ピアノが上達する効果的な練習方法とは?何時間するべき?【榎政則の音楽のドアをノックしよう♪】

ピアノを極めるなら1にも2にもまず練習、毎日8時間から10時間の苦しい練習を重ねて、それに生まれ持っての才能が加わってようやくプロの世界で戦える・・・というイメージはありませんか?これは本当なのでしょうか。この記事では上達するための心構えや、良い練習方法とはどのようなものなのか、ということについて見ていきましょう。なお、私はピアニストなのでこれからピアノのことについて語りますが、他の楽器でもほぼ同様なのではないかと思います。楽器の上達に悩んでいる方は、ぜひご覧ください。

練習の二つの目的「身体を柔軟に」「脳を鍛える」

ピアノの練習の第一の目的は「身体を柔軟にすること」です。

ピアノ練習の目的の誤解として「筋肉を鍛えること」というものがあります。たしかにピアノに慣れていない人は10分ほど練習したら鍵盤が重く感じて疲れてしまいますし、それでも無理に練習を続けたら最悪腕や指を痛めてしまうこともあります。数時間の演奏にも耐えるだけの最低限の筋肉は必要ですが、ピアニストは決して腕相撲が強かったり、握力が強かったりした方が有利なわけではありません。むしろ使う筋肉は最低限にとどめておき、身体の重さや、動きの勢いをいかに効率よく音にしていくか、という事の方が大事です。これに必要なのは、柔らかい関節と、自在に弛緩させられる筋肉です。力を入れるのではなく、むしろ力を抜くことに着目して練習していくとよいでしょう。

そして、全身が柔軟になってくると、極めて少ないエネルギーで弾き続けることができるようになり、5時間、6時間と弾き続けても平気な身体ができあがります。この状態を目指して練習をすることが大切です。

⇒ピアニストはなぜ両手をバラバラに動かせるのか? 「両手でピアノを弾くコツ」を解説

もう一つの目的は「脳を鍛えること」です。

いくら柔軟な身体が出来上がったとしても、その身体をうまく使いこなすことができなければ良い演奏には繋がりません。どのような身体の動かし方をすると自分の求めている音が出せるのかということを知る必要があります。これを考えずに何度も繰り返し練習するのはあまり得策ではありません。繰り返し練習は、たしかに身体が同じ動きを覚えることで見かけ上は弾けるようになりますが、同じ場所で何度も間違えてしまったり、弾き方を変えようとしたときの障壁になってしまうからです。

脳を鍛えるとは、理想の動きをするための身体の動きの感覚を発見し、記憶することです。これはピアノに慣れてくれば鍵盤が目の前に無くても可能となり、イメージトレーニングだけでもかなりの練習効果を得ることができます。ただ繰り返し鍵盤の上で指を動かすよりも効率的に上達できるほどです。

ぜひピアノを練習している方は、「身体を柔軟にすること」「脳を鍛えること」の二つに注目してみてください。「筋肉を鍛える」「繰り返し練習する」は場合によっては逆効果になってしまうこともありますので気を付けましょう。

曲の練習は3方向から考える「基礎練習」「部分練習」「曲の理解」

練習の目的を理解したら、次は実際に曲の練習に取り掛かってみましょう。特に新しい曲に挑戦するときは何から手をつけて良いのかもわからず、闇雲に楽譜に向かったり、何度も音源を聴いて真似してみたり、という方も多いと思います。しかし、考えて練習することで何倍も効率よく上達することができますので、その方法を紹介します。 ある曲を弾けるようになりたいと思ったら、3方向から練習してみましょう。 ・基礎練習 ・部分練習 ・曲の理解 の3つです。

効果的な基礎練習を探す、身体と向き合う

1つめの「基礎練習」は、スケール(音階)やアルペジオ(分散和音)といった基礎的な技術を取り出して、それをバランスよく弾く練習です。機械的な練習も多く、ごまかしが効かないためピアノの実力が問われる練習です。

この基礎練習は単純な指の運動のようですが、実際はかなり頭を使う必要があります。弾きたい曲と自分の得意・不得意を見極めて、最も効果的な基礎練習を探すところから始まり、自分の身体の動かし方と向き合って、どのように修正していくかを考えて実践することが大切です。また、機械的な練習を続けているときには常に「身体を柔軟にする」ということを忘れないようにしましょう。

ピアノ上級の方でも「最も効果的な基礎練習を探すこと」「自分の身体と向き合うこと」の両方とも一人ではなかなか難しいものです。信頼できるピアノの先生に習って見てもらうことをおすすめします。

正しい音を何度も弾き直すのは「非効率な練習」

2つめの「部分練習」は曲の中から弾きづらい部分や、洗練させたい部分を取り出して練習することです。この練習はピアノを弾く方なら普段から行っていると思いますが、大切なのは取り出し方です。

