それiDeCoとNISAのほうがメリットありますよ−−FPが出会った勘違い事例3つ

iDeCoとNISAの認知度も高まり、ご自身でも活用しようという方が増えてきました。さまざまな活用法がありますが、用途が限定的だと勘違いしていて、「それ、iDeCoやNISAを使ったほうがメリットありますよ!」というケースも。

ファイナンシャルプランナーの筆者が、実際に出会った事例を3つ、具体的な金額を交えて紹介します。


「教育資金なら学資保険」の勘違い

林さんご夫婦は、婚活アプリで知り合ってゴールイン。ご主人は43歳、奥様は39歳でお子さんが産まれました。できれば年子でもう一人お子さんが欲しい、とのことです。

さて、ファイナンシャルプランナーの元へやってきた理由は、教育資金の相談でした。長らく独身生活を謳歌してきたことも影響してか、お互い貯金は苦手。給与は家賃、食費、交際費などいつの間にかなくなっていて、奇跡的に残ったお金も結婚式と新居に蒸発してしまったと言います。

とはいえ、親になったのですから、これからはお金を貯めようと決意。まずはネットで情報収集を始めました。そこでお子さんの教育資金として、約1,000万円必要だとわかり、学資保険に入ろうとしたところ、またまたネットで学資保険は元本割れするという情報があり、どうしたらいいのか分からなくなったと言います。

学資保険とは、実に良いネーミングだと筆者も感心するのですが、親が子どもの教育資金作りのために、昭和の時代からよく利用されている保険商品のことです。子どもが大学に入学する時期を満期に定め、お金を積み立てていきます。保険ですから、積立の途中で契約者が亡くなっても、その後は保険料を負担することなく、予定通り満期金が受け取れます。なにがあってもしっかり進学資金が貯められるのが特徴です。

平成初期までは、学資保険も予定利率と呼ばれる、保険でいう金利のようなものが高かったので、教育資金作りとしてもメリットがあったのですが、日本全体が低金利時代に突入したので現在では保険費用がかかる分、満期金が支払った保険料を下回る元本割れも起こるようになっています。

「じゃあ、どうしたらいいのでしょうか?」という質問に対しての筆者の答えは「iDeCo」でした。iDeCoは老後資金とみなさん思っていらっしゃいますが、林さんのように40代で子どもさんをもたれた方にとっては、教育資金作りとして最適なのです。

現在43歳の林さん、お子さんが大学進学をする頃は、ちょうど60歳です。掛金は所得控除、運用益非課税、受け取り時も退職所得控除を利用すれば、林さんのケースでは680万円まで非課税で受け取りできますから、この仕組みを有効に使わないのはもったいないのです。

仮に月々23,000円を6%で運用できれば、60歳時点の残高は800万円を超えてきます。先ほどの退職所得控除680万円を120万円ほど上回りますが、課税対象はその半分、さらに分離課税が使えますから、所得税の支払は3万円程度です。

さらに、掛金に対する税のメリットは17年間で100万円ほどになりますから、これを塾の費用などにあてるために、定期預金にしておくこともお勧めです。

「金利上昇に備えた繰り上げ返済準備」の勘違い

念願のマイホームを手に入れた松本さんご夫婦。真面目な性格で、住宅ローンの勉強に余念がありません。38歳で35年ローンを組んだのですから、完済は73歳です。自分が年を取るころには、65歳まで働くのが当たり前になるだろうと見込んでいますが、さすがに73歳までは働いていないと思うので、繰り上げ返済をしながら、早めの完済を目指したいそうです。

気になるのが今後の金利上昇です。なにしろ、5,000万円もの大金をすべて変動金利で借りていますから、「いよいよ金利上昇か!?」といった動画サイトをしょっちゅう見てしまいます。思い切って買ったマイホームですが、金利上昇で返済ができなくなるなんて事態はなんとか避けたい、とご相談にいらっしゃいました。

さっそく家計収支を拝見すると、新生活で家計が膨らみがちなところもぎゅっと引き締め、毎月5万円ずつ積み立て預金をされています。住宅ローンの支払の傍らの貯蓄はなかなか立派です。

これだけの金額を家計から捻出できるのであれば、もう少し住宅ローンの支払い額を増やし、完済年齢を引き上げることもできそうですが、手元資金に余裕がないこともあり、主に繰り上げ返済をする目的の貯蓄としているそうです。

住宅ローンの返済額の内訳は、最初の内は利息分が多くなかなか元本が減っていかないものなので、全額を元本の支払に充てる繰り上げ返済は、なるべく早い時期に実行した方がメリットがあります。ライフプランを立てた上で、具体的な繰り上げの計画を立てることが賢明です。

