ続けていくのは、好業績というだけでは達成できないのです。

ヤーマンの株価が過去最高を超えるためには?

忘れられた有名人が、もう一度注目を浴びるためには、なんらかの大きなヒット作品が必要です。ヤーマンにも、そういった大ヒット商品が出てくれば、過去の高値を超えていけると思います。

余計なお世話かもしれませんが、可能性があるとしたら、男性用の美容家電ではないでしょうか? すでに身だしなみに敏感な男性の間では、脱毛は当たり前のこととなっているようです。男性用エステサロンも、ちらほら見かけるようになりました。しかし、エステに通って脱毛をするのは、まだまだハードルが高いのでは? 「脱毛がセルフでできるならやろう!」と思う紳士が世界中で増えると考えるのは、そう無理のない妄想だと思います。

わたしが指摘するまでもなく、当然ヤーマンは男性美容家電市場に参入しています。

2023年には、新モデルとして、男女兼用の脱毛家電「レイボーテヴィーナス ビューティープラス」を発売しており、男性の太い毛やヒゲもハイパーケアで対応。またコードレス&防水なので、家中どこでも使える優れもの……と、説明を読んでるとわたしも欲しくなってきました。

ライバルのパナソニックは?

美容家電といえば、パナソニックを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、パナソニックは総合エレクトロニクスメーカーで、個人向け家電だけではなく、電気機械器具・住宅関連から産業向け電子部品・FA機器・情報通信機器、車載機器・電池に至る製品の開発・生産・販売・サービスと、多岐にわたって事業を展開しています。かりに美容家電が大ヒットしたとしても、全体の売上に対する寄与度は、それほどインパクトのあるものではなく、よって株価への影響も期待できません。

テクニカル的には三角もちあいを抜けるかどうかがキモ

もう一度、ヤーマンの月足チャートを見てください。

TradingViewより

高値が切り下がり、逆に安値は切り上げて、三角もちあいを作っています。この場合、どちらかのラインをつきやぶると、そちらの方向に株価が動きやすくなります。この場合、Aのラインを突き抜けると、一気に上へと株価が上昇する可能性が高いということです。

2023年4月期の第3四半期決算発表は、3月14日(火)。奇しくもホワイトデーと重なりますが、ここでサプライズの数字が出ると、一気に上抜ける可能性もあるので、注視したいです。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

© 株式会社マネーフォワード