よく見る非効率な練習は、間違った音が正しい音になるまで、あるいは正しい音を何度も弾きなおすことです。ピアノによる吃音ですね。音楽は一音だけで成立するものではなく、前後の関係や、フレーズの流れがとても大切です。最低でも2音は取り出して、その2音を繋げる練習をすることが大切です。また、2音を繋げる練習ができたら、3音、4音、と取り出すフレーズを長くしていきましょう。

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また、どうしても弾けない箇所はスピードをゆっくりにして弾く練習をします。このときも、音一つ一つに注目するというよりかは、「音と音を繋げるための動き」に注目して練習すると効果的です。それでもどうしても苦労する箇所があったときは、1つめの「基礎練習」で似たパターンをたくさん探して感覚をつかみましょう。

何も考えずに惰性で練習してもなかなか上達しないので、しっかり頭を使って練習することが大事です。

様々な視点で曲と向き合い、音の意味を理解する

3つめの「曲の理解」はミクロな視点では和音(コード)の流れを捉えたり、リズムのノリを掴んだりといったことになります。複雑な曲をゆっくりと練習していると、音の意味が分からず、結果どのように弾いてよいかもわからないということがよくあります。こうなってしまうと練習がはかどりません。効率的な練習をするためには、曲の理解が欠かせないのです。

さらに突き詰めていくと、歌詞がある場合はその内容を調べたり、作曲家の別の作品を見てみたり、色々なミュージシャンの演奏を聞いてみたり、と様々な視点から曲と向き合って、自分の理想の演奏を探していくことになります。曲の理解をしっかりすることによって、2つめの「部分練習」の取り出し方のヒントになります。

3つの練習方法は、それぞれが独立しているわけではなく、お互いを補強し合って続けていく必要があります。

理想の練習時間はどのくらい?

ここまで、練習方法に関して見てきましたが、実際に練習するとなったらどのくらいの量を練習すればよいのでしょうか。また、プロピアニストを目指している人は、どのくらいの練習量が必要なのでしょうか。

毎日15分でも十分上達できる

練習中の5分は意外と長い時間で、様々なことができます。音階練習に一回20秒かかったとしても15回することができるのが5分という時間です。5分間「基礎練習」、5分間「部分練習」、5分間「曲の理解」と練習をしたら相当充実した練習となるでしょう。趣味でピアノをされている方は、多くても4~5曲を同時に練習するにとどめておけば、1時間もあれば全ての曲でしっかり上達することができます。あとは練習ではなく遊びと思って曲を通して弾いてみたり、過去に弾いた曲を取り出して弾いてみたり、とするとモチベーションを保ちつつ、楽しくしっかり上達することができるでしょう。

「1万時間の法則」は本当?

趣味ではなく、プロを目指すための練習量はどれほど必要かを考えてみましょう。 「その分野で卓越した能力を持つためには1万時間の計画的な練習が必要である」という説があります。「1万時間の法則」と呼ばれる賛否両論ある説ですが、これは本当なのでしょうか。

筆者はこれまでに1万時間を遥かに超える練習をしてきていますが、それでもピアニストの友人達と比較すると練習量の足りなさを感じていました。少なくとも一流のピアニストを目指すのに、1万時間の練習では全く足りないという肌感覚があります。一方で筆者の場合は練習を闇雲にしていた時期が長かったこともあり、効率的な練習は5000時間程度しか出来ていなかったと思います。あと5000時間ほど効率の良い練習ができれば理想とするピアニストになれそうだな、と思うこともあり、そういう意味では「1万時間の計画的な練習」というのは良い指標かもしれません。

また、ピアノの前に向かって練習するだけではなく、たくさんのピアニストの演奏を聴いたり、友達と演奏を聴きあったり、音楽理論を学んだり、旅行をして見聞を広めたり、様々な文化に触れて、幅広い視野と柔軟な考えを持つことが大切です。

1万時間の練習をしなければ!と思うのではなく、勉強も遊びも練習も本気で取り組み、常に考えることを放棄しない姿勢を持っていれば、練習時間も気付いたら1万時間を超えているでしょうし、一流のピアニストへの道筋が開けてくると思います。もちろん誰にでもできることではありませんが、これが自然にできることを「才能」と呼ぶことができるでしょう。(作曲家、即興演奏家・榎政則)

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 榎政則(えのき・まさのり) 作曲家、即興演奏家。麻布高校を卒業後、東京藝大作曲科を経てフランスに留学。パリ国立高等音楽院音楽書法科修士課程を卒業後、鍵盤即興科修士課程を首席で卒業。2016年よりパリの主要文化施設であるシネマテーク・フランセーズなどで無声映画の伴奏員を務める。現在は日本でフォニム・ミュージックのピアノ講座の講師を務めるほか、作曲家・即興演奏家として幅広く活動。

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