さて、筆者は松本さんがせっせと積み立て預金をしていることが気になりました。銀行預金なので、金利はほぼつかないのに、「将来の金利上昇に備えて」積み立てているのは、矛盾しています。ここはやはり、預金ではなくNISAでしょう。

住宅ローンは安い変動金利で借りているとはいえ、預金金利で得られる利息より、支払う金利の方が高い状態です。これでは、預金しているだけでお金の価値がめべりしますから、むしろローンの支払に充てた方がお金の使い道としては合理的です。

とはいえ、まだ手元においておきたいというのであれば、住宅ローン金利を上回る運用益が狙えるNISAでつみたてた方がよいでしょう。今までのつみたてNISAは年間40万円までしかできませんが、2024年になれば積み立て可能な枠が年間360万円へと拡大する予定です。世界の株式市場へ投資する投資信託などを利用し、しっかり運用を行っていきたいところです。

「貯金が苦手なら保険で投資」の勘違い

契約した保険商品が、どうも思っていたものと違うような気がする、とおっしゃってご相談に来られた川口さん。そろそろ50歳の大台となり、お一人様なので老後が不安、お金を貯めたいと言います。

とはいえ、投資はなんとなく怖いし、知識もないので誰かにお任せできるのであればその方がいいし、面倒なことは避けたいとも考えています。

そんな中、お勧めされたのが変額保険と言われる商品でした。月々保険料を納めると、そのお金が運用され、65歳になったら増えたお金が受け取れるそうです。万が一亡くなったら、保険としてお金がおりるので損はないと考えました。しかも払込保険料は、年末調整の時に申請すると税金が戻るし、受け取る際も税金が得すると言われ、ものすごく良い商品だと考えました。

決め手は、営業マンに言われた一言、「貯蓄が苦手な人でも、保険なら貯めやすいですよ」でした。落ち着いて考えると、なぜ保険なら貯めやすいのかよく分からないけれど、その時は魔法の言葉のように、これで将来は安泰と思ったそうです。

そこまでして始めた商品でしたが、1年経過してふと書類をみたら、10年以内に解約すると必ずマイナスになること、仮に運用実績が0%であれば、満期時のお金は払い込んだ金額を下回るという説明が書いてあり疑問を抱いたそうです。

変額保険は、内蔵されている投資信託で運用が行われます。保険なので、万が一亡くなった際に払込金額分、あるいは基本保険金が保証されるので、安心感があり人気です。しかし当然ながら、その保険としての機能にコストがかかります。

川口さんは、万が一亡くなっても経済的に困る方はいないとのことですから、死亡保障は不要です。なんとなく、保険という言葉から元本保証のイメージを持たれていましたが、運用がうまくいかなければ、満期保険金が払込保険料を下回ることもあります。

保険料が生命保険料控除になることをメリットと聞いていたので、実際どのくらいメリットがあるのかお示ししました。川口さんは月2万円の積み立てをしているのですが、そのうち控除の対象となるのは4万円です。従って年収600万円の川口さんであれば、税のメリットは4,000円です。さらに住民税の控除対象額は28,000円なので、翌年の税のメリットは2,800円となります。

同じ老後資金のために運用するのであれば、iDeCoの方が税のメリットは大きくなります。所得税も住民税も掛金全額が控除ですから、年間24万円の掛金に対する税のメリットは、所得税が24,000円、住民税が24,000円、合計48,000となります。

中途換金についてはどうでしょうか?

iDeCoは60歳まで引き出しはできませんから、変額保険の方がメリットはありますが、10年以内の中途換金では、手数料が発生するため払い込んだ金額を下回ります。例えばNISAであれば、いつでも売却をすることが可能です。払い出せる金額は運用次第ですが、変額保険のように、解約時の手数料がありませんから、増えていれば増えた分だけ利益を得ます。

変額保険は受け取りの際に、一時所得となる点もメリットとして伝えられていました。一時所得は利益から50万円の特別控除を差し引き、さらに2分の1をした後総合課税となりますので、確かに税は優遇されていると言えます。しかしiDeCoであれば、退職所得控除や公的年金等控除が使えますし、NISAは非課税ですから、どんなに利益が出ても一切税金がかかりません。特に来年から始まる予定の新NISAは、期間をもうけず非課税ですから、やはり「変額保険だからお金が貯まる」というのは強調しすぎた営業トークといえるでしょう。

常に比較検討を

今回は3つの事例を紹介しましたが、お金を貯める手段はいろいろあるので、いくつかの方法を比較検討することを心がけましょう。金融機関から商品を提案される際は、「国の制度であるiDeCoやNISAではなく、なぜその商品なのか?」と問いかけをしてみるのもいいでしょう。

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